EVだけじゃない中国勢の脅威 「ファーウェイカー」が映す次世代車の安全保障リスク
北京国際モーターショーに出展した中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が北京汽車と共同運営する新ブランド「STELATO (ステラト)」=4月26日、北京市(三塚聖平撮影)
中国IT大手の華為技術(ファーウェイ)が自動車分野での存在感を増している。電気自動車(EV)を上回る成長をみせている中国のプラグインハイブリッド車(PHV)市場で、同社が技術協力する中堅メーカーの1~3月期のシェアが前年同期の約6倍に急拡大したことが分かった。車とITの融合が進む中、ファーウェイの自動車技術は、同社に安全保障上の懸念を持つ米国や日本車各社の警戒対象となりそうだ。
米中で堅調なPHV
調査会社のマークラインズのデータを基に米中2大市場のEVとPHV、ハイブリッド車(HV)の1~3月期の販売動向(商用を含む)を比較したところ、中国ではEVが前年同期比約12・9%増、PHVが約75・2%増、HVが約3・2%減。米国はEVが約10・8%増、PHVが約42・9%増、HVが約45・3%増だった。
充電してEVとして走行できる一方、エンジンを発電などに使うことで長距離走行での電池切れの不安がないPHVの需要が米中でともに大幅に拡大した。
特に中国では通年でも2022年に前年比約2・5倍(EVは約80・1%増)、23年も約80・3%増(同16・3%増)と高成長が続いており、エコカーの主役をEVから奪う勢いだ。
北京国際モーターショーに出展した中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が北京汽車と共同運営する新ブランド「STELATO (ステラト)」=4月26日、北京市(三塚聖平撮影)
牽引(けんいん)役は200万円を切るガソリン車並みの価格で攻勢をかけるEV大手の比亜迪(BYD)で、23年の中国PHV市場でのシェアは5割を超える。だが、同社の今年1~3月期のシェアはトップながら約38・9%と急減した。ファーウェイが支援する中堅の賽力斯集団(セレス・グループ)のシェアが前年同期の2・1%(6位)から12%(2位)と飛躍したためだ。
北京国際モーターショーに出展した中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が北京汽車と共同運営する新ブランド「STELATO (ステラト)」=4月26日、北京市(三塚聖平撮影)
新ブランドも展開
ファーウェイは、車載向け基本ソフト(OS)や自動運転などの先進運転支援技術などをセレスに提供して共同運営する自動車ブランド「「AITO(アイト)」のPHV「M7」が好調。4月25日から5月4日まで開かれた「北京国際モーターショー」では新たに北京汽車と共同運営するEVブランド「STELATO (ステラト)」も打ち出すなど、〝ファーウェイカー〟を着々と増やしている。BYDも対抗して同ショーで新型PHV2車種を発表するなど中国メーカーの勢力拡大はEVから、トヨタ自動車など日本勢が先行していたハイブリッド系にも及んでいる。
問われる地域別対応
一方、ファーウェイの台頭は自動車事業の新たな課題も浮かび上がらせる。
欧米では、情報漏洩(ろうえい)などの安保上のリスクから同社の通信技術を市場から締め出しているが、EVやPHVは電力などの社会システムや、決済を含む各種の消費者向けサービスとネットワークでつながることが想定されている。車の制御に加え、データ管理のセキュリティー基盤にもなる車載OSなどでファーウェイ技術の搭載が広がれば、中国自動車各社の海外展開に安保上の警戒の目を向ける必要が出てくる。
北京国際モーターショーに出展した中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が北京汽車と共同運営する新ブランド「STELATO (ステラト)」=4月26日、北京市(三塚聖平撮影)
逆に、中国政府も海外製EVなどからのデータ流出は警戒しており、トヨタや独フォルクスワーゲンなど外資系は開発中の独自OSの中国展開を制約され、欧米や日本向けの車とは異なる技術対応を迫られる可能性もある。ITが融合する次世代車の競争では、コスト低減のための技術の共通化と安保リスクも踏まえた地域別対応の切り分けの巧拙が問われることになる。(池田昇)