「会社より自分磨き」のZ世代獲得へ 職種別採用、サウナ面接、動画公開 知恵絞る企業
学生向け会社説明会が解禁され、多くの学生が集まったイベント会場=3月1日、横浜市西区(岩崎叶汰撮影)
令和7年4月入社の新卒採用に向けた企業の活動が本格化し、経団連の加盟企業を中心に6月から面接試験が始まる。「Z世代」と呼ばれるおおむね20代前半の若者はキャリア意識が強く、入社後の転職も珍しくない。人手不足が深刻化し、企業は優秀な人材を獲得して自社につなぎ留めようと、採用段階からZ世代の特徴に合わせた取り組みを進めている。
「御社では、どのような人が早く成長して、活躍していますか」
大手不動産関連会社の担当者は、近年の採用活動で学生らと接し、そうした積極的な質問に驚かされた。「Z世代はこれまでの世代より成長意欲が高いと感じる」
あるメガバンクの採用担当者は「会社に求めることが生活の安定から、自分の成長やスキル獲得に変わってきている」と話す。
背景には終身雇用の崩壊などによる労働市場の流動化がある。学生らは「自分の市場価値を高めなければならない」という意識を強め、入社後も「思い描いていた仕事と違う」と感じると、すぐに転職を考え始める傾向があるようだ。
一方、少子化で人手不足が多くの業種で顕在化。自分の能力向上を重視する若者気質に直面した企業は、人材流出に危機感を持ち、Z世代の心をつかもうと躍起だ。
住友商事は7年4月入社の新卒採用から、入社後最初の配属先を選択できる新たな制度を導入した。専攻分野に関係なく、不動産など28ある部署の中から希望の部署を選ぶことができる。
三井住友銀行は令和元年に新設したコース別採用を拡充。「希望する業務にすぐ携わりたい学生が増え、総合職としての一括採用では適さないケースも出てきている」という。パナソニックホールディングス(HD)も5年度採用から、内定時に初期配属の職種を確約する採用体系を導入した。
このほか、Z世代に向けた企画・マーケティング事業を展開する僕と私と株式会社(東京都渋谷区)は希望者対象に「サウナ採用」を行っている。社長と応募者が1対1でサウナを楽しみながら面接。今瀧健登社長は「リラックスしながら話ができ、人となりがよくわかる」と話す。
「リーガロイヤルホテル」を展開するロイヤルホテルは、会社説明会で調理職などの実演や体験を増やしている。菓子をつくってみせたり、カクテルを試飲してもらったり。担当者は「ホテルの仕事に興味を持つきっかけに」と期待する。
Z世代が慣れ親しんだデジタルを駆使する企業も増加。パナソニックHDは7年度採用から段階的に、専用サイトで専攻や経歴を入力すると、人工知能(AI)が適した職種などを勧める仕組みを導入する。近鉄百貨店は昨年から、エントリーした学生向けに、若手社員へのインタビューを動画投稿サイト「ユーチューブ」で限定公開している。
入社後の待遇面で魅力向上を図る企業も多い。7年度に750~780人(経験者含む)の採用を計画する日本製鉄は、初任給を大卒で4万1000円、高卒で3万円引き上げる。企業の将来を担うのは若い世代。採用活動は年を追うごとに熱気を帯びている。
「選ばれる企業」へ 配属や異動に丁寧な説明を 立教大・中原淳教授
日頃接している学生から受ける印象では、就職活動のあり方やワークライフバランスの考え方が、以前とまったく違う。現在は大学3年生の春ごろから企業でのインターンシップが始まり、早い時期から仕事について考える環境にある。待遇のよい大企業に行きたい、中小企業はできれば避けたいという「安定志向」は昔と変わらない。
ただ、終身雇用ではないということを分かっている。だからこそ、「配属や勤務地を自分で選びたい。選んでいないことに責任を取りたくない」という意識が強い。転勤や長時間労働を嫌い、自分の時間を尊重する。その意味でロジカルだ。
一方で人手不足により「個人が企業を選ぶ」という状況が年々加速し、あと10年もすれば、かなりの企業が新卒を採用できなくなるだろう。
企業が選ばれるためには、上司と部下の面談で、配属や異動に際して「なぜこの人事なのか」「その後のキャリアにどうつながるのか」を丁寧に説明しなければならない。経営者には、人的資本への投資こそ競争優位をつくるという意識がますます問われる。(聞き手 牛島要平)
若手社員の半数以上が転職活動の経験あり
ある関西の大手エネルギー企業の担当者は、新卒採用の予定数を毎年増やしている理由について「入ってもすぐに辞めてしまう割合が増えているから」と話す。転職サイトがインターネットやテレビの広告をにぎわすのも、少なくとも若者の意識の中で、一つの会社に一生勤める「終身雇用」が過去のものになっていることを象徴している。
実際に、転職活動をしている企業の若手社員は年々増加傾向にある。
人材関連事業などを手掛けるレバレジーズ(東京)が18~29歳の正社員とフリーターに調査した「若者しごと白書2024」によると、正社員1千人に「現在転職活動をしているか」を聞いたところ、約5人に1人(21・4%)が「現在転職活動中」と回答。昨年度の18・2%から3ポイント程度上昇し、過去3年間で最も高い水準となった。
また、「転職活動の経験はあるか」を聞いたところ、約3割(33・7%)が「転職活動をしたことがある」と回答。「現在転職活動をしている」と合わせると、若手社員の半数以上に転職活動の経験があることが明らかになった。同社は「働く環境を変えることに対して抵抗感が少ない若者が増加傾向にある」としている。
ではなぜ、転職しようとするのか。同白書によると、転職活動を始めたきっかけ(正社員551人、3つまで回答)は、1位が「給与が低い」で44・6%、2位が「やりがい・達成感がない」で29・9%、3位が「人間関係が悪い」で23・0%。給与などの待遇面での不満が直接の要因で、そこにやりがいのなさや人間関係などが後押しする実態がうかがえる。(牛島要平)