【自民党・内部報告書入手】業界への補助金バラ撒きを進めて「組織票」頼みの解散・総選挙に踏み込む岸田首相
自民党支持団体はどれだけの集票力を持つのか(岸田文雄・首相/時事通信フォト)
自民党の支持率が低迷するなか、岸田文雄・首相が目論んでいたとされる「6月解散」に黄信号が灯ったように見える。ところが、崖っぷちのはずの岸田首相は“伝家の宝刀”を抜くため、密かに準備を進めていた。その証拠となる内部報告書を入手した。【前後編の後編。前編から読む】
【ほぼ“満額回答”】約17万票(組織内議員の得票数):日本宗教連盟等:信仰・宗教に関連した文化財の保護についての支援:計約479億計上、計約69万票(同):日本医師会:診療報酬+0.88%等…自民党がバラ撒き優遇してきた支持団体と、要望と回答の一覧
岸田首相には、自民党の組織票を動かす「奥の手」がある。それを発動していた。本誌・週刊ポストはそれを示す自民党の内部資料を入手した。
自民党組織運動本部団体総局が3月に作成した〈令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】〉と題するA4判31ページの文書だ。文書は自民党の「票とカネ」を根幹で支える業界へのバラ撒きを示すものだ。
内容を個別に見ていくと、日本医師会などは診療報酬引き上げ、建設コンサルタンツ協会は公共事業費の確保など、各団体が予算や補助金の増額、業界への税制優遇を求める要求のオンパレードで、ほぼ“満額回答”だ(リスト参照)。そして、これらの団体は選挙において“組織票”となるというわけだ。
解散前の人事で勝負
これらの団体はどれだけの集票力を持つのか。
有力な団体は、自民党の参院の比例代表に「組織内候補」を擁立し、議員を送り込む。組織内候補の得票数(2022年参院選)を見ると、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護連盟など医療系団体は約69万票、全国郵便局長会は約41万票、農政連など農協系は約18万票と巨大だ。
自民党が何度も政治とカネの不祥事を起こし、国民の怒りを買っても政権を維持できるのは、補助金(カネ)と票のギブ・アンド・テイクで結びついたこれらの団体の「組織票」があるからだ。
岸田首相は業界団体へのバラ撒きを進めることで、「組織票」を頼みに解散・総選挙に踏み込もうとしている。
4月末の補選全敗を受けて、岸田首相側近の木原誠二・自民党幹事長代理は「いま自民党は非常に厳しい状況だ。(総選挙になれば)政権交代が起こってもおかしくない」と語ったが、その真意は別にある。
「自民党が政権を失うと業界団体は困る。木原さんは総理の意を汲んで、業界団体の危機感を煽ることで総選挙で組織票をフル動員させようとしている」(岸田側近)
官邸では国会閉会後に内閣改造と自民党役員人事を行なって人事一新し、「総選挙シフト」を敷くプランが練られている。官邸スタッフが言う。
「岸田首相が警戒しているのは大臣たちの解散への抵抗だ。閣僚で解散に強硬に反対しそうな大臣を全員交代させておく必要があると考えている」
党役員人事では、これまで主流3派として政権を支えてきた麻生太郎・副総裁、茂木敏充・幹事長の交代が既定路線だ。自民党閣僚経験者はこう見る。
「総理は就任時に党役員の任期を最長3年に制限した。麻生さんも茂木さんも任期3年目の半ばを過ぎたから、役員改選となれば自動的に退任でしょう。後任の幹事長は選対委員長を経験した森山裕・総務会長を起用するんじゃないか。他に選挙を仕切れる人物はいない。
内閣改造も大幅になる。新大臣は安倍派や二階派を一掃し、ポスト岸田に名前が挙がる石破茂、河野太郎、小泉進次郎の小石河トリオ、上川陽子・外相や高市早苗・経済安保相も全員入閣・留任させる。
麻生さんの後任の副総裁には、反主流派の菅義偉・前総理に打診する可能性もある」
総裁選で動けないようにライバルを閣内と党役員に封じ込めておく構想だ。そのうえで、「組織票」に選挙の号令をかける。
政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「解散を諦めたと思われている岸田首相が抜き打ちで解散に動けば、自民党内は阿鼻叫喚になるでしょう。しかし、総理大臣がひとたび伝家の宝刀(解散権)を抜くと腹を固めれば、自民党にも野党にも総理を引きずり下ろす手段はない」
だが、そんなやり方で有権者の批判をかわし、業界頼みで選挙を乗り切れると思っているなら、岸田首相はいまや完全に「裸の王様」である。
(了。前編から読む)
※週刊ポスト2024年5月17・24日号