国境から150kmにある滑空爆弾攻撃機の「巣窟」、ウクライナの攻撃阻む米国の制約
国境から150kmにある滑空爆弾攻撃機の「巣窟」、ウクライナの攻撃阻む米国の制約
ウクライナとの国境から150kmかそこらしか離れていないロシア南部ボロネジ州のボロネジ・マリシェボ航空基地は、ウクライナにとってロシア国内の最重要の目標かもしれない。また、本来なら最も脆弱な目標でもあるかもしれない。
しかし現時点では、この基地はウクライナ軍の目標リストから外されているようだ。
ボロネジ・マリシェボ基地からは、ロシア空軍の第47親衛爆撃機航空連隊に所属するスホーイSu-34戦闘爆撃機が連日出撃し、ウクライナ軍の陣地やウクライナの都市に対して、強力な滑空爆弾を40kmかそれ以上離れた空域から発射している。
その被害は深刻だ。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは、Su-34が「国境近くの発射エリアに到達し、基地に帰還するには数分しかかからない」と説明する。また、ボロネジ・マリシェボ航空基地には「多数のジェット機が配備されているので、爆撃を同時に実施でき、一度にウクライナ領内の複数の目標を攻撃できる」とも解説している。
第47連隊には双発の超音速機であるSu-34が数十機配備されている。ロシア軍が保有するSu-34の現役機のうち、ほぼ半数がこの連隊に配備されている可能性がある。第47連隊のSu-34は、最近改修されたボロネジ・マリシェボ航空基地の駐機場に頻繁に屋外駐機されている。
これら駐機中のSu-34は、ウクライナ軍が保有する最も優れた遠距離攻撃兵器である米国製ATACMS弾道ミサイルの射程内にある。フロンテリジェンス・インサイトは、ウクライナがこの基地に対する攻撃を許可されれば「そこに配備されている作戦機群全体を無力化できる可能性がある」と言及している。
だが、ジョー・バイデン米政権はウクライナ政府に対して、ATACMSでボロネジ・マリシェボ航空基地を攻撃する許可をまだ与えていない。ロシア軍が1日におよそ100発使用し、ウクライナの軍人や民間人を殺害している滑空爆弾のかなりの割合は、この基地から出撃するSu-34から発射されているが、この不許可のせいでほぼ罰を免れている。
ウクライナ軍にはたしかに、ロシア空軍の滑空爆弾搭載機を阻止する別の方法もある。しかし、ボロネジ・マリシェボ航空基地から発進する航空機に対しては使われなかったり、使われても効果を上げていなかったりするのが現状だ。
選択肢のひとつは、爆撃機が滑空爆弾を発射する前に、パトリオット地対空ミサイルシステムで撃墜するというものだ。問題は、ウクライナ軍の最も優れた防空兵器であるパトリオットの数が、ウクライナの主要都市を守るのにすら足りていないということだ。つまり、ウクライナ軍には、保有するどれかのパトリオットを、第47連隊のSu-34を迎撃できるほど国境近くに展開させられる余裕がない。
ウクライナに配備中もしくは配備予定のパトリオットは、わずか5基だ。1基は首都キーウを守っている。現有の残り2基はそれぞれ南部のオデーサ、北東部のハルキウを守っているとみられる。追加で2基がドイツと米国から供与されることになっているが、まだ届いていない。届けば、それぞれ中部のドニプロと南部のクリビーリフの防御に振り向けられるかもしれない。
支援国からさらに多くのパトリオットが供与されない限り、ウクライナが保有するパトリオットを、ボロネジ・マリシェボ航空基地とハルキウの間の国境線付近に近づける危険を冒すことはないだろう。
今年3月、ウクライナ空軍は貴重なパトリオットをロシア側のドローン(無人機)に発見され、ミサイル攻撃で発射機2基を撃破される損害を出してもいる。フロンテリジェンス・インサイトは「ドローンが飽和した環境で、(ボロネジ・マリシェボ航空基地から出撃する)ジェット機をパトリオットで待ち伏せ攻撃しようとするのは大きなリスクをともなう」と指摘している。
ウクライナ空軍は、今後順次届くF-16戦闘機でロシア空軍の滑空爆弾搭載機に対抗する手もあるが、これも同様にリスクが高い。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、ジャスティン・ブロンクは最近の論考で「滑空爆弾攻撃の出撃機を着実に迎撃していくというのは相当難しいだろう」と予想している。
F-16に関して最大の問題は、ロシア側が地上に配備している防空兵器だ。そうした兵器のため、ウクライナ軍機が高高度を飛行するのは国内のほぼどの空域でもきわめて危険だが、前線から160kmくらいまではロシア軍のS-400地対空ミサイルシステムの射程内に十分入るのでとくに危険だ。
「前線近くでは、自機がロシア軍の何層もある【略】地対空ミサイルシステムに探知され、撃墜されるのを避けるため、ウクライナ軍のパイロットは非常に低い高度での飛行を余儀なくされるだろう」とブロンクは書いている。「これほど高度が低いと、(F-16などから発射される)ミサイルは空力抵抗が大きい高密度の空気の中からスタートし、目標が位置する高度に到達するために重力に逆らって上昇しなくてはならない」ので、射程が制限されることになる。
ウクライナは、長距離攻撃ドローンでならいつでもボロネジ・マリシェボ航空基地を狙えそうだ。実際、Su-34が配備されている別の2基地、ロシア南部クラスノダール地方のクショフスカヤ航空基地とロストフ州のモロゾフスク航空基地に対しては最近、ドローン攻撃を実行しており、スホーイ数機を損傷させるか撃破したとみられる。両基地ともウクライナ東部の前線から200km以上離れている。
ただ、どういうわけか、ボロネジ・マリシェボ航空基地はこれまで激しいドローンを受けていない。F-16にとっても難題になる厚い防空網に阻まれているのかもしれない。
ウクライナ側がボロネジ・マリシェボ航空基地を攻撃し、残忍な滑空爆弾作戦を鈍らせるには、やはりATACMSが最適だと考えられる。とはいえ、ウクライナはおそらく、米国から事前承認を受けていない目標にATACMSを用いて、今後の供給を危うくしようとはしないだろう。
だからウクライナは、この基地に対するATACMSでの攻撃が米国から近く認められるのを待ち望んでいるのだ。ウクライナ軍のあるドローン指揮官はワシントン・ポスト紙にこう吐露している。「ハルキウに向かって頭上を飛んでいくミサイルを見ながら、また誰かの家が破壊されるのだろうかと考えるのは苦痛です」
(forbes.com 原文)