【W杯最終予選】日本の組み合わせがラッキーと言えるワケ
最終予選の組み分け
サッカーW杯アジア最終予選の組分けが決まった。
2次予選を勝ち抜いた18チームが6チームずつ3グループに分かれて戦い、各組上位2か国が自動的にW杯出場権を獲得。3位と4位になったチームもプレーオフを勝ち抜けばW杯出場が可能となる。次回大会から参加国が48か国に拡大されたため、アジア枠が広がり、最大で9か国がW杯に出場できる。
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組分け抽選会は6月27日にアジア・サッカー連盟(AFC)本部があるマレーシアのクアラルンプールで行われた。最新の「FIFA(国際サッカー連盟)ランキング」に基づいて実力下位のチームから順番に抽選が行われ、そして最後に上位3か国(日本、イラン、韓国)がそれぞれのグループに組み入れられた。
FIFAランキング17位の日本は、グループC。対戦相手は、ランキング順にオーストラリア(同23位)、サウジアラビア(同56位)、バーレーン(同81位)、中国(同88位)、インドネシア(同134位)だ。オーストラリアとサウジアラビアは前回2022年W杯出場国なので「厳しいグループ」という見方もあるが、僕はそれほど悪い組み合わせではないと思っている。
日本は、両国とは4年前のカタールW杯最終予選でも対戦しており、オーストラリアには2戦2勝。アウェーの試合では交代出場した三笘薫の2ゴールで勝利してW杯出場を決めた。サウジアラビアとは1勝1敗だったが、内容的には明らかに日本が上回っていた。
どちらもこれまで何度も戦ったことがある国だけに相手のやり方も分かっているし、相性は悪くない。日本のスタッフは現地の環境も熟知している。
僕が「このグループが楽」と思うのは、中東勢が2か国だけだからだ。
たとえば韓国はグループBに入ったが、この組は韓国以外はすべて中東諸国。だから、韓国は毎月のように中東までの長距離移動を強いられるのだ。アジア大陸は東西に大きく広がっており、日本や韓国と中東諸国の間には5~7時間の時差があるだけに負担は大きい。
また、グループBにはイラクが入っている。
1993年のアメリカW杯アジア予選戦での「ドーハの悲劇」はご記憶の方も多いだろうが、イラクは伝統的にサッカー強国だった。イラク戦争後の混乱でこのところ弱体化し、ホーム開催も不可能な状態が続いていたが、国内情勢の安定とともにサッカーも復活し、南部バスラ市には真新しい近代的なスタジアムも完成。今年1月のアジアカップでは日本にも勝利している。韓国も勢いのあるイラクには手を焼くことだろう。
Cグループの日程
その点、日本が入ったグループCは移動が楽だ。中国までは短距離移動ですむし、インドネシアやオーストラリアは距離的には遠いが、南北移動なので時差が少ない。
抽選会ではドロワーとして先日引退会見を行ったばかりの元日本代表FW岡崎慎司が登場。自らの手で日本のグループ分けを決めたが、かつて数々の貴重なゴールで日本の勝利に貢献してきた岡崎は、どうやら今回の抽選でも日本のために良い仕事をしたようだ。
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日程的に難しい試合になりそうなのは開幕2戦目、9月10日のバーレーンとのアウェー戦だ。
9月というと欧州各国のリーグが開幕した直後で、欧州で活躍する選手たちのコンディションが上がり切っていない。そんな状態で、選手たちはまず日本まで移動して9月5日に埼玉スタジアムで中国と戦い、直後にバーレーンまで移動しなければならないのだ。しかも、9月のバーレーンは気温40度以上の猛暑に見舞われる。ホームの中国戦を戦うメンバーと、バーレーンで起用するメンバーを分けて準備するなどの対策が必要かもしれない。
その後、10月10日にはサウジアラビアとのアウェー戦がある。最終予選前半にある中東でのアウェー2連戦を乗り切れれば予選突破が見えてくる。
「日本は楽なグループに入った」などと言うと、皆さんに怒られてしまうかもしれない。「W杯予選に楽な戦いなどない」といいうのは確かに“正論”だ。
もちろん、僕もそれぞれの試合が楽だとは思わない。
相手はランキング上位の日本に対してさまざまな対策を講じてくる。極端に守備を固めてくる国もあるかもしれないし、思い切ってロングボールを蹴り込んでくるかもしれない。そして、彼らは日本戦に向けて合宿を行って万全の準備をしてくる。
一方、日本の選手たちは各クラブで週末の試合を終えてから長距離移動を経て集合し、練習の時間もほとんどないまま木曜日の試合に臨まざるをえない。コンディションが良いわけがない。しかも、サッカーというのはきわめて番狂わせが起こりやすい競技なのだ(だからこそ、日本がW杯でドイツやスペインに勝つことができるのだ)。
だから、1つひとつの戦いが難しい試合になるのは間違いない。
だが、1つや2つ取りこぼしがあっても心配はご無用。対戦相手国同士も星のつぶし合いをするのだし、10試合のリーグ戦を行えば最終的には実力通りの順位に収斂(しゅうれん)していく。
アジアは強くなってきているのか
最近、解説者や評論家は口をそろえて「アジアも強くなっている」と言うが、本当なのだろうか?
僕はこの点についても懐疑的だ。
最近急成長しているのがインドネシアだ。数年前までタイやシンガポール、ベトナムの後塵を拝していたインドネシアだが、東南アジアから最終予選進出に成功したのはインドネシアだけとなった。
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旧宗主国であるオランダを中心に欧州にはインドネシア人コミュニティーが存在する。そうした、欧州生まれ、欧州育ちで欧州でプロとなった選手たちを代表に加えて強化しているのだ。だが、成長はどこまで続くのだろうか?
たとえば、インドネシアより一時代前に強化が進んでいたベトナムは、成長曲線が鈍化しており、中国との競り合いの末に最終予選進出を逃した。
中東地域でもそうだ。ある時期にUAEやオマーンが強くなったと思っても、しばらくすると頭打ちになる。そして、次の数年はヨルダンが強くなる……。そんなアップダウンの繰り返しなのだ。
「中進国(中所得国)の罠」という言葉を最近耳にすることが多い。貧しい国が経済発展を遂げて、国民1人当たりGDPが1万米ドルほどになると、そこで経済成長が停滞してしまう現象のこと。世界銀行のレポートで使われた概念である。
つまり、サッカーの世界でも同じような現象が起きているのだ。
代表チームをある程度まで強化することはできても、「中進国」の域を越えることは難しい。そのため、いつまでもアジア大陸における日本、韓国、サウジアラビア、イラン、オーストラリアの牙城を脅かす国が現われないのだ。
グループCの戦いで日本、オーストラリア、サウジアラビア以外が勝ち抜く可能性はほとんどない。