宮脇咲良に「プロではない」「レベルを下げている」と厳しい声も…なぜLE SSERAFIMは韓国でこれほど批判されているのか〈現地記者が解説〉
米カリフォルニア州のコーチェラ・バレーで開催される「コーチェラ・ミュージックフェスティバル」は、その年の最もホットで影響力のあるアーティストが総出演する世界最大級の音楽フェスティバルだ。韓国では2019年にBLACKPINKがK-POPアーティストとして初めてコーチェラに出演し、世界的な人気獲得に至る大きなきっかけとなった。そのため、K-POPアーティストの間では“夢の舞台”と呼ばれている。
今年はデビューから2年にも満たないLE SSERAFIM(ルセラフィム)が“夢の舞台”に招待され、「K-POPアーティストの中でデビュー後最短期間でコーチェラ出演を果たす」と話題を集めていた。ただ韓国では、彼女たちのパフォーマンス後、歌唱力に対する批判がふくらみ、「早すぎる出演が、実力不足を決定づけるダメ押しとなった」という厳しい評価も聞こえている。
LE SSERAFIM。(左から)キム・チェウォン、サクラ、カズハ、ホ・ユンジン、ホン・ウンチェ ©時事通信社
40分間のステージを海外メディアは称賛
米現地時間で13日の夜、LE SSERAFIMはコーチェラのサブステージの中で最も規模が大きい「サハラステージ」で約40分間、K-POPガールズグループらしい情熱的なパフォーマンスを披露した。彼女たちのコンセプトでもある「毒気(トッキ)」(必死さや、渾身の力を尽くすというような意味)で充満したステージは観衆を魅了し、現場では「テチャン」(観客の合唱)が鳴り響くなど、アーティストと観客が一体となる盛り上がりを見せていた。
実際、現地取材をしていた海外メディアも賛辞を送っている。米国の音楽雑誌『Billboard』は、LE SSERAFIMのパフォーマンスを「コーチェラ2日目の中で最高の瞬間の一つ」に挙げ、「LE SSERAFIMは大規模な舞台で情熱的なパフォーマンスを披露し、10曲のセットリストの間、ずっと観客を沸かせていた」と現地の雰囲気を伝えた。
イギリスの音楽専門誌の『New Musical Express』(NME)は「LE SSERAFIMは40分でサハラステージを自分たちのものにした」と絶賛した。他にも『MTV UK』は公式SNSアカウントに現場の写真を投稿し、「LE SSERAFIMは勝利に向かって一直線だ!」と評価した。
ところが、韓国では彼女たちのパフォーマンスに対する非難があふれ出た。YouTubeで公演を見ていたK-POPファンが、LE SSERAFIMの歌唱力を問題視したためだ。
「まったく聞こえない」「国家の恥さらしだ」
YouTubeに投稿されたLE SSERAFIMのステージ動画のコメント欄には、韓国ファンからの厳しい言葉がいくつも並んだ。
〈「息は切れるし、声は震えるし、音程も不安定だ」
「バンドの音に埋もれてしまって、歌っている声はまったく聞こえない」
「歌手が歌を歌えないと、ダンサーと何が違うのか?」〉
その後、彼女たちの約40分間の公演の中で特に歌声が不安定だった部分だけを編集したショート動画がSNSを中心に広がり、韓国のインターネット・コミュニティには非難のコメントが殺到した。
〈「歌を歌っているのではなく、怒鳴りつけるばかりだね」
「このグループはK-POP全体に迷惑をかけている」
「ある瞬間からK-POP界に毒が入った。顔がかわいいことだけがすべてになってしまった」
「最短記録での出演というタイトルがかかっているから、(事務所は)準備もできていない子たちを送り出したようだ」
「国家の恥さらしだ」〉
地上波ニュースでも取り上げられた
インターネット上でLE SSERAFIMの動画が拡散されると、大手メディアも加勢し、彼女たちは一瞬にして集中砲火を浴びることになった。地上波のMBCとSBSは朝のニュースでLE SSERAFIMへ批判が集まっていることを報じ、ニュース専門チャンネルのYTNは一日中、LE SSERAFIMのニュースを繰り返し流した。
芸能ニュース専門のネットメディアでは、「治療が必要な音痴のステージ」(スポーツ東亜)、「下手なライブで実力がバレてしまった」(My Daily)、「惨事に近いライブだった」(Joy News24)など酷評の嵐だった。
メンバーのサクラ(宮脇咲良)は、殺到する批判の声に意気消沈しているであろうファンを慮ってか、ファン向けのプラットフォーム「Weverse」に日本語で長文のコメントを掲載した。
彼女は「コーチェラの準備から、ステージ当日までの間に、沢山のことを学びました」とし、「誰かの目には、未熟かもしれない。でも誰にとっても完璧な人なんていなくて、私たちが見せてきたステージの中で、最高のステージだったことは、揺るぎない事実です」と心境を打ち明けた。
サクラの投稿に対しても向けられた“批判”
だが、この投稿はまたも批判された。韓国のネットユーザーたちからは「『頑張りました』で終えてしまえば、それはプロではない」「まさに日本的な精神論ではないか。頑張ったし、本気だったって? 誰もそれを否定していない。だが、あまりにも歌がヘタだった」などの攻撃的なコメントが相次いだ。
こうしたネットの声を受けてか、韓国メディア『スポーツ京郷』は「サクラの投稿で、(LE SSERAFIMのみならずK-POPグループに属する)日本人メンバーに対する否定論まで広がっている」と分析。『世界日報』のネット版では、LE SSERAFIMのサクラやカズハだけでなく、今年デビューしたばかりの5人組ガールズグループ・ILLIT(アイリット)のモカの歌唱力まで問題視し、「日本人メンバーがK-POPのレベルを下げているのではないかという不満の声まで出ている状況だ」と述べた。
これまでにも歌唱力を批判されるアーティストはいたが…
欧米からの称賛とは異なり、韓国のK-POPファンとメディアがLE SSERAFIMの舞台に対して厳しく批判している理由について、文化コンテンツ学を専門とするキム・ホンシク中源大学教授は次のように説明する。
「韓国ではK-POPアーティストを評価する際、歌唱力に重点を置きます。歌唱の際に若干ミスをしたり音程に不安定な部分があると、すぐ問題視されるのです。2019年にBLACKPINKが、2022年にaespa(エスパ)が、それぞれコーチェラに出演した際にも少なからず歌唱力を指摘する声がありました。
ただ、今回のLE SSERAFIMのパフォーマンスの残念な点は、ステージの経験不足がそのまま現れたということでした。40分間で10曲を踊りながら歌うというのはとても難しいことですし、LE SSERAFIMはエネルギッシュなパフォーマンスが特徴ですから、例えば振り付けが激しくない曲を前半に披露するなど、40分間ずっと体力を維持できるよう調整するなどの工夫が必要だったと思います。
アーティスト本人たちよりも、企画会社や所属事務所が気を使わなければならない部分ですが、こうした問題も重なり、今回の出演自体に対して非難の目が向いているのではないでしょうか」
2回目のステージは安定していたが…
米時間の20日に行われた2回目のステージでは、LE SSERAFIMは最初のステージに比べて安定したライブを披露。無事にコーチェラデビューの舞台を終えたかに見えた。ただ、1回目のステージとは異なり、ライブAR(All Recorded=事前にライブバージョンで録音しておいた音源)の音量が大きくなっていたとして、ネットでは再び炎上。メディアの評価も分かれた。
LE SSERAFIMがこれほど多くの批判を受ける理由
大衆文化評論家のイ・テジュ氏は、「LE SSERAFIMには以前から歌唱力に対して疑問符がついており、今回のステージを通じてその批判が噴出したのではないか」と語る。
「最近はほとんどのアーティストがARを使用するため、歌唱力があるかどうかが大きな問題ではないとも言われています。ただ、ARを活用するとしても、ARそのものがメインとなるステージ(=リップシンク、口パク)と、一部だけ活用するにとどめるステージとは大きな差がある。LE SSERAFIMは『前者に近い』という指摘を受けています。
他のグループに比べてLE SSERAFIMがこれほど多くの批判を受けているのは、以前から『歌唱力が不安定だ』と問題視されていたからではないでしょうか。K-POP界ではアイドルに対してもかなり高いレベルのパフォーマンス力を要求しており、歌唱力を備えていないグループは単なるパフォーマーに過ぎないと批判されてしまうのです」
一方、大衆音楽評論家のファン・ソノプ氏は、「K-POPは歌唱力だけで評価されるカテゴリーではない」との見解を示す。
「歌唱力の他にも、パフォーマンスの完成度、ステージで魅せる力、メンバー同士のバランスなどもK-POPの重要な要素であり、何より観客が楽しめるということが一番良いステージだと思います。そのような観点から見れば、LE SSERAFIMの1回目のステージは、彼女たちが準備したすべてのものを注ぎ込み、観客を楽しませるという自信やエナジーが感じられる、迫力あふれるものだったと思います。個人的には安定感があり無難に行われた2回目のステージより、1回目の方が楽しめました」
また、ファン・ソノプ氏はLE SSERAFIMへの批判が韓国でヒートアップしている理由について、「韓国人はK-POPを国が誇る文化として考えているため、高いレベルを維持することにプライドがある」という点に加えて、「LE SSERAFIMが属する“第4世代ガールズグループ”は競争が激しいので、他のグループのファンたちが煽っている面もあるのでは」と解説する。
音楽を楽しむ祭りの場であるコーチェラだが、韓国のK-POPシーンでは、まるでオリンピック競技のように優劣をつける場として認識されている。K-POPアーティストたちにとって、コーチェラは夢を掴むための大きなチャンスである一方で、実力を厳しく評価される試験場にもなりつつあるのだ。
(金 敬哲)