医療はぜいたく品、国も支え切れない…これから日本を襲う「お金が尽きて死ぬ時代」に備える”ダンドリ”の正しい知識
『2050年には全5261万世帯の44.3%に当たる2330万世帯が1人暮らしとなり、うち65歳以上の高齢者が半数近くを占める』
先月に厚労省の国立社会保障・人口問題研究所が公表したこの数字は一時Xでトレンドにランクインするなど、衝撃の波紋が広がっている。
“人生100年時代”と言われる一方で、歯止めの効かない少子高齢化が進む日本。先行きの見えない状況下で老後を迎えるにあたり、私たちはどう備え対処していけばよいのか。
お金、健康、法律など、各専門分野のスペシャリスト8人が老後を解説する『死に方のダンドリ』ではそんな備えと対処について、詳細に明かした一冊だ。<【前編記事】日本は「お金が尽きて死ぬ時代」に突入する…高齢者にこれから襲い掛かる「3人に1人が貧困」という過酷な現実>に引き続き、本稿でもその一部を抜粋・編集しお伝えする。
高齢者1人を労働者1.5人で支える時代
令和5年版高齢社会白書によると、現在の65歳以上の人口は3624万人で、日本における総人口の29%を占めています。実に、3人に1人が高齢者という状況です。
高齢者が今後も加速度的に増えていく中で、状況はますます苦しくなっていきます。内閣府の調査(図2)によると、1950年時点では高齢者1人を12・1人の働き手(15~64歳)で支える状況だったのが、2015年には、高齢者1人を労働者2.3人で支える状況になっています。
【図2】高齢化の推移と将来推移
さらに2045年には、高齢者1人を労働者1.5人で支えなければならなくなると予想されています。こういった状況の中で、昔のように長生きを素直に喜べない!という状況が現実のものとなりつつあります。
こうした新たな人生のリスク、すなわち、長生きしすぎて生活資金が底をついてしまうリスクのことを「長生きリスク」と呼びます(英語ではlongevity risk)。長生きリスクという言葉は、日本だけでなく、先進国にとって最大の懸念事項になっています。
図2を見てください。2030年頃から日本の総人口は1億2千万人の大台を割って急速に減少していき、高齢者の割合は現状の3割から4割に向かって急増していくことになります。
バブル崩壊後の1990年代後半から現在に至るまでの期間は”失われた30年”と言われていますが、これからは”縮んでいく30 年”の始まりです。今後の日本を襲う怒濤の高齢化と人口減少から目を背けることなく、真剣に考えるタイミングが来ています。
……と、ここまでは、主に「お金」の話ばかりしてきました。しかし、高齢者にとって、お金と同じかそれ以上に失いやすく重要な「健康」も、実は脅かされています。その点を考慮すると、実はもっとお金が必要になります。
日本の公的医療制度は素晴らしく、医療費のかなりの部分をまかなってくれます。しかし、それは、現役世代の労働者が支払う保険料と税金で運営されています。利用者に比べて現役世代が減っていくと、当然ながら規模や質の維持が難しくなってくるでしょう。
もはや国も耐えられない…
2021年度「国民医療費の概況」(厚生労働省)を見ると、2021年度に国全体でかかった医療費約45兆円のうち、患者負担は約5兆円にすぎず、残り40兆円は全て税金と保険料から出されています。
また、厚生労働省「介護給付費等実態統計」によると、2022年の介護保険給付総額は約11兆1912億円となっており、過去20年間で2倍強に増加しています。
これは、高齢者が増えたことで介護年金の支給件数や支給額が増えたことを示しています。こうした統計を見ると、日本の公的医療制度がいかに金食い虫かがわかるでしょう。
「自分は重い病気になんてならないから関係ない!」と思われるかもしれません。しかし、年を重ねてくると、足腰が悪くなったり病気を繰り返したりなど、命に別状はないけれども継続的な通院が必要になる場合もあります。若いころとちがって、生きているだけで医療費がかかるようになってくる場合が多いのです。
2021年度「国民医療費の概況」によれば、一人当たりの平均医療費は現役世代は年間20万円前後ですが、65歳を超えると75万円、75歳を超えると92万円まで上がります。夫婦だと、この2倍かかります。
現在はこの大部分が保険料と税金でカバーされるわけですが、公的医療制度が弱体化して、自分がほぼ全部の負担を被ることになると、果たして耐えられるでしょうか。
そのときに、生活の質(Quality of Life)をあきらめて何十年も我慢しつづけるのか、それとも医療の力を借りて少しでも快適に日々を過ごすのかという選択を迫られることになるでしょう。いずれにせよ医療費の問題は、年を重ねるにつれて切実になっていきます。
医療は「ぜいたく品」になる
国民皆保険制度が存在しないアメリカでは、虫歯の治療をしたり、救急車を1回呼んだりしただけで、数百万円を請求されることもあります。医療にはお金がかかるというのが世界の常識です。
日本がそうなっていないのは、現役世代がまだたくさんいて、高齢者を支えているからです。その砂上の楼閣のような仕組みが、今にも崩れ去りそうになっているのです。
前編の『日本は「お金が尽きて死ぬ時代」に突入する…高齢者にこれから襲い掛かる「3人に1人が貧困」という過酷な現実』さきほど、老後の生活をしていくためには1500万円ほどの貯金は少なくとも必要だ、という試算についてお話ししました。ただ、あの数字は、日本の公的医療制度が今後もずっと今の品質とコストのまま存続する前提で算出されています。
公的医療制度が縮小、またはほぼ廃止に追い込まれたときには、医療は米国並みの「ぜいたく品」となり、生きていくためのコストは跳ね上がるでしょう。
このリスクは、今の日本における「老後」の議論からは見逃されてしまっています。
私のここまでの話を聞いて、この困難な時代を生きていけるのか、自分が年老いたころに日本はどうなっているのか、と不安になった人もいるかもしれません。
ただ、時代が今後どうなっていくかの予測さえできれば、それに向けた方策を考えて備えることができます。長すぎる老後を生き抜くことは不可能ではないのです。
このお金のない時代を生き抜き納得のいく最期を迎えるためには、死ぬにもさまざまな面からダンドリをしておくことが必要となります。
寿命が長いということは、裏を返せば、その時間でいろいろな対策が打てるということでもあります。この本で自分に必要なダンドリを知って、さっそく準備に取りかかりましょう。