「テラジの健康が心配だ」パンチをもらいすぎた寺地拳四朗に英国人記者が忠告「統一戦よりフライ級に昇級して」防衛成功も評価は“D”
判定の末、防衛に成功した寺地拳四朗(32歳)。顔の傷が激闘を物語っている
寺地拳四朗(BMB)の戦い方は正しかったのか――。WBA、WBC世界ライトフライ級王者の寺地は1月23日、元WBA王者カルロス・カニサレス(ベネズエラ)と激闘の末に2-0判定勝ちを飾った。
両者がダウンを応酬し、フルに打ち合ったバトルは多くのファンを興奮させた。ただ、過去数戦は支配的な強さを見せていた寺地は厳しいダメージを負い、そのファイトスタイルに疑問を呈する声も少なからず挙がっている。
試合後、リングマガジンの元編集人であり、現在はスポーティングニュースで健筆を振るうイギリス人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。グレイ氏は軽量級、アジアのボクシングにも精通しており、その言葉には常に説得力がある。
以下、グレイ氏の一人語り。
早くも年間最高試合にノミネート?
寺地対カニサレス戦は素晴らしい内容の試合になりました。両者が熾烈な打撃戦を展開し、息もつかせぬスリリングな攻防でした。2024年はまだ始まったばかりですが、今戦はFight of the Year(年間最高試合)の候補に入るでしょう。
最後の2ラウンド、寺地が足を使い、その間はアクションに乏しくなったために、年間最高試合の受賞は叶わないかもしれません。それでもファンを興奮させる打ち合いだったことに変わりはありません。
カニサレスは知名度が示す以上に優れた選手であり、ビッグイベントのメインを張るのに相応の実力者でもありました。ダメージを受けても回復し、中盤にはもうスタミナ切れを起こしたようにも見えながら、最後まで戦い抜いたことに驚かされたのは私だけではないでしょう。敵地という厳しい状況の中で、勝利を目指したカニサレスの技量と闘志もリスペクトされて然るべきです。
私は114-113でカニサレスの勝ちと見ました。ただ、寺地の勝ちになったこと自体には何の不満もありません。本当に激しいミックスアップが続き、幾つかのラウンドは採点するのが極めて難しかったのですから。多くのクリーンヒットを打ち込み、ダウンも奪ったカニサレスの手が上がったとしても、寺地は文句が言えなかったはずです。
エキサイティングなバトルだったことはすでに述べてきた通りですが、私は今戦での寺地の戦いぶりに落胆させられたことを否定しません。打ち気に逸りすぎで、かなり被弾しました。寺地は統一王者であり、地元選手でもあります。多くのアドバンテージを持っている経験豊富なボクサーであるにもかかわらず、相手を深追いし過ぎたのです。
「通常の寺地ならば、もっとスマートに」
寺地はカニサレスを軽く見積もっていたのかもしれません。前に出て、容易に圧倒できると考えていたような戦い方でした。通常の寺地ならばもっとスマートにアウトボクシングし、カニサレスを追いかけさせることもできたはずです。
最後の2ラウンドのようなアウトボクシングをもっと早い段階からしていれば、カニサレスは敵地でポイントを奪われてはなるまいと序盤ラウンドから強引に仕掛けていたでしょう。そうすれば、挑戦者は必然的に多くのミスを犯し、寺地はカウンターを取れていたと思います。寺地はそれをやらなかったために、1〜10回まで不必要なパンチを浴び続けることになったのです。
今回の寺地を見ていて私が思い出したのは、元WBAスーパー、IBF世界スーパーウェルター級王者ジャレット・ハード(アメリカ)です。ハードはスーパーウェルター級では巨漢で、小柄な選手を相手に耐久力、サイズ、パワーを武器に押しまくるような戦い方をしていました。そのやり方で統一王者になったのですが、徐々に消耗していった印象があります。
ハードと同じく、サイズで上回っていたカニサレス戦の寺地も無闇にパンチを交換し合い、ダメージを蓄積しているように見えました。
寺地のパフォーマンスをA〜Eで採点するなら、Dをつけます。私はもともと寺地の大ファンであり、パウンド・フォー・パウンドでもトップ10にランクインする寸前だと見ていました。カニサレスを早いラウンドで下すようなことがあれば、PFPのランキング入りを強硬に主張していたかもしれません。ただ、最新の試合の出来が優れなかったのであれば、もうそれはできません。
世界戦で通算14勝1敗というのは見事だとしても、今回の寺地の出来はタイトルを失った矢吹正道(LUSH緑)戦以来、最もよくなかったと思います。こうして厳しい言葉を投げかけているのは、もともと私が寺地を非常に高く評価していたからだということは理解してもらいたいですね。
ライトフライ級での時間は終了?
寺地も32歳になり、ライトフライ級で戦うべき時間は終わったのかもしれないと私は推測しています。すでにキャリア10年目を迎え、その間を通じてライトフライ級で戦ってきました。身体が大きくなり、減量も厳しくなり、動きがシャープさを失ったとしても仕方ないのでしょう。カニサレス戦では反射神経を駆使するのではなく、単にガードを上げてパンチを受け止めようとする姿が目立ちました。
そういう状態なのであれば、力が劣るはずの相手に不覚をとる前に、フライ級への昇級を勧めます。“寺地は衰えている”といったように決めつけるのは少々早すぎであり、階級を上げることで好調を取り戻すことは考えられると思います。
今後を考えると、ライトフライ級の統一路線を進んだとして、私はWBO王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)と対戦すれば常に寺地が優位だと思ってきました。一方、IBF王者アドリアン・クリエル(メキシコ)は来月、前王者シベナティ・ノンティンガ(南ア)との再戦が待ち受けており、統一戦云々はその結果次第になるのでしょう。クリエルも寺地のレベルの選手には見えず、依然としてゴンサレス、クリエルのどちらと統一戦を行ったとしても寺地が優位と予想するとは思います。
ただ、ディフェンスが甘くなった寺地に対し、クリエルがノンティンガをKOしたときのようなパンチを打ち込んだらどうなるのか。減量に苦しむ寺地がピークの力を失っているのだとすれば、統一戦よりも昇級を優先すべきという私の考えは変わりません。
今後、激しく打たれ続ければ、寺地の身体は傷つき、これから先の生活にも影響しかねません。すでに王座を統一し、リングマガジン王者にもなったのだとすれば、その階級に無理に止まり続ける必要はないのです。
フライ級以上に上げても、寺地には魅力的なオプションがいくつか存在します。寺地が予想通りにカニサレスに快勝していたら、私は今年前半にもIBF、WBO世界フライ級統一王者ジェシー“バム”ロドリゲス(アメリカ)とのビッグファイトに進むことを期待していたかもしれません。今でも寺地が一方的に敗れるとは考えていませんが、ロドリゲスは再びスーパーフライ級に上げることが有力であり、いずれにしてもロドリゲス対寺地戦は実現しないと思います。
それよりも、寺地対カニサレス戦のアンダーカードに登場し、WBA世界フライ級新王者になったユーリ阿久井政悟(倉敷守安)への挑戦は適切な選択肢になると考えます。WBC同級王者フリオ・セサール・マルチネス(メキシコ)は強豪とは戦わない選手であり、ユーリに敗れたアルテム・ダラキアン(ウクライナ)は再起するとしてもまた1年くらいブランクを作っても不思議はありません。寺地が自身と同じ興行で世界王者になった阿久井に挑戦となれば、日本のファンを惹きつける理想的なシナリオでしょう。
Fgennryou
繰り返しになりますが、寺地の健康とパフォーマンスの質を考え、私はフライ級への昇級を希望しますし、そこでまた瑞々しい戦いを見せてくれることを楽しみにしています。