一度は行ってみたい「日本一古いおでん屋」!? 創業180周年を迎える「たこ梅」が常に愛され続けたワケとは
●弘化元年から変わらぬ老舗の味とは
日本では伝統的に、古くから伝わる食事や料理が現代でもなお受け継がれています。そのうちの一つが「おでん」。
日本独自の食事であるおでんですが、その歴史は古く、日本人には時代を超えて愛されてきました。
【画像】「えっ…」これが現在のたこ梅店内の様子とおでんです(11枚)
そんななか、大阪には江戸時代から約180年続く、日本最古のおでん屋が存在します。
その店の名は「たこ梅」。たこ梅の誕生は弘化元年(1844年)。初代店主の岡田梅次郎氏が「たこ甘露煮」と「関東煮(おでん)」の店として創業しました。
昭和40年ごろのたこ梅本店
店名の由来は、当時「たこ」と呼ばれるカウンター形式の店であったことと、創業者の名前から梅をとって「たこ梅」という名前が誕生しました。
たこ梅の名物のひとつは「さえずり」です。さえずりとは鯨の舌のことで、刺身として食べるほか、おでんや鍋とも相性抜群なのですが、実は、このさえずりを初めておでんの種にしたのが、初代の梅次郎氏なのです。
梅次郎氏から始まり代々引き継がれながら、昭和25年に北店、昭和28年に分店が誕生し、たこ梅の味は大阪の地に強く根付いていきました。
文化人の常連も多く、織田作之助や開高健、池波正太郎、吉田健一など有名作家たちがよく店に訪れていて、作品のなかにも「たこ梅」が登場しているそうです。
しかし、多くの人たちに愛されていた一方、太平洋戦争による営業休止や、4代目店主と女将の逝去によって平成14年に一度閉店してしまったりと、歴史のなかで紆余曲折を経ています。
それでも、歴代店主をはじめ様々な人たちの力によって店の経営が続けられ、ついに2024年で180周年を迎えます。
そんな「たこ梅」が昔から変わらず守っているのが、「味」です。
創業からの名物である「たこ甘露煮」と「関東煮(かんとだき/おでん)は、昔からのやり方や手順を守って仕込みがされているそうです。
関東煮(おでん)の場合、鰹節でダシを引いて、そこに、さえずりを入れることで、独特の味わいが引き出されています。
「さえずり」とは、たこ梅の商標です。さえずりはひげ鯨の舌を何段もの工程をかけて仕込む必要があります。通常の店ではすでに加工したものを購入しており、「たこ梅」もかつてはそうしていました。
しかし、20年ほど前から、取り入れたさえずりの品質が悪くなったため、直接生の鯨の舌を仕入れて、1週間から10日ほどかけて自家製で作るようになったそうです。
また、お酒は お酒は昔のまま錫のタンポで湯煎で燗をつけ、錫の上燗コップで出すことにこだわっています。
温めた日本酒のことを燗と呼び、温度によって呼び方が変わるのですが、上燗は約45度まで温められているものを指します。
本来、「たこ梅」は上燗屋として誕生しました。お酒を美味しく提供するために、錫のたんぽで湯煎してじっくりと味わいを引き出しています。
そして、飲むためのコップも錫でできていて、中空になっているためお酒が冷めにくいようになっています。錫のたんぽと上燗のコップはなんと全て職人の手作りです。
また、お客さんからの注文があると、木でできた勘定札を置いていくのも、昔から変わらないスタイルとのこと。この勘定札も自家製で作られています。
このような昔から変わらぬこだわりについて、5代目店主である岡田哲生氏は、次のように話しました。
「味もそうですし、お酒を燗つけするとか、勘定に木札を使うのも、たこ梅という店の『設え(しつらえ)』として捉えていて、これを守ることで、お店の世界観を表現することになります。
これがたこ梅らしさ、たこ梅の雰囲気を生み出すひとつの要因となっていると思っています」
●店主もお客さんも世代を超えて「たこ梅」で繋がっている
たこ梅が180年もの歴史を積み重ねてきた背景には、通い続けるお客さんたちの存在があります。
いったいなぜ、「たこ梅」は愛され続けているのでしょうか?
前出の哲生氏は次のように話しています。
「たこ梅のお客さまに、どうして店に通っているのか?と尋ねると、関東煮(おでん)、たこ甘露煮や酒が美味しいからという答えが多く返ってきます。
もちろん、飲食店ですから、商品が美味しいのは当然だと思います。美味しいだけなら、ほかにも美味しいものもいくらでもあります。
その中で、当店にいらっしゃるのは、本質的に何があるのかというと、たこ甘露煮や関東煮、燗酒を召し上がって美味しいな、来てよかったなという体験をされているのだと思います」
さえずり、たこ甘露煮
このような体験のことを哲生氏は「人生がちょっと豊かになった」ということではないかと語っています。
「私どもは、『お客さんの人生がちょっと豊かになる』ということをたこ梅という商売を通してやっているのだと思います。
ですので、経営も、昔から続くことも新しく取り組むことも、それが『お客さんの人生をちょっと豊かにする』ことに役立っているかどうかを考えます。
その観点から常に考え、今も大事にすべきだしこれからも残していくものとして、昔からの味や設え、やり方を守っています。そして、「お客さんの人生がちょっと豊かになる」ということを考えて新たなことにも取り組んでいます」
新たな取り組みの例として、夏にビール工場見学、冬に酒造見学を行っているそうです。
お客さんのことを常に考え、サービスを提供している「たこ梅」ですが、実際に訪れている方たちからはどのような反響が寄せられているのでしょうか。
これについても、5代目哲生氏は次のように話しています。
「当店は、私で5代目ですが、一方でお客さまでも、世代を超えて通ってくださる方がいらっしゃいます。若いお客さまでよく『大阪に行くんやったら、たこ梅にいってこいとお父さんに言われてきました』と言う方がいらっしゃいます。
また、上司に連れられていらっしゃる会社員さんも多くお見えになります。
大阪出張に当たって上司から『今度、大阪出張ならたこ梅行っておいで』と言われたというお客様も多いです」
親や祖父母、上司に紹介されて訪れたという人が多いそうです。店主だけでなく、お客さんもまた、たこ梅の味を世代間で引き継いでいることがわかります。
他にも、グルメ雑誌やサイトを見て訪れる人や、最近ではインスタなどSNSに投稿されているのを見てやってきたという人も多いとのこと。
また、海外のお客さんも増えているそうです。
もちろん味の評価が高く、リピーターとして通う人や、なかには旅行に来た際に3日間とも「たこ梅」で食事をしたという人もいるそうです。
そんな「たこ梅」の人気メニューは、定番メニューである「さえずり」と「たこ甘露煮」です。
たこ甘露煮は、創業以来ずっと真蛸(マダコ)を代々受け継がれる出汁で焚き続けている、「たこ梅」の名物料理のひとつです。
この「たこ甘露煮」と「さえずり」は、それ目当てで訪れるお客さんが多いほどの人気メニューです。
その他にも、鯨大和煮、鯨すじどて、鯨かわぽん酢、鯨塩たん、鯨ゆっけ、ローストくじらなど、鯨メニューが充実しており、最近は、これらの鯨メニューも人気だそうです。
また、〆に食べる「しるかけご飯」(ご飯に関東煮のダシをかけたもの)も人気を博しています。
そして、季節ごとに変わるメニューもあるので、その時々でしか堪能できない味を楽しむこともできます。
たとえば、この先、夏になると7月下旬ころから1ヶ月くらいだけの「たこの子甘露煮」が登場します。
また、おでんでは夏のシーズンにかけて、季節ものの「冬瓜」「焼きナス」「水ナスしゃぶしゃぶ」などがおすすめだそうです。
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「日本一古いおでん屋」として知られる「たこ梅」は、定番料理の「さえずり」や「たこ甘露煮」、錫の上燗コップなど、昔から変わらない味を代々守る一方で、「お客さんの人生を豊かにする」ことを心がけてきました。
そんなたこ梅の経営理念が、お客さんに時代を超えて愛される秘訣となっているようです。