日経平均「再度の4万1000円突破」は十分に可能だ 「米国利下げ後ずれ」「中国減速」のリスクは?
日経平均が再度上昇するには中国経済が大減速しないことなども重要になりそうだ。果たして大丈夫だろうか(写真:ブルームバーグ)
筆者は今後12カ月以内に日経平均株価が再び4万1000円を超えると予想している。
その理由は、半導体市況の回復に牽引される形で企業業績が拡大することに加え、日本企業の資本効率改善が投資家を満足させるとみているからだ。実際、日本企業の変化を象徴する自己株買いは年間13兆円ペースまで拡大し、昨年同時期に比べ約3割も増加している。
他方、日本株の代表的なリスク要因として、アメリカのインフレ長期化に伴うFED(アメリカの中央銀行)の利下げ後ずれ、そして中国経済の減速がある。以下でリスク要因について現状を整理したい。
アメリカの「9月利下げ」の確度が高まってきた
これまで金融市場の度重なる失望を招いてきたFEDの利下げについては、ここへ来てその確度が増してきた印象だ。5月は食料・エネルギーを除いたコアCPI(消費者物価指数)が前月比プラス0.2%と落ち着き、前年比でもプラス3.4%へと減速したことから、インフレ再燃懸念は後退した。
また、ミシガン大学消費者信頼感指数が7カ月ぶりの低水準に落ち込む中、5月の小売売上高も弱めの結果となり、「強すぎる消費→インフレ再燃」という波及経路に対する警戒も和らいだ。
その5月の小売売上高は前月比プラス0.1%と市場予想(同プラス0.3%)を下回り、なおかつ過去分も下方修正された。ガソリンと自動車を除いたベースでも弱さは変わらず、また最重要項目のコア小売売上高も同プラス0.4%と市場予想(同プラス0.5%)に届かなかった。
コア小売売上高は4月分が同マイナス0.3%から同マイナス0.5%へと下方修正されたことで、3カ月前比年率(3カ月平均)はプラス1.9%と3カ月連続で1%台の伸びにとどまり、個人消費の減速を裏付けた。政策金利が高止まりする中、クレジットカード延滞率が上昇するなど、低所得者を中心に家計収支が悪化している様子がうかがえ、消費が抑制されていると判断される。
筆者は9月FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)における利下げを予想している。このように軟調なデータは、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が繰り返し言及してきた「利下げを待ちすぎることのリスク」をFEDに再認識させたとみられ、9月の利下げ確率を高めたと判断される。
FEDは拙速な利下げによって景気が加速し、それが労働需給の逼迫を通じて賃金上昇率の再加速につながり、インフレ率が反転上昇することを恐れているが、そうした懸念をよそにインフレの根幹にある労働市場データは軒並み弱含んでいる。
JOLTS(アメリカ労働省が発表する労働需要の動向を示す指標)求人統計では求人件数、失業者数に対する求人件数の割合、自発的離職率が低下しており、またNFIB(全米独立企業連盟)中小企業調査でも企業の人件費計画が下方屈折している。企業側からみれば、人手不足の解消よりも労働コスト削減の優先度が高くなっているのかもしれない。
FEDの利下げ遅れが株価下落のリスクとならないワケ
そして、ここへ来て8月に予定されている雇用統計の年次基準改定によって雇用者数が、昨年と同様に大幅な下方修正が加えられるとの見方もある。2023年の改定で過去1年の雇用者数が30万6000人分も下方修正された経緯があるため、今年も改定前後で労働市場の評価が変化する可能性には注意したい。
パウエル議長は、雇用者数の増加それ自体は移民の爆発的増加を反映したものにすぎないため、大きく取り扱わないとしてきたが、それでも雇用者数が大幅に下方修正されれば、9月FOMCの政策判断に一定の影響を与えるだろう。
そう考えると、早ければ8月22~24日の日程で予定されているジャクソンホール・シンポジウムでパウエル議長が何らかの形で利下げを示唆する可能性がある。ここまでをまとめると、FEDの利下げが遅れて株価が大幅に下落するリスクはさほど大きくないと言える。
次に中国経済をお金の総量から解析してみる。その代表的尺度である、社会融資総量(フロー)は、12カ月平均値が横ばいないしは下向き基調にあり、残高(ストック)は前年比プラス8.4%まで伸び率が縮小している。
社会融資総量とは銀行貸出に加え、株式・社債の発行、信託会社(≒シャドーバンキング)の融資などが含まれる広義の与信・流動性を示す尺度であり、そのGDP(国内総生産)比は中国当局の政策態度を反映すると言われている。
すなわち当局が景気刺激に前向きになれば政府債の発行が増えたり、銀行の融資基準が緩和したりして、お金が実体経済へ染みだしていく。また新規与信のGDP比(の前年差をとった数値)はクレジットインパルスと呼ばれ、日本株と一定の先行性を有することが知られている。正直なところ日本株との直接的な関係は不明確だが、大きくみれば6~12カ月の先行性が認められている。
中国のお金の量から見ると、日本株の楽観は禁物
仮に現在もその関係が維持されているなら、先行きの日本株は上昇の勢いを失う可能性があると言わざるをえない。ちなみに中国のクレジットインパルスをマネーサプライのM2(現金通貨と預金通貨と定期預金や外貨預金の合計)の12カ月先行に変えてみると、こちらは日本株の大幅な下落を示唆する波形となっている。
M2は前年比プラス7.0%と既往最低に落ち込んでおり、この1年程は特に弱さが目立っている。どちらの尺度も参考値にすぎないが、中国のお金の量を重視すると、日本株の先行きはやや慎重に見ておいたほうがいいかもしれない。
このようにお金に着目すると、中国経済は減速感が強まっている。だが、他方で実体経済は思いのほか安定している。たとえば、4月の固定資産投資は前年比プラス4.0%と小幅ながら減速も、昨年後半からは持ち直し、前年割れを回避している。不動産投資が同マイナス10.1%と減少する中、製造業は同プラス9.6%と緩やかな加速基調にある。
中国経済減速と平成バブル崩壊はどこが異なるのか
製造業の内訳ではコンピュータ・通信・その他電子機器といったIT関連財が同プラス12.5%と高い伸びを維持しているほか、EV市場の拡大もあって自動車が同プラス5.8%とプラス圏にある。この指標を見る限り、不動産市場の悪化がその他の生産活動を蝕んでいる様子はない。もちろん、こうした粘り強い投資活動は、資本財を中心に日本企業の中国向け売上高に貢献する。
中国経済を巡っては、1990年代前半における日本のように、人口減少という不可逆的な逆風の下で、不動産市場の悪化を起点とする不況に突入するとの懸念がある。しかしながら、現在の中国経済は良くも悪くも緩やかな減速にとどまっており、製造業PMIをみても50超で安定している。
1990年代前半の日本では、日銀短観の業況判断DIが、坂道を転げ落ちるような速度で低下するなど、急速な景気減速に直面していたが、現在の中国経済はそうした悲劇的な状況にはない。これらに鑑みると、日経平均が4万1000円を突破するとの予想に大きな下振れリスクはないと思われる。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)