「なぜ女子バレー部は減少、男子バレー部は増加?」令和の高校生が選ぶ部活はこんなに変わった「いま急増中の部活とは?」10年間でトレンド激変
高校の女子バレー部は10年間で8.4%ほど減少している(※写真はイメージ)
日本バレーボール協会の新ブランド発表イベントにトークショウのメンバーとして参加したときのこと、川合俊一日本バレーボール協会会長から興味深いことを聞いた。
「高校生の男子バレーボール部は増えています。逆に女子のバレーボール部は減っているのが課題です」
ほぅ。これは興味深いことを聞いた。早速、部活動の活動実態を調べようと、
「全国高等学校体育連盟 加盟・登録状況」
というページを開いてみた。
これが興味深い。年度ごとに加盟校の数、登録者数(選手のことだね)が発表されている。
今回は2013年と2023年の状況を比較し、過去10年間でどんな変化が起きているかを調べてみた。すると……
■男子バレーボール部
2013年 2750校
2023年 2756校
■女子バレーボール部
2013年 4029校
2023年 3689校
男子は微増、女子は8.4パーセントほど減少しているのだ。
もちろん、少子化の影響は考えられる。2013年に高校3年生を迎えた1995年の出生数は118万7064人、対して2023年に高3になる2005年の出生数は106万2530人と、10.5パーセントほど減少しているから、競技人口が減っていくのは自明の理だ。
その現状を踏まえると、男子バレーボール部の増加は特異的な現象で、「微増はかなりの増加」と捉えられる。
「じつはバスケ部も減っている」
バレーボールだけでは全体の状況は分からない。そこでバスケットボール部の加盟校数も調べてみた。
■男子バスケットボール部
2013年 4500校
2023年 4191校(6.9パーセント減)
■女子バスケットボール部
2013年 4012校
2023年 3617校(9.8パーセント減)
女子のバレーボール部とバスケットボール部の加盟校数が拮抗しているのが面白い。やや、バレーが上回っている。
「柔道部、ラグビー部は減少幅が大きい」
そのほかの競技も調べてみよう。私の取材経験のある競技で気になる数字が読み取れたのは、柔道とラグビーだ。
■男子柔道部
2013年 2433校
2023年 1485校(39パーセント減)
■男子ラグビー部
2013年 1089校
2023年 863校(21パーセント減)
減少幅がバレー、バスケと比べてかなり大きく、将来、どうなっていくのか不安で仕方がない。
「なぜ男子バレー部は増加した?」
なぜ、男バレが増加にしたかというと、これはもう『ハイキュー‼』の影響が大きいといえる。
『ハイキュー‼』は2012年2月から2020年7月まで8年半にわたって「週刊少年ジャンプ」に連載されたが、舞台化もされたし、今年に入って『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が2月16日に公開されると、4月30日までの75日間で観客動員数699万人、興行収入が100億円の大台を突破し、大、大、大ヒットとなった。
マンガ、アニメが日本のスポーツ界に与えてきた影響は大きい。1960年代から1970年代は特に顕著で、野球では『巨人の星』、『侍ジャイアンツ』、バレーボールでは『ミュンヘンへの道』(これは実写とアニメの融合という画期的な作品だった)、『アタックNo.1』、『サインはV』が競技人口を押し上げた。
私の高校時代の1984年にはラグビーを題材にした『スクール☆ウォ―ズ』が放映され、1980年代後半にはラグビー部の入部希望者が増えた。
1980年代の傾向で見て取れるのは、競技そのものの力と、作品の力が融合して競技全体を盛り上げていたということだ。
野球は日本テレビが巨人戦を毎晩ゴールデンタイムに中継し、全国的な人気を誇った。1980年代など、巨人戦のチケットはいま以上にプレミアチケットだったと思う。その憧れの巨人軍を舞台にしたマンガ、アニメ、しかも選手は実名で登場していたのだから、少年たちへの影響は大きかった。
バレーボールも1964年の東京オリンピックで女子が金メダルを獲得し、男子代表(当時の表現でいえば「全日本」)は、「女子に追いつき、追い越せ」と様々な仕掛けを行っていた。男女ともに世界大会でのメダルは当然という時代だったが、いまだに「1番南、2番猫田……12番嶋岡」という塩梅で、ミュンヘンの金メダリストを諳んじることができる人が多いのは(おそらく60歳以上。私は特異なのであります)、メディアの力も大きかった。
また、ラグビーも1980年代までは新日鉄釜石の日本選手権7連覇、そして大学ラグビーの隆盛と国内的に大きな盛り上がりを見せていた。『スクール☆ウォーズ』もその文脈に位置づけられる。
つまり、競技と作品の相乗効果によって部活動に大きな影響を与えていたのである。
『スラムダンク』と『ハイキュー!!』の共通点
この流れに革命を起こしたのは、マンガの『スラムダンク』だった。
1990年から1996年まで「週刊少年ジャンプ」で連載されたこの作品は、愛好者が一部に限られていた時代にバスケ人気に火をつけ、中学のバスケ部員が異常な増加を示した。
つまり、コンテンツが競技に先んじて人を動かしたのだ。
バスケに追い風が吹いたのは、日本でもNBAが衛星放送で見られるようになり、そのタイミングでマイケル・ジョーダンがシカゴ・ブルズを優勝させ、世界的な人気を誇ったからだった。マンガが先行、そして競技面でのフォローアップが国内ではなく、世界最高峰のものだったわけだ。
グローバル時代の到来である。
「スラダン」と「ジョーダン」の組み合わせは最強で、この流れが2024年のいままでつながっている。さらに、2023年に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』は興行収入が158億円を超える大ヒット作となり、この影響も向こう数年にわたって続いていくだろう。
男子バレーボールも同じような流れがあり、『ハイキュー‼』の人気が先行したあと、男子日本代表が国際競争力をつけ、石川祐希、高橋藍といったスター選手が登場した。
もし、パリ・オリンピックでメダルを獲得したら――その可能性は十分にある――男子バレーボールの人気はさらに沸騰するのではないか。
「この10年間で急増した部活とは…?」
だが、しかし――。
いま、2024年の日本でものすごい勢いで成長を遂げている部活動がある。
微増の男バレなど歯牙にもかけないほどの勢い、それはダンス部だ。
ダンスにはいろいろな大会があるが、「ダンス甲子園」と呼ばれる「日本高校ダンス部選手権」がテレビで放送されるなど、認知度が高い。第1回大会が2008年に開かれたが、参加校数についての記事を検索すると、次のようなデータが出てきた。
2014年 349校
2018年 456校
2019年 495校
バレーやバスケに比べて母数は少ないが、ものすごい伸長率だ。
2017年には、今では女優として活躍している伊原六花がセンターを務めた大阪府立登美丘高校がダンス甲子園で優勝、彼女たちの「バブリーダンス」はセンセーショナルな話題となった。
もともと、2012年の学習指導要領改訂により、中学校の1、2年生はダンスが必須科目になって浸透する土壌は広がっていたが、バブリーダンスは次のフェイズに移行する「起爆剤」になったように思える。
そして、2023年は621校が参加している(生島による各ブロック大会の参加校積算。公式HPでは夏・冬・春の3大会で900校、参加者16000人とある)。
ダンス部の伸長理由には、レギュラーの人数も関係していると推測される。「ダンス甲子園」では 2人から12人までを「スモールクラス」、13人以上から40人までを「ビッグクラス」として分けている。少人数で参加できることも大きいが、レギュラーが40人いるというのは、スポーツの競技では考えられない。つまり、ビッグクラスの学校で活動すれば、「試合に出られるチャンス」が膨らむのだ。この器の大きさも、ダンス部の大きな魅力ではないだろうか。
日本バレーボール協会の川合俊一会長も、言っていた。
「今までであればバレー部に入っていた生徒さんが、ダンス部に入っていることは十分に考えられるんですよね」
ダンス部の隆盛は、日本のスポーツ界に少なからず影響を与えている。