大山の名水でトラフグ養殖 「新たな特産品に」
「陸上養殖したトラフグを新たな特産にしたい」と話す増田紳哉さん=2023年11月15日午後1時38分、鳥取県米子市、渡辺翔太郎撮影
大山のふもとで湧き出る地下水と、温泉の排湯を利用したトラフグの陸上養殖が今秋、鳥取県米子市で始まった。関係者は「山陰でトラフグの陸上養殖は初めてでは。新たな地域の特産にしたい」と意気込む。
「陸上養殖したトラフグを新たな特産にしたい」と話す増田紳哉さん=2023年11月15日午後1時38分、鳥取県米子市、渡辺翔太郎撮影
2年あまり前、米子市淀江町にある温泉施設に隣接する農産物直売所が閉店した。「いろいろ考えるけど、おもしろいアイデアが浮かんでこない」と、米子市で地域活性化などに携わる一般社団法人「G・B」から施設の有効活用について相談を受けたのが、元鳥取県水産試験場長の増田紳哉さん(72)だ。
「元水産屋」という増田さんには、ピンとくるものがあった。それが、トラフグの陸上養殖だった。
トラフグの陸上養殖の技術は、国内でほぼ確立している。しかも活用する施設は、温泉施設のすぐ隣。源泉掛け流しで、40度ほどのお湯が常に流れ出ている。さらに敷地内の井戸からは、一年を通して水温15度ほどの水が湧き出ている。
この排湯と地下水を利用すれば、エコに水槽の水温を調整できる。そしてトラフグなら単価が高いので、大規模な養殖でなくても採算が取れる。昨春、陸上養殖計画が動き出した。
ただ、すんなり進展したわけではなかった。当初あてにしていた国の補助金は、「1次産業には出せない」「漁協などが主体なら出せるが……」などと断られ、いったん計画は中断。だが、今春になって、岐阜県内で陸上養殖の設備などを扱う会社から中古水槽などを安く譲ってもらうことができることになり、再び計画は進んだ。
今夏には施設内に直径3メートルほどの飼育水槽を設置。冬場は排湯の熱で水槽を温め、夏は地下水で冷やせるようにした。塩分などを加えた地下水でトラフグを飼育。1週間おきに水を替え、古い水はトラックで運び、漁協の了解を得たうえで海に流している。
10月、増田さんは「G・B」の事業部長になり、現在は二つの水槽で体長30センチほどのトラフグ200匹を飼育している。来年1月中ごろから、隣接する温泉施設「淀江ゆめ温泉」のレストランで提供される予定だ。
増田さんによると、島根半島にある縄文時代の遺跡からは、トラフグの歯などが大量に発見されており、米子市などが面している美保湾は、かつてトラフグの一大産卵場だったという。
今はまだ本格的な陸上養殖のノウハウの蓄積段階だが、増田さんは「この一帯にはかつてトラフグを食べる習慣があり、トラフグの陸上養殖は、食文化の復興にもつながる。トラフグを、この地域の新たな特産にしたい」と話している。(渡辺翔太郎)