S&P500を1カ月で売却したら勝率62%、でも10年保有すると…長期保有の恐るべきメリットとは
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新NISAが始まり、投資に関心が向き出した中高年初心者にとって知っておきたいのが「リスク」と「リターン」の関係だ。そうすれば、「長期投資」のメリットも自然に理解できる。SBIグループのプロが易しく解説する投資の勘所とは。※本稿は、朝倉智也『投資のプロが明かす 私が50歳なら、こう増やす!』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
投資における重要概念
「リスク」を正しく知っておこう
投信を使ってどのように運用利回りを上げていけばよいのか、具体的な方法をご紹介していきます。「いい投信を買うだけではダメなの?」と思った方もいるかもしれませんが、実は資産運用においては「『何を』買うか」と同じか、あるいはそれ以上に、「『どのように』買うか」が重要なのです。
「どのように買えばよいか」を正しく理解できれば、リスクを抑えて運用利回りを高めていくことが可能になりますし、何よりも「投資はこわがる必要がないものだ」ということもわかります。
心穏やかに資産づくりを進めていくという意味でも、「どのように買うべきか」は詳しく知っておいたほうがよいのです。
さて、みなさんは「リスク」の意味をご存じでしょうか?
リスクという言葉は、一般に「危険性」という意味で使われることが多いのですが、投資の世界では「リスクがある=危ない」という意味ではないことを、まず押さえてください。
では「リスクがある」「リスクが高い」などという場合に、それが何を示すのかといえば、「価格のブレ」のことを指します。
「リスクがある」とは「価格のブレがある」ということですし、値動きのある商品の中でも価格のブレが大きいものは「リスクが高い」、価格のブレが小さいものは「リスクが低い」といいます。
ここで図1をご覧ください。これは2002年12月から2022年12 月までの20年間のデータをもとに、「各月末時点でそれぞれの資産のインデックスに投資し、1年間保有した場合の最大上昇率と最大下落率」を示したものです。
図1 1年間の「投資」収益幅の比較。同書より
たとえば、過去20年間のうち最善のタイミングでTOPIXに連動するインデックスファンドに投資したAさんは、1年間で65.0%の利益を上げることができました。
しかし、最悪のタイミングで同じTOPIX連動インデックスファンドに投資したBさんは、1年でマイナス45.4%の損失を被ったわけです。
この場合、「過去のデータから推測すると、最悪の場合は1年間で最大45.4%下落することが考えられ、最善の場合は1年間で最大65・0%上昇することが考えられる」というのが、「リスク」の正しい認識だということになります。
覚えておきたい投資の鉄則
「リスクとリターンは表裏一体」
いかがでしょう、このグラフを見ていると「リスク=価格のブレ」という意味がイメージとして頭に入ってきませんか?
図1では、先進国株式、新興国株式、先進国債券についても同様のグラフを示しています。これを見ると、新興国株式は国内株式や先進国株式と比べると価格のブレが大きく、相対的にはハイリスク・ハイリターンということがわかるでしょう。
このグラフからは「リスクとリターンが表裏一体の関係にある」ということも見て取れます。
資産運用においては、ローリスクの商品を選ぶなら期待できるリターンも低くなりますし、ハイリターンを期待するなら高いリスクを取らなくてはならないと考えるのが原則なのです。
リスクを抑える
「長期投資」はこれだけ有利гЃ
さて、これから長くじっくり資産を育てていくとなると、できれば「リスク=価格のブレ」を抑えて、安定的に運用したいところです。そのために重要なのが、「長期投資」と「分散投資」です。
まず、長期投資の効果について見てみましょう。図2は、投資開始時期によって1年、5年、10年の運用パフォーマンスがどう変化したかを示したものです。
図2 長期投資で「リスク」を下げる。同書より
先ほども確認したように、2002年12月から2022年12月までの20年間を対象に、国内株式(TOPIX)の価格のブレを見ると、「最悪の場合は1年間で最大45.4%下落することが考えられ、最善の場合は1年間で最大65.0%上昇する」という結果になったのでしたね。
そして図2には、同じタイミングで投資して「5年間運用した場合」と「10年間運用した場合」の価格のブレも示しています。
グラフからわかるように、このタイミングでTOPIXのインデックスファンドに投資したとすると、運用期間5年では「最悪の場合は年率で最大14.7%下落することが考えられ、最善の場合は年率で最大21.4%上昇する」という結果になっています。
運用期間1年間の場合と比べると、「リスク=価格のブレ」がぐっと小さくなっていることがわかるでしょう。
さらに運用期間10年では、「最悪の場合は年率で最大0.6%下落することが考えられ、最善の場合は年率で最大13.0%上昇する」という結果になっています。
これは先進国株式、新興国株式、先進国債券についても同様で、過去のデータからは、「運用期間が長ければ長いほど、リスクが抑えられる」ことが読み取れます。
また、これらの資産を10年以上保有した場合、高い確率でプラスのリターンを得られそうなこともおわかりいただけるでしょう。
もう1つ、面白いデータをご紹介しましょう。図3をご覧ください。
図3 米国S&P500の上昇の確率(1928年~2022年)。同書より
このグラフは、1928年から2022年までの期間を対象に、S&P500というアメリカ株の代表的な株価指数について、「投資してプラスになる確率」を投資期間ごとに示したものです。
この95年分のデータが何を示しているのか、一緒に見ていきましょう。
たとえばS&P500に1日だけ投資した場合、儲かった確率は53%ということです。株価指数は上がったり下がったりを繰り返すものですが、1日だけに賭けると、勝つか負けるかは、ほぼ五分五分だったわけです。
では、買ってから売るまでの投資期間を少しずつ延ばしていくと、どうなるでしょうか。
S&P500を買って1カ月後に売却した場合、儲かった確率が62%に上がっていることが見て取れます。そして保有期間を延ばせば延ばすほど儲かる確率は高まり、10年保有すれば94%、15年保有すれば98%、20年を超えると「100%儲かる」という結果になっているのです。
過去95年間のデータで「10年保有すれば、94%の確率で儲かっていた」「20年以上保有すれば、100%儲かっていた」というのは、これから長期投資をする人にとって心強い結果です。
『投資のプロが明かす 私が50歳なら、こう増やす!』 (幻冬舎新書) 朝倉智也 著
もちろん、過去のデータは将来の運用成績を約束するものではありません。しかし、長期投資の効果を予測するうえでは参考になります。
「長期投資をしましょう」というと、よく「長期投資とは何年くらいですか?」と尋ねられるのですが、私はこれらのデータから、「10年以上」が1つの目安だと考えています。
私を含め、50代の人が「人生100年時代」を生きるとすれば、これから40~50年もの時間があります。少なくとも20年後に70代になっている自分、30年後に80代になっている自分については、現実的に想像してみることができるでしょう。
長期投資を始めるのに、50代では遅すぎるということはなく、むしろ家計に余裕が生まれる50代からこそ「運用の始めどき」といってもいいかもしれません。