ロシア軍最新鋭の無線中継車に初損害 ウクライナ、ドローンで越境攻撃
ロシア軍最新鋭の無線中継車に初損害 ウクライナ、ドローンで越境攻撃
西側の多くの軍隊と違って、ロシア軍は長距離通信を常に衛星に頼れるわけではない。代わりに頼みにしているのが、大気圏の最も下(地表から高度十数kmまで)にある層で、水蒸気を大量に含む対流圏に地上から信号を跳ね返して行う無線通信だ。
この無線通信は特殊な中継車両に依存している。各車両は前線とさまざまな指揮拠点の間に数十〜数百km離れて配置され、対流圏に反射する微弱な信号を受信したり再送信したりしている。
これらの無線中継車はロシア軍にとって貴重で高価なリソースだ。13日かその少し前、ウクライナ特殊作戦軍がロシア軍の最新のR-416GMデジタル無線中継車を追跡し、自爆型のドローン(無人機)で破壊したのもそのためだ。特殊作戦軍がわざわざソーシャルメディアで戦果を祝したのも当然だろう。
ウクライナ国防省も「この戦争で初めて、ロシアの最新の移動式通信所であるR-416GMがウクライナ特殊作戦軍の(ドローン)操縦士によって破壊されました」と報告している。
もっとも、ウクライナの1000kmにおよぶ戦線やその近くに何十両も配備されているR-416GMを1両破壊しただけでは、ロシア軍の通信を大きく妨害することはできないだろう。だが今後、ウクライナ側がR-416GMや旧式のR-142、新型のR-419L1といった無線中継車をさらに多く発見し、破壊していくことができれば、ロシア側では指揮官との連絡が途絶し、混乱する戦闘部隊が出てくるかもしれない。
ロシア軍の無線中継車はたいそうなシステムである。冷戦後期の主力無線中継車だったR-142は、3.5t弱のGAZ-66軍用トラックに長距離無線装置を最大5基搭載し、要員最大5人が乗り込める。
数年前、ロシアの産業界はより新しい無線中継車であるR-419L1を開発した。軍用品などの輸出入を手がけるロシア国営企業ロソボロネクスポルトは、その信号の品質は「デジタルケーブルや光ファイバー通信回線と同等」と紹介している。
ロシア軍はウクライナで2022年2年に拡大した戦争の初期に、兵力集中の一環で、ほぼ新品のR-416GM数十両を含む無線中継車をウクライナ国内やその周辺に配備した。その後、R-419L1も多数投入している。
R-419L1はR-416GMよりも前線近くに置かれることが多く、発見もされやすかった。オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)分析サイト「オリックス(Oryx)」によると、戦争拡大後1年8カ月の間にロシア軍のR-419L1は3両の撃破が確認されている。
今回、戦争拡大から2年4カ月近くたって、ついにR-416GMが発見された。場所はウクライナとの国境から15kmほど離れたロシア南部クルスク州クレミャノエ付近だったと特定されている(編集注:クレミャノエは、ロシア軍がハルキウ方面への進撃と並行して威力偵察を行っていたウクライナ北東部スーミ方面と向かい合う場所に位置する)。
ウクライナ軍の監視ドローンが上空から見守るなか、特徴的な高いアンテナ塔を備え、偽装を施されたR-416GMに攻撃ドローンが突っ込んでいく。車両は炎上し、煙が上がる。
ウクライナ側がこのR-416GMをどうやって発見したのかは不明だ。熟練のドローン操縦士が膨大な監視映像を根気強く調べて見つけ出したのかもしれないし、情報部隊がロシア側の無線通信を探知し、それをたどって中継車両の位置を突き止めたのかもしれない。
多少の規律があれば、無線中継の要員は居場所をわかりにくくできるだろう。たとえば通信時間を制限したり、頻繁に移動したりすれば、ウクライナ側に車両の位置を追跡されにくくなると考えられる。
しかし、ロシア軍の通信部隊はそうした規律に欠けることがある。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、サム・クラニーエバンスとトーマス・ウィジントンは2022年3月の論考で「情報筋によると一部のロシア軍部隊は通信規律が緩いようだ」と指摘している。
攻撃を受けたR-416GMは、たんに要員の怠慢や無能ぶりによって位置がばれ、自爆ドローンの格好の目標にされてしまったのかもしれない。
(forbes.com 原文)