韓国人の反日感情が高まる「三一節」に、実は日本旅行が大人気という現実をどう見るべきか
毎年のように繰り返される論争
「いくらなんでも三一節に日本旅行なんて!」
「三一節に日本旅行が何か問題でも?」
韓国の抗日運動記念日の三一節(3月1日)の連休に日本行の予約が殺到しているという記事に対して、今年も韓国のネットユーザーたちの甲論乙駁が喧しい。
「旅行は個人の自由だ」「三一節はだめで、残りの364日は日本に行ってもいいのか」という擁護論と、「汚染水放流も現在進行形なのに、三一節に日本に行くなんて」「先祖たちに申し訳ないと思わないのか」という非難が拮抗しているのだ。
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韓国では、三一節や光復節(独立記念日)など反日感情が高まる祝日になると毎年、このような論争が繰り返される。
三一節とは、大日本帝国の植民地支配を受けていた1919年3月1日を起点に朝鮮半島全域で散発的に起きた抗日運動を記念する日で、8月15日の光復節(独立記念日)と共に日本の植民支配と深い関係のある祝日だ。
日本から独立して既に79年が経つが、多くの韓国人(大多数かもしれない)は、「心からの謝罪がなく、歴史問題はまだ解決されていない」と考えている。
コロナ収束以降、日本旅行の人気はいまだに冷めないが、三一節中の旅行について論難が起きているのは、そうした韓国人の情緒によるものだろう。
三一節の日本旅行が前年同期比3倍の人気
インターネットメディア「クッキーニュース」によると、今年の3月1日も韓国人に最も人気のある旅行先は日本だった。三一節の連休期間に出発する各旅行会社の日本行きパッケージツアーの予約はほとんどが売り切れで、前年同期比で3倍近くに急増したという。
同メディアは大手旅行会社の関係者の話を引用して、「3日間という短い連休期間や円安現象が加わり、日本の需要が際立って増えた」と分析している。
また、「最近は日本を不買運動対象国家と考える客がほとんど消えた」「現在の状況から見ると、今後も‘ノージャパン’の名残が旅行業界に影響を及ぼすとは思えない」という展望も紹介した。
(「三一節の旅行先1位に日本、パッケージ予約率が95%を超える」3月1日記事)
「聯合ニュース」は、「三一節の連休の間、韓国航空会社の日本行きの便はどこも満席に近い」と報道した。
それによると、LCCの済州航空は、国際線路線の中で仁川-松山路線の予約率が最も高く、ジンエアーも国際線予約率1位が仁川-福岡路線。大韓航空は日本の主要都市路線が全て90%以上の予約率を記録しており、アシアナは国際線上位3路線が仁川-札幌、仁川-福岡、金浦-大阪で全て日本行きだった。
聯合ニュースは、「三一節だからといって日本旅行を敬遠する雰囲気はない」という航空業界関係者の話を引用した。
(「三一節の連休に日本旅行に行きます」…航空便予約率「高空行進」2月21日記事)
ただ、そうした現実とは裏腹に、今年も韓国のネット上では、三一節に日本を旅行することについての議論が絶えなかった。例えば、某人気旅行ユーチューバーは、日本旅行の動画を2月29日夜にアップロードして世論の袋叩きにあっている。
該当動画には、「親日派か!」「むかつく!」「チャンネル登録を取り消す」などのコメントが相次ぎ、同ユーチューバーは「今後は慎重に考えてから動画を上げます」という謝罪文を掲載し、該当動画を非公開にした。
日本人アイドルたちも気を抜けない
三一節になると、韓国で活動中の日本人アイドルたちも格別に言行に気をつけなければならない。例えば2022年3月1日には、ルセラフィムのサクラ(宮脇咲良)がとばっちりを受けた。
サクラの中国ファンが彼女の誕生日(3月19日)を祝うため、2月28日からソウルの地下鉄「三省」駅に広告パネルを掲載したが、旭日旗を連想させるデザインが入っているという指摘が相次ぎ、3月1日に広告パネルが降ろされた。
この広告を企画した中国ファンは「漫画カットからイメージを借用しただけ」と釈明したが、韓国メディアからは「中国人が戦犯旗である旭日旗の意味を知らないわけがない。多分に意図的なものだ」という主張も出たほど、世論は激昂した。
今年はHYBE所属の7人組ボーイズグループ「ENHYPEN」の日本人メンバー、ニキが舌禍を招いた。
三一節前日の2月29日、ニキはグローバルファンプラットフォームの「Weverse」でファンと対話中、「明日休みだ」という韓国ファンのコメントに、「明日、赤い日(休日)ですか?」というコメントを付けた。「うん、明日は三一節なので休む」と言われると、「うらやましい」とコメントを足したが、この「うらやましい」という単語に韓国世論が激怒した。
K-POPアイドルとして活動しているニキが、韓国人にとって三一節がどんな意味なのか分からないまま、ただの休日としてのみ認識しているという点や、彼が日本人だということが作用したものとみられる。
ネットユーザーたちからは、「韓国で金を稼ぎながら韓国人の顔色も伺わない」「侵略されて休むのが羨ましいか」「あなたの国のせいで休んでいる」などの怒りのコメントが殺到した。
韓国メディアからも、「K-POPグループであるだけに、外国人メンバーも韓国の文化や歴史に対する理解を備えていなければならない」という指摘が出て、ニキは次のような謝罪文を上げた。
「重要な祝日である三一節について軽率に表現したことをお詫びします。自分の失敗に気付き、その文はすぐに削除しました。これからもっと気をつけます」
野党「共に民主党」の攻撃力にも翳りが
大統領就任後、三一節記念演説で日本とのパートナーシップを強調してきた尹錫悦(ユン・ソンヨル)大統領の記念スピーチも、野党や野党支持者を中心に少なくない非難を受けた。
最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、「(三一節は)日帝侵略に抵抗して自主独立の国を作ろうと戦った日だが、大統領は記念演説で日帝侵略とそれによる私たちの苦痛に対する言及と指摘がなかった」と批判した。
『京郷新聞』は、「(日本とは)歴史から始まった敏感な葛藤懸案が多数あるが、“過去の歴史は伏せて行こう”という基調を再確認した」と批判した。
(3月2日社説「南北問題・歴史問題の解決策がない尹大統領の3・1節記念演説は、‘空虚な独白’だ」)
『韓国日報』は、「昨年に続き、今年の記念演説でも日本の独島領有権主張と強制動員問題などの敏感な両国懸案に対する言及はなかった」とし、「できるだけ日本を刺激したくないというニュアンスが歴然とした」と指摘した。
(3月2日の記事「尹、‘痛い過去’はあいまいにまとめ…独立宣言文を引用して“韓日新しい世界に向かって進む”と宣言」)
一方、インターネットでは演壇に上がった尹大統領の後に掛かった「自(チャ)由のための偉(イ)大な旅程、大(テ)韓民国万歳」という3行のスローガンが大きな論難を巻き起こした。このメッセージを縦に読むと「自衛隊(チャ・イ・テ)」と発音が同じだからだ。
横書きを標準としている韓国では、横書きの各行の最初の文を縦に読むと、暗号のように隠された意味が現れるという「縦読み遊び」が若年層で流行しているが、それによると、尹大統領の三一節スローガンの隠れたメッセージは「自衛隊万歳」になるという理屈だ。
だが、三一節をめぐるネット上の様々な騒動にも、尹錫悦政権に向けた野党側の「親日」攻撃はあまり効果を発揮できずにいる。総選挙を40日後に控えていても、「選挙は日韓戦」という、かつての共に民主党の選挙スローガンは聞こえてこない。
文在寅政権当時、韓国社会を覆った猛烈な反日感情は、いつのまにか、「彼らだけの世界」であるインターネットの中で、細々と存在するだけになったような気がする。