EV〝曲がり角〟で大減速、HV逆転の理由 需要に急ブレーキ「〝絶対的な社会正義〟の見方も薄れ…消費者は損得へ」
電気自動車(EV)の需要に急ブレーキがかかっている。調査会社マークラインズの集計で、2023年のEVの世界販売台数は前年比25・8%増の約909万台で、伸び率は前年の66・4%を大きく下回った。一方、日本メーカーのお家芸であるハイブリッド車(HV)の伸び率は31・4%とEVを逆転、外部電源から充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)の人気も高まっている。
国・地域別のEV販売では、主要市場の中国が16・3%増の約523万台で、伸びは22年の80・1%から落ち込んだ。米国は47・3%増の約118万台で、22年の62・9%から下がった。いずれも成長はしているものの、一時の勢いを失った形だ。
これに対し、23年のHVの世界販売台数は約459万台だった。伸び率は31・4%で、22年の15・2%から急加速した。PHVは約392万台で、46・0%増と高めの普及ペースが続く。
EVをめぐっては、充電コストや価格などの課題も指摘されてきたが、伸び悩みの背景に何があるのか。
自動車ジャーナリストの佐藤篤司氏は「EV市場は当初は小さかったため、一気に跳ね上がったが、高所得者中心の限られたパイには一通り普及した観がある。モーターに使われるレアアースの精錬に環境への負荷がかかるなど課題もあり、〝EVは絶対的な社会正義〟だという当初の見方も薄れたのだろう。そもそも多くの消費者は正義よりも損得で動く。各国のEVへの補助金の廃止や減額の動きも購入の動機を低下させている」と分析する。
社会正義より損得
日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が発表した23年度のEVの国内新車販売は前年度比2・5%増で、3・1倍の伸びだった22年度から大幅に鈍化した。
欧州自動車工業会が発表した3月の新車販売台数でも、EVのシェアは前年同期の13・9%から13%に縮小した一方、HVは同24・4%から29%に上昇した。
「EV大国」といわれる中国市場でもPHVの比率が高まっている。中国EV最大手の比亜迪(BYD)も、低価格帯のPHVを12万元(約250万円)で販売する予定だと発表するなど、PHVのラインナップを拡大している。
前出の佐藤氏は「EVは、社会正義を下地に導入された補助金が購入のモチベーション(動機)を維持してきた面もあるが、環境への配慮というならば、現段階ではHVやクリーンディーゼル車なども補助金の対象になってもいいはずだ。補助金の制度を一から見直す時期に来ているのではないか」と指摘した。