現役Vリーガーが来春「うなぎ屋」開業 背に腹は代えられない懐事情
選手に指示を出すカノアラウレアーズ福岡の森田亜貴斗監督(中央)=福岡県福智町
バレーボール女子Vリーグ3部(V3)に属するカノアラウレアーズ福岡(福岡県福智町)が、チーム運営資金と選手のセカンドキャリアの確保を目指して「うなぎ屋」を開業する。選手が社長を兼務し、来春の店舗開業に向けてクラウドファンディング(CF)で資金調達を図っている。将来は養鰻場(ようまんじょう)も作り、地元の名産として地域の活性化につなげたいという。人口約2万人の小さな町で、女子バレーボールチームの意表をつく挑戦とは。
カノアラウレアーズ福岡はもともと福岡市を拠点に活動してきたクラブチームで、「カノア」はハワイ語で自由、「ラウレア」は幸福を意味する。
決まった練習場所がなく、新型コロナウイルス禍などでスポンサーが撤退したことで、活動資金が枯渇し、森田亜貴斗監督(41)が自腹でスタッフの給料を払うほど困窮していた。行き詰まっていたときに福岡市で医療コンサルタントを経営する森裕介さん(40)との出会いが状況を一変させた。
地元に何か貢献したいと考えていた森さんは、出身地の福智町を本拠地にすることを提案。自身は球団本部長に就任し、自治体との交渉、スポンサー獲得、Vリーグ機構との折衝など、プレー以外の部分を担うようにした。
令和4年3月、福智町とホームタウン協定を締結した。かつて炭鉱で栄えたが、昭和30年代から人口が半減した町にVリーグを目指すバレーボールチームが誕生した。スポーツでの活性化に力を入れる町は専用体育館を提供し、地域おこし協力隊など雇用面でも支援、選手は小中学校やアカデミーで指導などを行う。
さまざまな体制を整え、昨年10月に審査をクリアしてVリーグ3部に加盟、今年11月から初めてのV3リーグを戦うことになった。しかし、Vリーグ機構は6月、現在1~3部に分かれているリーグを来季から「SVリーグ」「Vリーグ」に再編することを発表。参入条件として①SVは6億円、Vは2億円以上の年間売上高②SVは5千人、Vは2千人以上収容のアリーナ確保-などの基準が設けられた。バスケットのBリーグでも導入されている資金力重視の考えで、企業としての経営力を求められている。
カノアラウレアーズの森田亜貴斗監督(左)と森裕介球団本部長。2人の出会いがチームを変えた(いずれもカノアラウレアーズ提供)
せっかくVリーグ入りを果たしたのもつかの間、再びのハードルに森部長が仕掛けたのが、うなぎ屋開業だった。
静岡県出身でうなぎ養殖を手掛けてきた鈴木健司さんが、フィリピンなどに生息する「ビカーラ種」といううなぎの養殖に長年取り組み、料理の鉄人にも出演した料理人の「KENSUKE」さんと一緒にニホンウナギに負けない味にすることに成功。絶滅危惧種に指定されているニホンウナギに替わる品種として日本での普及を模索していたところ、名乗りを上げたのが福智町の地域活性化を考えていた森部長だった。
起業して熊本比奈主将(28)を社長に、コロナ禍で閉店した福智町の店舗を改装して創作うなぎ専門料亭「加乃福うなぎ」を開業する計画。今年9月までに1回目のCFを実施し、436万円余の支援を受けることができた。この資金でうなぎの加工設備を整え、CFの返礼品とともに通販での販売を開始。来春には実店舗をグランドオープンする予定で、現在約150坪の店の改装が進められている。今回は11月から新たに2千万円を目標にCFを実施し、開業資金や特産品開発に充てる。
来春のオープンに向けて改装中の「加乃福うなぎ」の外観=福岡県福智町
V1でもプレーしていた熊本主将は「最初はうなぎをさばくのか、と思いましたが、『ハイ』と即答しました。新しいことに挑戦して福智町を盛り上げたいし、V1のチームでも引退後は何もなかった。セカンドキャリアを考えるチームがあればいいなと思っていた」と笑顔で語り、前向きだ。調理は専門の料理人が担当するが、選手が事業に関わることで引退後もチームに関わりながら町に残って働くことが可能になり、選手のセカンドキャリアが町の人口増加にもつながっていく。森田監督も「挑戦していく姿、面白いことをやっていることを見てもらいたい」とチャレンジしていく姿勢を強調する。
だが、最終目標のSVリーグ加盟には数年以内に6億円の売り上げを確保する必要がある。森部長は「養鰻場を作って町の特産品にしたいし、5つくらいの事業を立ち上げる必要があり、うなぎ屋はその第一歩」と今後も事業拡大、地域貢献策を練っている。今季のV3リーグで「全勝優勝」を目標に掲げるチームは、コート外でも前進を続けようとしている。(中野謙二)