「先生、見捨てないで!」、1時間の説明後に「メールでください」 医師が疲弊する患者の“無茶ぶり”とは
医療現場で働き方改革が始まり、患者の対応で苦慮する医師も少なくないという。医師はどんなことに悩まされているのか。AERA 2024年6月17日号から。
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患者から長々と話されても困りものだ。AERAは5月、医師向け情報サイト「MedPeer(メドピア)」の協力を得て、医師約700人にアンケートを取った。そこでも悩みが寄せられた。
「話が長い方がいる」(呼吸器内科、30代、女性)
「だらだらととめどなく話をしようとする」(皮膚科、40代、男性)
家庭医の細田俊樹医師(千葉県・あまが台ファミリークリニック院長、48)は言う。
「話が長くなりそうになると、『予約時間が後ろ倒しになるな』と医師はプレッシャーになるものです。どのくらいの患者さんを一人の医師で診察するのかによりますが、内科のクリニックなら通常長くても1人あたり10~15分くらいが目安ですから、それ以上長くなりそうなときは、『すみませんが』と区切ります。本来は患者さんの生活背景なども聞きたいのですが、初診で時間がなくても、何度も診察をしていけばコミュニケーションが取れるようになります」
患者にできることは? 細田医師によると、事前に聞きたいことをまとめておくと、限られた時間で、医師が話を聞きやすい。診察終了後に、「あの、もうひとつ聞きたいことが……」と言われても、次の患者もいるので、対応しきれないという。
症状の経過をまとめておくのもいい。いつから始まり、どんどん悪化しているのか。よくなっているのか。どんなときに悪化するのか。どんなときに改善するのか。また、鈍い痛みなど痛みの性質、痛みの重症度も事前に考えておこう。
不安や心配、「昨日食べ過ぎたせいかも」といった思い当たる原因もメモしておこう。皮膚疾患であれば、写真を撮っておく。経過をもとに診断できる。
待っている患者がたくさんいるなら、患者同士が譲り合うのも大切だろう。
■先生、見捨てないで!
アンケートでは、「外来での待ち時間の苦情が多いです」(一般内科、30代、男性)という声も多数寄せられた。
医師の世界では過重労働が問題視されており、4月から医師の働き方改革が始まった。時間外労働に制約はできたが、患者の数は変わらない。特に大学病院は外来患者が集中しているため、紹介状を持たない患者から特別料金を徴収している。
ある大学病院で、外来患者を診察する医師は、取材にこう話す。
「症状が落ち着いているので、別の病院の外来で診てもらうように言うのですが、『先生、見捨てないで!』と言われました。心配なのはわかりますが、大病院志向は困ります」
頑固で医師の話を聞かない患者もいる。アンケートでもこんな声が寄せられた。
「患者さんがわがままになっている」(神経内科、40代、男性)
「モンスター」(一般内科、40代、男性)
心臓外科医の南淵(なぶち)明宏医師(昭和大学教授、66)は、30代の女性の患者に、1時間かけて説明した後、こう言われた。
「いま説明したことを、文章にして、メールでください」
南淵医師は言う。
「絵も描いてこれだけ説明したのに、今からまた時間をかけるのかと思いました。医師の働き方改革が始まって、病院の診察時間も短くなる傾向にあります。患者さんとしても限りある医療資源をうまく使うために、医師がどれくらいのコスト(時間と労力)をかけているか推し量ってほしいです」
結局、2時間以上の時間をかけて、メールを打った。最後に「他の病院に行かれてください」と書いて結んだ。
「患者さんに自制を促しているわけではありません。お互いのコストを考えて、無理な要求はやめてもらいたいです」(南淵医師)
患者も医師も、互いの状況を理解し、思いやることが肝心だ。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2024年6月17日号より抜粋