<社説>米中の月探査 宇宙に「分断」広げるな
<社説>米中の月探査 宇宙に「分断」広げるな
米国の宇宙企業スペースXとボーイングが宇宙船の飛行試験で成果を上げた。一方、中国の無人月面探査機「嫦娥(じょうが)6号」は初めて月の裏側で土壌サンプルの採取に成功、6月末に帰還する見通しだ。米中の月探査競争は激しさを増すが、国際協調による宇宙の平和利用こそ実現したい。
米国は「アルテミス計画」、中国は「国際月面研究ステーション(ILRS)計画」をそれぞれ主導し、2030年代に月面基地の完成を目指す。各国はいずれかの計画に加わり、米中覇権争いが宇宙にも波及しかねない情勢だ。
アルテミス計画には日本やインド、欧州各国など40カ国が参加する予定。26年にも再び人類を月面に送り、28年には日本人宇宙飛行士が初めて月に降り立つ可能性がある。トヨタ自動車が探査車「ルナクルーザー」の開発を急ぐなど日本企業も重要な役割を担う。
一方、中国とロシアがリードするILRS計画には現時点で南アフリカやパキスタン、タイなど11カ国が加わる。中国は嫦娥6号の成果を弾みに、30年までに有人着陸を成功させ、35年までには月面基地の基礎になる研究ステーションを造る構想を描く。
中国が地球から直接交信できない月の裏側に探査機を着陸させたのは19年に続き2回目。今回はより高度なミッションで、砂や岩石などの採取を果たした。
ILRSは水資源があるとみられる月の南極に研究基地の建設を計画。核融合燃料として期待されるヘリウム3、アルミニウムやチタンなど建材になる金属もあり、探査地点が競合しかねない。
月探査を巡る二つの陣営で競争が激化すれば多額の費用を要し、地球温暖化対策などに充てる資金が不足しかねない。人類が共通して直面する緊急課題には取り組まず、宇宙空間にまで分断を広げるべきではないだろう。
30年までの運用延長が決まった国際宇宙ステーション(ISS)は1998年から米国とロシア、日本、欧州が共同作業を続け、大きな実績を残した。人類が学ぶべき教訓ではないか。
【関連記事】"<社説>改正農業基本法 輸入依存は続かない
【関連記事】"<社説>週のはじめに考える 性差別なき職場への道
【関連記事】"<社説>日銀の金融政策 物価の番人に回帰せよ