『円谷プロ』の”底力”はやっぱり凄かった…21世紀を予見した『ウルトラQ』『怪奇大作戦』3つのエピソード
凝縮された「人間ドラマ」がつまっている
円谷プロ製作の特撮作品といえば、ウルトラマンシリーズのようにスーパーヒーローが活躍する作品を想像しがちですが、今回ご紹介するのは、人間が怪獣や怪事件に立ち向かう『ウルトラQ』『怪奇大作戦』の2作品です。
もちろん円谷プロ作品には、他にも『マイティジャック』『緊急指令10-4・10-10』など、変身しない人間たちが主人公として活躍するものはありますが、前述の2作品は他と比べて後の作品群のオリジン要素が濃いのが特色です。
そんな2作品から、テレビマガジン編集部が選りすぐりのエピソード3つを、『テレビマガジン特別編集 ウルトラQ EPISODE No.1~No.28/怪奇大作戦 EPISODE No.1~No.26』よりご紹介します。
いずれも、時代を越えた先見性と、人間ドラマとしての深さを感じさせるエピソードです。
テレビマガジン特別編集 ウルトラQ EPISODE No.1~No.28/怪奇大作戦 EPISODE No.1~No.26
超「夢の超特急」を厄災が襲う
まずは『ウルトラQ』第10話「地底超特急西へ」です。
主な舞台となるのは、新東京駅と北九州駅を最高時速450キロでわずか3時間で繋ぐ列車「いなづま号」。行程の80パーセントは地底を走る、まさに「世界最後の超特急」です。
「いなづま号」のデザインのかっこよさが、ストーリーにリアリティを与える。
このエピソードが放送されたのは1966年3月6日。一方、「夢の超特急」東海道新幹線が開通したのが1964年10月1日という、放送の約1年半前の出来事でした。
当時のひかり号は東京と新大阪を最高時速210キロ(テスト走行では256キロ)、4時間(後に3時間10分)で走破するものでしたが、『ウルトラQ』が東京と九州を繋いだように東京駅~博多駅が全線開通するのは1975年を待たねばならず、それも約7時間(現在は約5時間)の行程でした。
年末バラエティでも話題になった(!?)M1号が騒動を巻き起こす。
偶然に人工生命M1号といなづま号の先頭車両に乗り合わせることになった少年は、暴走した車両が北九州駅に衝突する直前に特殊合金製の保管ロッカーに逃げ込むも、衛星軌道まで吹っ飛ばされてしまうのですが、M1号も仲良く同じ軌道を周回するという結末でした。
毎日が休日、しかも無税の町だが…
次にご紹介するのは『ウルトラQ』第17話「1/8計画」です。
人口の増加が止まらない世界への対処法として政府が考え出したのが、人間を8分の1サイズに縮小にして、場所も食料も衣服も節約しようという「1/8計画」でした。
それに参加しようとする人たちに巻き込まれてしまった主人公たちの一人、江戸川由利子は、あれよあれよという間に縮小されてしまいます。
意に反して、由利子は8分の1のサイズに!
ミニチュアのような街に入り込んでしまった由利子は、8分の1の世界を抜け出して、仲間のもとに帰ろうとします。
しかしそこで彼女が見たのは巨大な(と見えるのも本人が8分の1サイズだからなのですが)自分の遺影でした。自らが死んだものとされていることを知った由利子は居場所を失ったと感じ、涙ながらまた8分の1の街へと戻っていくのでした。
巨大な鉛筆で「さようなら ゆりこ」という手紙を残す由利子。
8分の1の街には労働も納税も争いもありませんが、名まえを持つことは許されず、番号で呼ばれ、徹底的な管理体制が敷かれていました。ここはユートピア? それとも……。
現在の日本は少子化で人口の増加こそ止まっていますが、他にも数々の問題を突き付けてくる作品ではないでしょうか。この後に待ちうけるラストも、救われるというか救われないというか、必見です。
別世界の風景は幻か、最新科学か?
そして『怪奇大作戦』からは第11話「ジャガーの眼は赤い」をご紹介しましょう。
不思議なサングラスをもらった小学生が誘拐される事件が発生します。一緒にいた弟によると、突然西部劇で観た風景が出現し、洞窟の中にいたジャガーの目が光ると、兄はもう姿を消していたというのです。
犯人は続いてその弟も誘拐するのですが、事件解明の依頼を受けたSRI(科学捜査研究所)が見破った手口は、レーザー光線を使ったホログラフィ(立体映像)を使ったものでした。
サンドイッチマンにもらったサングラスが、実はトリックの種だった。
今でいうならバーチャルリアリティですが、この作品が作られた1968年といえばまだ赤と青のグラスを通した立体メガネによる「飛び出す映画」が流行していた時代で、偏光メガネによるカラーの立体映像が一般的に知られるようになるのは、1985年のつくば科学万博を待たなければいけません。
さらに2009年の『アバター』が大ヒットしたことで3D映画のブームが巻き起こり、立体映像は一般的なものになりました。
立体映像の中のジャガーの眼が赤く光る!
しかしこの犯人の誘拐の目的は、身代金で立体映像技術を実用化するための研究資金を得ることで、時代を先取りしながらも妙にリアルな犯罪だというのが哀れを誘います。
さらに犯人が捕まえられた罠も、SRIが立体映像を逆用したもので、悪いのは技術ではなく使う人間のほうなのだと思い知らされる結末でした。
怪獣をたおせ!怪奇をあばけ!
先見性に満ちた3つのエピソードを紹介しましたが、実はこの2作品にはほかにもホラー、コメディ、風刺、アクションなど、さまざまなテイストのエピソードが揃っており、まさに飽きることを知らない傑作群となっています。
ぜひ『テレビマガジン特別編集 ウルトラQ EPISODE No.1~No.28/怪奇大作戦 EPISODE No.1~No.26』をお供に楽しんでいただければと思います。
※『怪奇大作戦』第24話は欠番のため、本書には収録されておりません。