解説|9兆円規模の介入、ドル円は乱高下、インバウンドと輸出企業に光
解説|9兆円規模の介入、ドル円は乱高下、インバウンドと輸出企業に光
こんにちは、NEKO ADVISORIES 岩倉です。毎週金曜日のNEKO TIMESは話題のニュースを取り上げ、経済・ビジネスのトレンドについて解説します。
ゴールデンウィーク(GW)を皆さんはいかがお過ごしでしょうか。私自身は前半の連休で台湾・台北を初めて訪れました。京都のように区画が整理された町並みであり歩きやすく、食事も美味しく、改めて訪れたい場所になりました。今度はコーヒー(貴重なゲイシャ種)とウイスキー(カバラン社)をテーマに旅行を計画したいです。
一方でこのタイミングでの旅行は「円安」をまさに感じる形となりました。1台湾ドルはおよそ4.7円で、両替所では5.3円ほどで取引されます。例えば60分の足裏マッサージは1000台湾ドルで5300円、500mlのお茶は40台湾ドルで200円ほどでした。コーヒーは豆や淹れ方にもよりますが1杯100-300台湾ドルで500-1500円です。割高感さえ感じてしまいます。
旅行大手JTBによると、GW期間の海外旅行者数は52万人になる見通しです。前年からは1.5倍ですが、コロナ禍以前の水準55〜60万人までには一歩届きません。同調査によると生活者の意識が変化していることも見て取れます。
「仕事や会社の業績が悪化し収入が減りそうだ(13.6%)」の前年比伸び率は「仕事や会社の業績が良化し収入が増えそうだ(7.5%)」の同伸び率より高く、所得の厳しい状況がうかがえます。他方で、「先行きがわからないので、今のうちに大きな支出を考えたい(5.3%)」が増加しており、旅行を控えるまでの過渡期にあるような印象を受けます。
足もとでは日本人の出国者数はコロナ禍以前の水準に及びません。日本政府観光局(JNTO)の最新の発表によると3月の出国日本人数は約122万人となり、コロナ禍以前の2019年比でマイナス36.8%です。旅行者数の動向はエネルギー価格の高騰、為替相場、インフレなどの世界情勢や経済情勢が大きく関わるといえ、訪日外国外国人旅行者数の増加・日本人出国者数の減少トレンドはそう変わらないことでしょう。
さて、本日のニュースレターではインバウンド需要について、直近の為替の動向をフォローしながら考えていきましょう。
<本日のトピック>
・長引くインフレ、米国は金利維持
・円が急伸、日銀による為替介入か
・輸出企業とインバウンド観光業、円安が後押しに
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長引くインフレ、米国は金利維持
26日に米商務省が発表した3月の個人消費支出価格指数によると、住宅価格は高止まりを観測しており、インフレ率は緩やかな上昇を示しています。(ロイター)また、民間調査によると市場予想を上回る雇用者数の増加も確認できます。(ロイター)
予想を上回るインフレ統計は物価上昇圧力の緩和までにまだ時間がかかることを示唆しています。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「インフレは依然として高すぎる」として、連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きを決定しました。会見では利下げへの方向感を残したものの、年内の実施には不透明な状況です。
パウエル議長、年内利下げの期待残す-インフレ圧力緩和の確度は低下 – Bloomberg
依然、米国は粘着性の高いインフレ下にいることがわかります。パウエル議長は会見で今後の金利の見通しについても言及しており、少なくとも「利上げ」を行うことはないと発言し、市場に安心感をもたらしています。直近では4月の雇用統計、ISM製造業景況指数などの発表が続きます。これらから経済の状態に対する認識を調整していく必要があります。
米商務省(ブルームバーグ)
円が急伸、日銀による為替介入か
30日に公表した5月1日の当座預金残高の見通しによると、為替介入を反映する「財政等要因」による減少額が7兆5600億円となりました。通常時の推計値と5兆円強の乖離していることから、市場では円が急変動した29日に5兆円規模の円買い介入があったとの観測が強まっています。
また、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果公表後、2日の円相場は157円から153円台まで急上昇しました。日本銀行が2日公表した7日の当座預金増減要因の予想値と市場の推計値に乖離があったことから、3.5兆円規模の為替介入が行われたと見られています。
ブルームバーグ
神田財務官は為替介入についてはノーコメントとしましたが、「過度な変動が大きな影響を日本経済に及ぼすことは看過できないときがある」と発言。必要な時に必要な対応を行う姿勢を示しています。
日本は約3.5兆円の為替介入実施した可能性、日銀当座預金見通し示唆 – Bloomberg
今回の介入は取引額が少なくなる時間帯を選ぶことで、介入の効果を上げています。今後、週明け6日はロンドン市場が休みになるため注意が必要と考える市場関係者もいるようです。しかしながら、ドル高・円安の流れはあくまでも米国と日本の金利差による構造的な問題です。介入は一時的な処置であり、根本的なトレンドの変化には米国の利下げ・日本の利上げがポイントになります。
輸出企業とインバウンド観光業、円安が後押しに
円安の場合、一般的に輸出企業とインバウンド観光業を後押しします。輸出企業にとっては、円安はドルなど外貨建てでの稼ぎを円換算することで利益を押し上げる効果があります。観光業にとってみると、訪日外国人客の増加、滞在中の利用金額を押し上げます。
キーエンスの中田社長は会見で「われわれの予想のところを超えてしまう変化」が起きていると言います。キヤノンの浅田専務も「極めてレアな状況」と表現します。一方で、サプライチェーンの安定という観点では円安(急激な)は問題になります。海外売上比率が90%の村田製作所は、円安は「短期的な収益面ではプラス効果」があるとしながらも、過度な円安進行はサプライチェーン(供給網)全体に影響する懸念を示します。(ブルームバーグ)
外国人観光客も目立つようになりました。2024年1-3月期の訪日外国人旅行消費額は1兆7,505億円(2023年同期比73.3%増、2019年同期比52.0%増)と推計されます。ひとりあたりの利用金額も21万円程度となりコロナ禍の水準から上昇しています。
観光庁
ところで、観光地では日本人と外国人観光客に対する価格が異なる「二重価格」の問題が指摘されるようにもなりました。外国人観光客の購買力が高まる中で、賃金の上昇が見られない日本人の購買力との差が出てきていることも事実です。円安下の観光業においては外国人向けの業態開発や語学が堪能なサービス人材の登用などこれまでとは違うところで戦っていくことも必要かもしれません。