岸田首相、中南米と「世界を協調へ導く」 3カ国歴訪、中国を意識「経済的威圧は認められない」
岸田文雄首相はフランス、ブラジル、パラグアイの3カ国歴訪を終えた。ブラジル・サンパウロで4日午後(日本時間5日未明)に行った中南米政策に関するスピーチでは、日本は中南米と手を取り合い「世界を協調へと導く」と訴えた。今回の歴訪を通じて強調したのも「共に歩む」姿勢で、覇権主義的な行動で影響力を強める中国を意識した。
首相は政策スピーチで中国を念頭に「経済的圧力を背景に、特定の行動を強いる経済的威圧は到底認められない」と批判した。「債務のわな」についても「世界各地で問題視されている」と言及。途上国に多額の融資を行い、返済できなければ港湾施設などの重要インフラの権益を奪おうとする中国を牽制(けんせい)した。
また、「目標を共有するパートナーの存在」の重要性を強調した。20世紀初めにブラジルに最初の日本人移民が渡ったことなど日本と中南米の深い歴史を振り返り「この大陸には多くの日本人が流した汗がしみこんだ道が伸びている」と語った。投資・貿易の規模で勝る中国と異なり、技術協力や人材育成などを通じて「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国と歩調を合わせるというメッセージだ。
首相は4日(日本時間5日)にサンパウロで行った内外記者会見で、今回の歴訪にあたり「それぞれの国が抱える課題、事情に寄り添い、きめ細かく日本らしい協力を意識し多くの成果を挙げることができた」と述べた。3日(日本時間同)のブラジルのルラ大統領との会談ではアマゾン地域の熱帯雨林保護などルラ氏が熱心な気候変動分野での協力を約束した。
外務省幹部は「多くの中南米諸国は中国との経済関係を軽視できないが不安も持っている。日本は信頼できるパートナーだと思ってもらうことが大事だ」と語る。
グローバルサウスを重視する外交方針は、今回の歴訪で最初の訪問先となったフランスでも示された。首相は2日(日本時間同)、フランスの首都パリでの経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で議長として行った基調演説で「OECDが(新興・途上国の)成長・発展に向けた伴走者となるべく、寄り添うことが重要だ」と述べた。
ただ、ルラ氏が首相との共同記者発表で貿易・投資の拡大の主張に大半の時間を費やし、首相が強調した「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」には言及しないなど温度差もあった。
(サンパウロ 田中一世)