岸田首相、茂木敏充氏の扱いに苦慮 不記載問題で対応せず、地固めに奔走
記者団の質問に答える岸田文雄首相=30日午前、首相官邸(酒巻俊介撮影)
自民党の衆院3補欠選挙での全敗を受け、岸田文雄首相(党総裁)が選挙の責任者である茂木敏充幹事長の扱いに苦慮している。茂木氏は首相を支える党ナンバー2だが、秋の総裁選に出馬する意欲を隠さず、首相との関係が悪化している。首相が派閥の政治資金パーティー収入不記載事件の対応に追われる中でも党内の中堅・若手らを取り込む動きをみせ、党内からは不満の声も出ている。
「責任を果たすことが何よりも重要だ。それに基づき、国民の信頼回復に向けて全力で取り組む」
首相は30日、官邸で記者団に補選全敗を受けた自身を含む党執行部の交代の必要性を複数回問われたが、こう述べるにとどめ、明言を避けた。
執行部の交代が取り沙汰されるのは、首相と茂木氏の関係が修復不能なほど悪化していることが大きい。
党内には、茂木氏が不記載事件で深入りを避けてきたとの見方がある。関係議員の衆参政治倫理審査会への出席の調整が進まず、首相自ら出席表明する形になった。政治資金規正法改正など政治改革の自民案の取りまとめは、各党から遅れた。党幹部は党本部4階に幹事長室があることを念頭に「4階のサボタージュだ」と不快感を示した。
一方で、茂木氏は不記載事件を受けて執行部が全国を行脚する「政治刷新車座対話」には頻繁に足を運んでおり、地方固めにも映る。首相周辺は「政権がつぶれるのを待っているんだろう」と冷ややかにみている。
また、茂木氏は安倍派(清和政策研究会)などの中堅・若手の取り込みを進めている。3月にも同派の会合に顔を出し、逆風の中、首相による早期解散を恐れる若手に対し「解散はさせない」と明言した。総裁選への布石とみられるが、同派若手は茂木氏が事態を収拾する立場だったことを踏まえ、「問題を放置し、結果的に安倍派をつぶした」と不快感を示した。
党役員は「連続3年まで」という任期の制限があり、秋には茂木氏は交代となるが、閣僚経験者は「秋まで茂木氏を続投させれば、政治改革の与野党協議にも本腰を入れず、首相は足を引っ張られるのではないか」と心配を口にした。
ただ、首相が茂木氏を事実上更迭できるかというと、簡単ではない。茂木氏は首相の後見役である麻生太郎副総裁とのつながりが深く、首相が麻生氏の理解なく茂木氏の交代に動けば麻生氏との関係悪化が避けられないからだ。
また、補選全敗で首相の求心力が低下する中では、後任の幹事長候補に打診を断られる可能性もある。実際、菅義偉前首相が令和3年夏、内閣改造・党役員人事を断行しようとしたが、多くの辞退者が出ることが分かり、結果的に政権の寿命を縮めた例がある。
補選の最中には、茂木氏が自ら引責辞任し総裁選の準備に本腰を入れるとの臆測もあった。首相も「茂木さんが辞めるというのなら仕方がない」と周囲に漏らした。
しかし、茂木氏にとっては、報道各社の世論調査の支持が伸び悩む中、党の資金や人事を差配できる幹事長ポストを手放すことはデメリットが大きい。首相と茂木氏がにらみ合ういびつな状況は当面続く可能性が高い。(永原慎吾)