リコー「GR III」特別仕様モデルは何が変わった? HDFフィルターの写りを検証
向かって左がGR III HDF。右がGR IIIx HDF。正面から見ても違いはありません(レンズに書いてある焦点距離とレンズの厚みで分かるけど)
単焦点レンズを搭載したハイエンドのスナップ向けコンパクトカメラの代表といえば、リコーの「GR III」と富士フイルムの「X100VI」である。それが4月の段階でどちらも予約注文も停止するレベルの品不足。そんな中、リコーからGR IIIの特別仕様モデルが発売された。
HDFフィルターを内蔵した「GR III HDF」と「GR IIIx HDF」である。大きな違いはそこだけなのだけど、それをGRに入れた、ということ自体に意味があるのだと思う。
●HDFを入れると写りがどう変わる?
とりあえずGRとはどういうカメラかというところをちょろっと。初代GRはフィルム時代のコンパクトカメラで1996年の「GR1」から始まる。レンズは28mm F2.8……今のGRと同じだ。
その後、デジタルカメラの時代がやってきて、2005年に初代「GR Digital」が誕生。「GR Digital IV」まで進化したところで、2013年にはセンサーサイズをAPS-Cサイズに大型化して仕切り直した「GR」が誕生。現在のGR IIIは、その3代目に当たる。
GR IIIとIIIxは搭載するレンズの焦点距離が違う兄弟モデルとなる。GR IIIは、GRシリーズ伝統の35mm判換算で28mm。開放F値はF2.8。フィルム時代から続く広角単焦点カメラだ。
対してGR IIIxは、GRIIIから登場した35mm版換算で40mm相当のレンズを持つカメラ。35mmと50mmの間を突いてくるという、絶妙なスナップ向き焦点距離である。
画角の差としてはこんな感じ。
イメージセンサーは、APS-Cサイズの約2424万画素でボディ内手ブレ補正搭載を搭載している。シャッターはメカシャッターのみで最高で1/4000秒(F2.8時は1/2500秒まで)。
ISO感度はISO100からISO102400。メカシャッターのみのため、快晴下で開放絞りで撮ろうとすると、露出オーバーになることがままあった。
そのため、GR III/IIIxではNDフィルターを内蔵。それを塚ってシャッタースピードを落とすことができる。
そのNDフィルターを外し、代わりにHDFフィルターを搭載した特別モデルが「GR III HDF」と「GR IIIx HDF」だ。
HDFフィルターは「Highlight Diffusion Filter」の略。ハイライト部を拡散させてほわっと柔らかい表現にするのが特徴。Fnボタンに割り当てられており、ボタン1つでオンオフできるのがいい。
GRシリーズは伝統的に(それこそ、デジタル版GRの初代機GR Digitalから)、解像感高いシャープな絵作りを特徴としてきた。
HDFは、描写を柔らかくするフィルターなので、これでシャープでキリッとしたGRっぽい写りを基本としつつ、必要に応じて光を柔らかく描写する写りも得られるというわけなのだ。
その違いがもっとも出るのは夜。分かりやすすぎるレベルで出るので見てほしい。
こんな感じだ。
その他、分かりやすいものを数パターン用意してみた。横長の写真を比較しやすいようにクロップして並べてある。
モノクロで撮ってもいい感じだ。
昼間でもいい感じのハイライト部分があればそこがほわっとなる。
こちらはGR IIIx HDFのマクロモードで撮ってみた、たんぽぽの種。
これ、HDFオフの写真と比べてみると、HDFオフだとディテールまでシャープなのに対し、オンの方はちょっとほわっとしてる。
●小さくて高画質なスナップカメラとしては最高に優秀なのだった
ここから先は、(HDFをオンにして撮ったものばかりではあるが)普通にスナップをいろいろと撮ってみたい。
このシリーズは、初代GR Digitalから基本デザインが変わってないのが特徴で、イマドキのカメラながらEVFも未搭載だ。老眼の人にはつらい(老眼化が進んでる個人の感想です)……んだけれども、ディテールを画面で見ながら設定を追い込んで撮るというよりは、だいたいの構図でパッと撮るのが楽しいカメラだから、老眼でもまあいいんじゃないかという気もする。
特にそう思わせるのが「フルプレススナップ」の搭載。
普段はシャッターボタンの半押しでAFが動作し、押し切ると撮影されるのだけど、フルプレススナップをオンにしてあれば、シャッターを一気に押すと指定した距離にフォーカスを合わせて即座に撮れるのだ。
フルプレススナップの距離を2.5mにしてF8くらいに絞っておけば、瞬間的にぱっとノーファインダーで撮れたりする。
フルプレススナップ時の撮影距離は0.3mから∞までから選べる。
人を撮るときは瞳検出機能を持っているのでそれを使う。
どちらもHDFオンで撮影。微妙な違いだけど、個人的にはHDFをオンにした方が好みかな。
残りの作例は街のスナップを。
タッチパネルを持ってるのでさっと構えて構図を決めたら指でフォーカスを合わせたい被写体をぱっとタップしてシャッターを押す。その流れがなかなか快適だ。
●あなたならどれを買う?
これらはGR III(2019年発売)とGR IIIx(2021年発売)の特別エディションであるから、いまさらGR IIIやIIIxの操作感や画質について細かく触れはしなかったけれども、基本的にポケットに入れられるサイズで思いのままにさっと撮れるカメラだ。
APS-Cサイズセンサーなので画質もいいし、リコーならではのシャープな描写がある。
何より小さいのがいい。レンズもあまり飛び出ないので、目立たずにさっと撮れるし、機動力が高いのでこれを持って歩いていると、デジタル一眼ではレンズを向けないようなものに目がいく。
GRの面白さの1つかと思う。
そんなGRにハイライト部を柔らかく描写するHDFを内蔵したのが今回のモデル。特に夜のスナップを多めに撮りたい人や逆光でのスナップが多い人なんかにいい。
これで、GR IIIシリーズも4モデルになった。
レンズが28mm相当か40mm相当か、NDフィルタ内蔵可、HDフィルタ内蔵かの4パターンのマトリックをかける。もし個人的にどれか選べと言われたら、GR IIIxのHDFエディションかな。で、普段はHDFをオンにしたまま撮って歩くような気がする。