トップが400万円の「餅代」「氷代」を配り「総理」を目指す…自民党政治を支えてきた「派閥」の「からくり」《『自民党と派閥』緊急復刊》
読売新聞グループ本社代表取締役主筆である渡辺恒雄氏が1967年4月に刊行した『派閥と多党化時代―政治の密室 増補新版』が、4月26日に『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』として緊急復刊する。当時、30代後半から40代初めの政治記者で、幅広く政界を取材していた渡辺氏の分析は、「政治とカネ」や「派閥」が大きな問題となっている現代にも通用するものが少なくない。今回は、本書に収録されている元読売新聞政治部長・前木理一郎氏による解説の中から、渡辺氏の記述を理解するうえで重要な補助線となる増補第一章「令和の派閥」の一部を特別公開する。
派閥とカネ
選挙と密接に絡むのが政治資金だ。派閥はこれまで、資金集めと配分で、重要な役割を果たしてきた。
中選挙区時代には、派閥の領袖が、企業・団体献金などで多額の政治資金を集め、自らの派閥に属する議員や候補らに対し、冬には「餅代」、夏には「氷代」と呼ばれる資金を配っていた。関係者によると、当時の「餅代」「氷代」はそれぞれ200万~400万円程度が一般的だったという。50人の派閥だとすると、派閥領袖は年間2億~4億円の資金を子分に配っていたことになる。
photo by iStock
しかし、派閥領袖による巨額の金集めは、企業らとの癒着・汚職を生じやすい面があったことは否めない。1976年のロッキード事件や、1988年のリクルート事件、自民党の金丸信・元副総裁への5億円のヤミ献金などが発覚した1992年の東京佐川急便事件などは国民の強い批判を招いた。東京佐川急便事件を受けて、税金による政党交付金制度の創設とセットで、政治家個人への企業・団体献金が1994年に禁止されると、派閥領袖が巨額の政治資金を集め、子分に援助することが難しくなった。
その代わりに、派閥や政治家個人の金集めの新たな舞台となったのが、政治資金パーティーだった。政治資金パーティーの券であれば企業や団体でも購入することが可能で、本来は禁止されている企業・団体献金の「抜け道」となったためだ。自民党の各派閥にとって資金パーティーは重要な収入源だ。当選回数や閣僚経験などに応じて、所属議員に数十万から数百万円の販売ノルマを課し、巨額の収入につなげている。
最近は、政界を取り巻く環境の変化や長引く不況のあおりなどでパーティー券収入も減少した。2022年分の政治資金収支報告書(中央分)では、自民党六派閥の中でトップだった麻生派でも、パーティー券収入は2億3331万円だった。
このため、派閥領袖はかつて200万~400万円の「餅代」「氷代」を配ったような大盤振る舞いはできず、今では50万~100万円程度に減っているという。
派閥と総裁選
自民党の派閥形成は、党首である総裁の選出を究極の目標としている「総理大臣への道」であることに変わりはない。しかし、小泉首相を誕生させた2001年4月の総裁選以降、国民的人気が総裁選でも大きな比重を占めるようになってきた。加えて、派閥領袖ではない有力議員の総裁就任が増えた。「ポスト小泉」を争ったのは「麻垣康三」と呼ばれた麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三の四氏だ。四氏は2006年から09年にかけて相次いで総裁に就任したが、派閥領袖は麻生氏のみだった。麻生氏も規模の小さな麻生派の領袖に過ぎず、総裁選に勝利したのは麻生氏の国民的人気が主な理由だった。
民主党政権末期の2012年9月に行われた自民党総裁選も、国民的人気が高い石破茂氏に注目が集まった。石破氏は党員投票を含む第一回投票ではトップに立ったが、決選投票では各派閥の合従連衡による多数派工作が展開され、派閥の枠組みに乗った安倍晋三氏に敗れた。その後の2018年、2020年総裁選では、派閥の動向が勝敗の帰趨を決めた。岸田首相が誕生した2021年9月の総裁選は、岸田派以外は自主投票となったが、安倍派を率いる安倍晋三氏の動きが大きな役割を果たした。
・・・・・
つづく記事『「魔力ともいうべき特殊な政治力を感じた…」読売主筆・渡辺恒雄氏が分析していた、政界で権力を保持し続けるための「必須条件」』では、『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』に記されていた渡辺恒雄氏の分析を特別公開しています。