トヨタ最終利益、日本の製造業で過去最高を更新へ…8日の決算発表・3つの注目ポイント
2023年3月期連結決算について記者会見をするトヨタの佐藤恒治社長。(2023年5月10日、東京都中央区で)
トヨタ自動車は8日午後1時55分、2024年3月期連結決算(国際会計基準)を発表する。今年2月時点での同社の業績予想では、最終利益が前期比83・6%増の4兆5000億円と日本の製造業で過去最高を更新する見通し。強みを持つハイブリッド車(HV)の販売増や円安の追い風が利益を押し上げる。
一方、中国や東南アジアでは市場の減速感が強まり、グループ会社で相次ぐ認証不正などの影響も見逃せない。トヨタ決算の注目ポイントを、3つの観点でまとめた。
■ハイブリッド車好調
トヨタが4月下旬に公表した23年度(24年3月期)の生産・販売台数実績によると、トヨタ、レクサス両ブランドの販売台数は約1031万台と過去最高を更新し、初めて1000万台の大台を超えた。生産台数も過去最高だった。
生産・販売とも過去最高となった理由の一つが、北米や欧州を中心に競争力のあるハイブリッド車(HV)が売れたことだ。
過去数年にわたり世界的に拡大してきた電気自動車(EV)市場は現在、ブレーキがかかっている。政府の補助金縮小の動きや景気減速が影響し、世界の2大EVメーカーである米テスラと中国BYDの今年1~3月期販売台数は、テスラが約4年ぶりの前年同期割れ、BYDも伸び率が大幅に鈍化した。
代わって見直されているのが、ハイブリッド車(HV)だ。トヨタが23年度に販売した約1031万台のうち、電動車は385万台と4割に迫る。このうちHVは約355万台を占め、EVは約12万台にとどまった。
トヨタは、1997年の初代「プリウス」の発売以降、多くの車種にHVモデルを設定してきた。量産効果によってコストダウンも進み、収益を支える存在になっている。
同社によると、22年に発売した第5世代プリウスの製造原価は、初代と比べて6分の1に下がっている。また、北米のスポーツ用多目的車(SUV)の場合、1台あたりの利幅は、HVモデルがガソリンエンジンモデルより1割ほど高いという。トヨタは、HVが売れるほど利益が出る構造になっている。
■円安の追い風
急速に進んだ円安も、トヨタの利益を押し上げる。トヨタは今年2月時点で、24年3月期の業績の基準となる為替レートについて、前期より8円の円安・ドル高となる1ドル=143円を前提としていた。しかし、為替の円安傾向が続き、3月末時点では150円を超える水準で推移した。対ユーロでも円安に振れている。
円安は、輸入原材料の高騰などのマイナス要因もある一方、輸出製品の価格競争力を高める効果がある。トヨタの場合、ドルに対して1円の円安が約430億円、ユーロに対しては約100億円、営業利益を押し上げる効果がある。輸出企業の代表格で海外事業も大きいトヨタにとり、円安は追い風と言える。
4月下旬から5月上旬にかけて、為替市場では対ドルの円相場が150円~160円台で乱高下し、政府・日本銀行の為替介入も指摘されている。トヨタが24年3月期の決算と同時に発表する25年3月期の業績予想でどの程度の円安を織り込むかも焦点となる。
■余力づくり
トヨタグループでは、22年に日野自動車、23年にはダイハツ工業と豊田自動織機で、それぞれ燃費の検査や認証試験での不正が発覚した。一部車種の型式認証の取り消しにも発展し、トヨタブランドで販売する車の生産や販売にも影響が出ている。
グループで相次いだ不正を受け、今年2~3月にかけて行われたトヨタの春闘では生産・開発体制の見直しが主要なテーマとなった。労働組合からは、「目の前の仕事に忙殺され、仕事内容を振り返る余力がない」といった現場の実態が報告され、協議の結果、今後1年間は効率改善の数値目標を例外的に撤廃するなど、余力のある現場を目指すことで一致した。
トヨタの決算は毎年、原価改善の努力が利益の押し上げ要因となっている。23年3月期は資材高騰に悩まされたが、「カイゼン」の名で知られる部品メーカーと一体となった生産合理化努力などで2550億円の営業利益をひねり出した。
一方、25年3月期は部品メーカーに対しても労務費の上昇分を負担する方針を示すなど、サプライチェーン(供給網)全体で取引価格の適正化を進める考えだ。4~9月は原価改善に伴う値下げ要請は中小企業に求めず、大手も最小限にとどめるという。原価改善はトヨタのお家芸とも言われるが、トヨタ自身が余力づくりを掲げる中で業績予想にどの程度の原価改善効果を見込むか注目される。
■将来展望
自動車業界は「100年に一度の変革期」とされる。トヨタはガソリン車からHV、EV、燃料電池車(FCV)まで幅広く手がけるマルチパスウェイ(全方位)戦略を掲げ、研究開発費や設備投資額は上昇傾向にある。
さらには、「モビリティー・カンパニーへの変革」の旗印を掲げて静岡県の工場跡地で建設中の実証都市「ウーブン・シティ」の第一期建設も、今年中に完了する見通しだ。決算発表では、トヨタの経営陣からどのような将来展望が語られるかにも注目が集まる。