「かけそば」380円のうまさにびっくり、でも店はガラガラ…最寄り駅から徒歩20分、草加市にできた「ポツンと一軒そば屋」は生き残れるか?
2024年3月15日、埼玉県草加市新里町に一軒の大衆そば屋がオープンした。しかもこのお店、つゆは自家製、天ぷらは注文後揚げたてを提供していて、かなりうまいというのだ。しかし問題がある。いつ営業しているのかよく分からない。
日暮里から舎人ライナーで終点の見沼代親水公園駅へ
こんな不思議な情報をあるボーカリストの友人からゲットした。これは行くしかない。そこで、さっそくゴールデンウィーク前半の合間をみて訪問してみることにした。
さてその場所だが、かなり“ポツンと一軒家”的な立地である。まず、日暮里駅から舎人ライナーに乗り終点の見沼代親水公園駅まで約30分乗車する。
舎人ライナーはいつ乗ってもマニアックな加速度で、無人運転で運行されている。しかも高所を走るのでソワソワする。さらにガラスがスモークなので青空もやや暗い空の色になるので、何となく不安な気持ちを醸し出す。
遠くに舎人公園を見ながら見沼代親水公園駅に到着する。初めて降りる駅である。駅前にはコンビニがあるだけで静かな住宅街が広がっている。
毛長川を渡り草加市内へ
東側すぐにある見沼代親水公園を南東へ下っていく。しばらく進み公園を左に離れ、毛長川方向に進んで行く。ほどなく「里人やすらぎ橋」を渡り、草加市内に入る。その間、ほぼ静かな住宅街で、人とすれ違うことはなかった。営業している飲食店はない。
静かな住宅街を歩くこと20分ほど
さらに何度か道を折れながら歩いていく。あやめが咲いていたり、のどかな風景が続く。ようやく、毛長橋通りに出る交差点に到着した。そのすぐ右側に、派手な赤色ののぼり(幟)が揺れていた。そこが今回訪問する大衆そば屋「そばうどん 一丁目一番地」である。駅から20分ほど。実は3日前、友人と訪れたのだが臨時休業。今回はしっかり営業中だったので安堵した。
看板には「やってますよぉ~」
友人と店前で合流し、店入り口に佇んだ。看板が置いてありそこにはこう書かれていた。
「安心して下さい。やってますよぉ~(営業中) お気軽にお入り下さい。節電中です。」
「営業時間は9:30~14:00(LO13:30)、休業日:不定期(すみません)」とも書いてある。駐車場も2台分確保している。
「野菜天ぷら」や「旬の天ぷら」が人気
メニューは「かけそば」380円で「野菜天ぷら」100円、「旬の天ぷら」200円と立ち食いそば価格である。入店するとまず7人掛けのL字カウンターがあり、店の奥には4人掛けのテーブルが3つほど。かなり広い。券売機の横には、「野菜天ぷら」の具材が列記されている。「春菊」、「まいたけ」、「アスパラ」、「なす」、「ピーマン」、「れんこん」、「長いも」、「玉ねぎ」、「ごぼう」。
「旬の天ぷら」は「春ピーマン新玉ねぎのせ」、「新玉ねぎとごぼうのかき揚げ」。なかなか多彩である。さっそく、私は「かけそば」に「旬の天ぷら」の「春ピーマン新玉ねぎのせ」を、友人は「肉そば」と「れんこん」をそれぞれ注文した。するとすぐに天ぷらを揚げ始めた。
店はゴールデンウィークということで店主(59歳)とその息子さんで切り盛りしていた。通常は店主一人のオペレーションだとか。
しかし、なぜこんなポツンと一軒家的な立地で店を出したのだろうか。注文したメニューを作ってもらっている間、いろいろ聞いてみたのだが、これがまた凄く面白い。
店主は立ち食いそばが大好きで…
店主はそば屋をやる前は飲食とは全く関係ない仕事をしていて、いつも車で立ち食いそば屋を目指して徘徊していたそうである。とにかく立ち食いそばが大好きだった。ほぼ毎日立ち食いそばという生活だったという。日暮里の「一由そば」が大のお気に入りとか。それで大好きな立ち食いそば屋をやりたいという思いが日に日に大きくなっていった。
その間、食べ歩いて研究を重ね、常連となった地元の店で天ぷらの揚げ方、つゆの作り方、仕入れの製麺屋などをいろいろ教えてもらい、今年の3月15日に開業してしまったそうだ。そこまで話を聞いた第一印象は「随分と思い切ったなあ。突っ走った感が半端ない」ということである。
そして、今の立地を選んだ理由には極めて明快な2つのポイントがあった。まず、居抜きで安く借りることができたこと。そして、周辺には住宅街が広がっていて飲食店が少なかったことから需要があると考えたことである。
「かけそば」と「旬の天ぷら」が登場
そうこうしているうちに、「かけそば」に「旬の天ぷら」の「春ピーマン新玉ねぎのせ」が登場した。
「春ピーマン新玉ねぎのせ」はうつわにしたピーマンに新玉ねぎをのせて揚げたタイプ。なかなかユニークだ。たっぷりのつゆにそばが泳ぎ、その上に天ぷらをのせて食べていく。まず、つゆをひとくち。鰹節と昆布を使った上品で滋味深い味である。これはうまい。店主によれば「つゆの出汁のバランスがなかなか難しい」とのこと。いやいやかなり高得点だ。
そしてそばは近隣の製麺所の茹で麺である。やや太めでコシもある。大好きな麺である。そして「春ピーマン新玉ねぎのせ」は揚げ立てで新玉ねぎがあまくアツアツである。全体のバランスがよい一品である。
「肉そば」と「れんこん」も秀逸
友人の「肉そば」と「れんこん」もなかなかのビジュアルである。トロトロに煮込まれたねぎと厚い豚バラが抜群に合うとか。「肉そば」で初めからこの厚肉を使うとはセンスがよい。「れんこん」もアツアツでシャキっとした食感がナイスだとか。
追加の春菊天はつゆにのせるとジュワッと
あっという間に食べてしまったので、「冷しの春菊天そば」を追加注文した。するとまたすぐに「春菊天」を揚げ始めた。待つこと3分。「冷たいかけそば」と別皿の「春菊天」が登場した。「春菊天」は刻んでかき揚げ状にしたタイプ。それを「冷たいかけそば」にのせるとジュワッと油とつゆがはじける音が店内に響く。まさに揚げ立て天ぷらの美学である。冷たいそばもコシがあってなかなかよい。
オープンから店主の奮闘は続くのだが…
まだオープンして2ヵ月も経っていない店だがよい味を提供している。天ぷらは揚げ立てだし、つゆもうまい。お客さんはずいぶん訪れているのではと思い聞いてみると、店主は「それがかなり厳しい営業状況だ」と教えてくれた。
店がオープンした時と1ヵ月後にチラシを500枚ずつ近隣に配ったそうだが、客足の反応は弱く、じり貧状態。ついにそば屋だけで食べていくことができなくなり、4月の終わりには仕事を掛け持ちでやることを決意したというのだ。いつ営業しているのかよく分からない。「休業日は不定期(すみません)」とも書いていた理由はそういうことだったのである。
「旬の天ぷら」を考案したり、「肉そば」も豚バラの厚肉や鶏天を用意したりと工夫をいろいろして奮闘しているのだが、どうも空回り感が否めないと店主は嘆く。
どうしたら店を軌道にのせることができるのか
こんなにおいしいそばうどんを提供しているのに「風前の灯」というのは何ともつらい。せっかく食べに来ておいしいのだから、私と友人は俄然、応援しようということになったわけである。どうしたら「そばうどん一丁目一番地」を軌道にのせることができるのか。
立ち食いそば好きが高じて独学で店をやるのは勢いである。運がよければヒットすることもあるだろう。しかしそれには忍耐が必要だ。一般に立ち食いそば屋は赤字でも3年続けることができれば、その後営業は軌道にのるといわれている。「立ち食いそば3年、柿8年の法則」というのがあると考えている。その間いかに苦心してアイデアを出し乗り切るかが生き残る鍵となる。そのために必要なことがいくつかあるので列記してみる。
1)天ぷらなど具材に個性がある(自家製、ラインナップが多いなど)
2)つゆに個性がある(自家製、関東風の濃い味、関西風など)
3)そばうどんに特徴がある(自家製、生麺、茹で麺でもうまいなど)
4)キラーメニューがある(肉そば、旬の天ぷらそばなど)
5)利用客に店の味をアピールしている(季節メニュー、セットメニューなど)
6)店の情報を近隣住民にアピールしている(POPやチラシなど)
7)店の情報をITで広く発信している(SNSでの告知、営業情報など)
8)店が綺麗でオペレーションがよどみなく運営されている(利用者が好印象を持つなど)
9)挨拶や注文の確認などコミュニケーションの向上をはかる(特に女性客への配慮など)
10)上記を絶え間なく改善し、何度もリピートして認知度を上げていく
「そばうどん一丁目一番地」では(1)~(6)、(9)などはクリアしていると思う。あとは(7)、(8)、(10)に注力するべきだろう。幸い息子さんがSNS対応はやってくれるという。もともとポツンと一軒家の立地であり、そう簡単には集客できない。店主にはどうかもうひと踏ん張りしてもらって、おいしい味を広めて商売繁盛につなげてもらいたいと思う。
店主からのメッセージ
最後に店主からメッセージをいただいた。「とにかくそばうどんをおいしい天ぷらで召し上がって頂きたいと思っております。食材は旬のもの・季節のものをそろえています。もともと魚の仕事もしており旬にはこだわっています。そうした食材を一番おいしく食べるには揚げたてが一番です。旬の天ぷらもご用意しています。どうか是非一度足をお運びください。よろしくお願いいたします」
「縁起の良い名前で地域で一番の人気店になる」という店主の思いで店名を付けたそうだ。見沼代親水公園駅から20分ほどのポツンと一軒家の大衆そば屋「そばうどん一丁目一番地」はさて生き残ることができるだろうか。私はできると確信しているし、大いに応援していこうと思う。一応、訪問時は下記連絡先に電話やショートメールで問い合わせすることをお勧めします。「フラれると 途方にくれる ポツンそば」である。
INFORMATIONアイコン
「そばうどん 一丁目一番地」
住所:埼玉県草加市新里町416-3
営業時間:9:30~14:00(LO13:30)
定休日:不定期(別の仕事の都合で臨時休業の可能性あり)
※5月は1日おき、奇数日営業
連絡先:090-8599-5588(ショートメールも可)
Instagram: https://www.instagram.com/1_chome_ichibanchi
(坂崎 仁紀)