中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

日本人母子が襲撃されたとみられるバス停=25日、中国江蘇省蘇州市 Photo:JIJI

中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人の親子が怪我を負った。親子を守ろうとした中国人女性は亡くなった。中国人男性がバスを襲った動機は明らかになっていないが、中国国内ではいくつかの説が出てきている。実は中国では昨今、SNSで「日本人学校を叩く動画」が人気を得ており、その影響ではないかというものだ。もちろん襲撃との因果関係が立証されたわけではないが、事件を読み解く手がかりとして、動画の中身や拡散されている背景を解説していきたい。(中国アジアITライター 山谷剛史)

「日本人学校を叩く動画」がバズる!?

中国の異様なネット空間

 6月24日午後、中国・上海に近い江蘇省蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った50代男性に襲われ、日本人の親子が負傷する事件があった。そして残念ながら、襲撃を阻止しようと体を張った中国人女性は亡くなってしまった。蘇州市はこの女性に「義勇」の称号を与えて表彰するという。

 中国メディアは事件発生当初、この話題について報じなかった。翌25日の午後あたりから報じ始めたが、犯人の動機には言及していないままだ。中国外務省は「偶発的な事件」「外国人を狙ったものではない」と主張しているという。

 ただし、こうした襲撃事件が「たまたま起きる」はずがない。中国では先日も、吉林省の公園で米国人が中国人男性に刺される事件が起きたばかりだ。これを踏まえて、経済的な観点から、「不景気による生活苦から襲撃事件が起きたのではないか」という指摘が出てきている。

 一方、スクールバス襲撃事件を起こした人物の動機とどこまで関連しているかは分からないが、実は今、一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。

 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。

「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ。

中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

中国のネット空間にあふれる、「日本人学校」をネタにしたショート動画(画像提供:山谷剛史)

「日本人学校」を叩く動画の

阿鼻叫喚のコメント欄とは?

 そのコメント欄では、今回の襲撃事件を絶賛するコメントや、親子を守って亡くなった中国人女性を非難するコメントが目立つ。もともと反日感情を持っていた人物が、こうした動画を見て恨みを増幅させ、日本人に何らかの危害を加えてもおかしくない状況ではある。

 そもそも、なぜ日本人学校が「ネットの中傷」の標的にされているのか。明確なきっかけはないが、まずは2022年9月、ネット上に「日本人学校が中国人の入学を認めていない」ことを批判する動画が投稿された。これは全くと行っていいほど反応がなかった。

 だが、翌2023年の春節に「日本人学校の運動会の宣誓で、小学生が『上海は我々のもの、浙江省も我々のものだ』と叫んだ」というデマ動画が流れ、大きく拡散された。中国のプラットフォーム側(SNS運営企業など)がデマだと説明して収まったが、それでも一部の中国人は「日本人学校」を不愉快な存在として認識し続けていたのだろう。

 その後、悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。

中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

「日本人学校の前で日本人を成敗する」というショート動画のキャプチャ(出典: 『李老师不是你老师』氏のXアカウントより )

 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である。

 それにしても、中国のSNSにおける「日本人学校叩き」には謎が多い。中国での過去の反日運動を振り返ってみると、尖閣諸島の領有権が取り沙汰されたタイミングや、歴代首相が靖国神社に参拝したタイミングで盛り上がっていた。福島第一原子力発電所における「処理水の海洋放出問題」が議論されていた時期も同様だ。このように、何らかのトリガー(きっかけ)があったからこそ反日運動が過熱したと言える。

 だが今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している。

過激な動画でファンを集めれば

ネット通販で稼げる!?

 実際、中国のECサイトを見てみても、米国のトランプ前大統領やバイデン現大統領を模したパンチングマシンなど、米国をなじるための商品が多く売られている。その一方で、岸田文雄首相をなじるグッズはほぼない。政策面や政府要人の動きに関して、ここ最近の日本は反日運動のトリガーを引いていないのだ。

中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

米国のトランプ前大統領やバイデン現大統領を模したパンチングマシン (画像提供:山谷剛史)

 にもかかわらず、なぜ「日本人学校」をネタにする動画が拡散されるようになったのか。その一因として考えられるのが、中国の独特なネット空間の在り方である。

 中国はスマホ社会だ。新型コロナウイルスの感染が広がっていた時期は、世界でも珍しい「デジタルを徹底活用した監視」によってゼロコロナ政策を持続しようとした。

 結局は感染拡大を抑えられずやめてしまったが、このゼロコロナ政策は中国人のスマホ利用を促進する効果を生んだ。スマホユーザーは中高年を中心に都市農村を問わず増え、2023年末時点で11億人弱に達した(CNNIC調べ)。そして、そのほとんどが、前述したドウインやクワイショウ、メッセンジャーアプリの微信(WeChat)を利用するようになった。

 ご存じの通り、中国は政府の情報統制によってYouTubeやX(旧Twitter)などの利用が禁じられている。一般読者はこの点について、「中国人はVPNなどを駆使して『ネットの壁』を超え、YouTubeやXを楽しんでいるのでは」と思っているかもしれない。だが実際はそうとは限らず、中国人はあまり「壁の外」に出ようとしない。SNSは知人がいてこそ楽しく、動画サイトも自分たちの趣味嗜好に合うコンテンツがあってこそ楽しめるからだ。

 中国国内で満足できるサービスとコンテンツが十分にあるため、特に目的がない限り、「壁の外」に行こうとする人はいないのである。

 このガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある。

事件後に動画削除…

人気反日インフルエンサー「凌一」とは

 動画を配信してファンを集めれば、単に再生数を稼げるだけでなく、その動画をきっかけに商品を買ってもらえる。この手法がコロナ禍以降(特に去年)から広く知られるようになった。中国のECサイトはAlibabaが手掛ける「淘宝網(タオバオ)」が主流だと思っている人もいるかもしれないが、それは昔の話。今はタオバオのライバルは多数ある。

 なぜECの話をしたかというと、ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている。

 ちなみに、「凌一」は名門である「中央民族大学」の学生だとされている。だが冒頭のスクールバス襲撃事件後、この人物の動画は削除された。

中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由

日本人学校に入れずに怒っている中国人もいるが、それは規定によるものだ(画像提供:山谷剛史)

 中国政府によるコンテンツ規定では、暴力・ポルノ・ギャンブル・自国(中国)の否定・民族蔑視・誹謗中傷などは禁じられている。ドウインやクワイショウなど、全てのプラットフォームがそれに従っている。年に一度、あらゆるサービスから不良コンテンツを一掃する「浄網」という取り組みも行われ、規定違反の動画は全て消されている。

 ところが、この「民族蔑視や誹謗中傷の禁止」は外国には当てはまらないようだ。反日系動画はずっと放置されたままで、このことがファンをさらに喜ばせている。

 日本以外の国に関しては「何でもかんでも動画のネタにする」いうわけではなく、イスラエルによるガザ侵攻に心を痛めている中国人も多い。だが困ったことに、反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。

 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。

 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい。

 また50代以上の人は文化大革命を経験した結果、ハイテクや新しい知識にやや弱いという傾向がある。悪い日本人を倒すというシンプルで分かりやすいストーリーを真に受け、嘘の寸劇を嘘と見抜けないまま、のめり込んでいる人もいるだろう。

中国のネット空間で回り続ける

「反日動画で稼ぐ」サイクル

 今では家電からゲーム・アニメ・ポルノに至るまで、中国では日本のものがよく知られている。だからこそ、日本のネガティブな側面についても、さらに関心を持たれやすくなっている。

 インフルエンサーが日本を茶化した動画を作り、視聴者が日本に腹を立てれば立てるほど、反日動画はさらに拡散される。動画が話題になってフォロワーが増えると、商品がさらに売れる。中国の独特なネット社会では今、そうしたサイクルが回っているのだ。

 日本では少し前に、靖国神社に落書きして小便をかけた中国人男性「鉄頭」が批判を集めた。この行動は日本人にとっては大迷惑だったかもしれないが、「鉄頭」にとっては、中国のネット社会で一部ユーザーに支持される「悪い国への勧善懲悪」を行ったにすぎない。実は彼もSNSユーザーであり、こうした行動でファンを集めていた。

 いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう。

 なお中国の主要メディア各社は、日本人親子を体を張って守り抜いた中国人女性が、蘇州市から表彰されたことを報道している。これは彼女の行動が勇敢なものであり、相手が日本人であれ、他人を傷つけるのは間違いだというメッセージを中国のネットユーザーに発信したものだと筆者は解釈している。

今回の報道を機に、中国の対日ネット世論の「常識」が少しでも変わることを願うばかりだ。

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