バスやトラックで「左後ろのタイヤ」の脱落事故が急増している意外な理由

バスやトラックで「左後ろのタイヤ」の脱落事故が急増している意外な理由

写真はイメージです Photo:PIXTA

走行中の大型車からタイヤが外れる事故が急増しています。YouTubeなどでは、外れたタイヤが道路を転がる衝撃映像をいくつか見ることができます。そして国土交通省によると、22年度に起きた事故でタイヤが外れた箇所を見てみると、その9割超が「左後輪」だったといいます。なぜこの位置にあるタイヤが外れやすいのか、大手自動車メーカーで開発エンジニアを務めた経験を持つ筆者が解説していきます。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一)

大型車の車輪脱落事故のうち

9割超が「左後ろのタイヤ」!

 バス・トラックなど「大型車」の車輪脱落事故が増えています。国土交通省によると、2022年度の車輪脱落事故発生件数は140件。21年度の123件から17件増加しており、5年前の17年度(67件)からは2倍以上に増えていました。

 国交省の調査結果をひもといていくと、22年度に起きた車輪脱落事故のうち、93件が冬季(22年11月~23年2月)に集中。最も多かったのは22年12月でした。また、車輪脱着作業を行ってから1か月以内に発生した事故が74件と半数以上を占めていました。

バスやトラックで「左後ろのタイヤ」の脱落事故が急増している意外な理由

国土交通省の資料 より

 車輪が外れたクルマの本拠(保有者・管理責任者の所在地)は、東北地方が54件で最多でした。このように、寒い時期・地域に事故が集中しているのには理由があり、ユーザーが自ら「冬用タイヤ」に交換していたケースが多かったと国交省は指摘しています。

 具体的な事故要因としては、「タイヤ脱着作業時のオイル塗布不良による軸力不足」「ホイールナットの締め付け力の不足」「タイヤ脱着作業後の『増し締め不足』に伴うホイールナットの緩み」などが挙げられるといいます。

バスやトラックで「左後ろのタイヤ」の脱落事故が急増している意外な理由

国土交通省の資料より

「増し締め」とはその名の通り、既に締められたナットなどを、安全性向上のために「もう一度締める」ことを指します。要するに、タイヤが外れる事故の増加は人的エラーが原因であり、この作業を徹底するか、専門業者に整備を依頼すれば車輪脱落は防げるということなのでしょう。

 ただし、これらの調査結果の中には、不思議なデータが一つ示されていました。22年度に起きた車輪脱落事故(140件)の内訳を分析したところ、その95%は「左後輪」が外れる事故だったとのこと。しかも国交省は「その明らかにできていない」と説明しています。

 なぜ他のタイヤではなく、左後ろのタイヤばかりが外れるのでしょうか――。自動車メーカーで開発エンジニアを務めた経験を持つ筆者が考察していきます。

日本の道路は「水平」ではなく

「少しナナメ」になっていた!

 まず考えられる要因は、道路構造・交通事情です。実は日本の道路は、完全に水平になっているわけではありません。雨水などを排水するために、道路中心部が最も高く、外側に行くにつれて低くなっています(いわゆる「片勾配」です)。そのため左側通行の日本では、クルマは「少し左に傾いた道路」を走っていることになります。

 その道路を走行するクルマも少し左側(路肩側)に傾くため、左側のタイヤには大きな荷重がかかっています。その中で右左折をすると、左側のタイヤにかかる荷重はさらに増します。

 まず右折時は、交差点を通り抜けるまでの走行距離が左折時よりも長く、スピードが出やすくなります。そのため、旋回中は遠心力によって左側のタイヤにかなりの負荷がかかります。

 一方で、低速で旋回する左折時は、ハンドル操作で向きを変えられる前輪とは違い、後輪には「タイヤがよじれるような力」が働きます。大型車の重みが「左後輪」にのしかかり、しかも「よじれる」。その繰り返しによって、左後輪のホイールナットに緩みや欠損が発生している可能性があるのです。

 前輪のナットが緩んだ場合は、ハンドルに異常振動が発生するケースがあるため、運転者が異変に気づくことができます。ただし、後輪の場合は異常振動が直接ハンドルに伝わらず、ドライバーが気付くのは至難の業です。

 筆者はこうした道路構造・交通事情が、大型車の左後輪が外れる事故が多い原因だと考えています。同じ見解を持つ専門家も多くいます。ですが、まだ「この説が正しい」と断定できたわけではありません。他にも説が浮上するなど、情報が飛び交っています。

2010年を機に

「ナットを回す向き」が逆に!

 もう一つの有力な説は、2010年に起きた「ホイールナットの規格変更」です。

 大型車のホイールナットはそれまで、国内規格の「JIS方式」に準拠していました。JIS方式では「タイヤの回転方向と逆方向に締めるとナットが緩みにくくなる」という考えのもと、一般的なナットとは正反対の「左に回すと締まる『逆ねじ』」をあえて採用していました。

 ですが、海外輸出時に不利になることを防ぐ目的や、コスト削減や作業性向上などの目的で、2010年を機に世界標準の「新ISO方式」へと変更されました。この規格に準拠したホイールナットは、一般的なナットと同じく「総輪右ねじ(=右に回すと締まる)」の仕組みになっています。

 ただし、新旧の規格に基づくホイールナットは、単に「回す方向」が異なるだけではなく、ホイールを固定する機構が微妙に違っていました。JIS方式のナットは「球面」になっており、ホイールに食い込む構造でしたが、新ISO方式のナットはホイールと接触する部分が「平面」になっており、横からまっすぐ押さえる方式になりました。

「食い込む」と「押さえる」――。専門家の中には、この微妙な違いに基づく「固定力」の差が、先述した「左に傾いている道路構造」などと相まって、「左後輪」が外れる事故につながっていると考える人もいます。とはいえ、この説も正しいと立証できたわけではありません。

 タイヤが外れる事故を減らすために、ホイールナットの規格を「元のJIS方式に戻せばよい」と考える専門家もいますが、新ISO方式の導入は、当然ながら国交省による念入りな確認作業や検証実験が行われた末に決められました。もちろん「安全性に問題はない」という結果が出たからこその規格変更であり、明確な原因が特定できていない状況下での対応は、なかなか難しいようです。

 国交省は今後も「(左後輪の脱落は)引き続き検討すべき課題として、監視・調査・対策を行う」としています。

良心的なドライバーは

ショップに任せた方が良い!?

 さて、ここまで読んでくださった読者の中には、もしかすると「大型車の話でしょ?」「自分たち一般ドライバーには関係ないね」と思っている人がいるかもしれません。ですが、「左側のタイヤ」に大きな荷重がかかっているのは乗用車も同じであり、他人事ではありません。

 今年5月、北海道小樽市の国道で、走行中のワンボックスカーのタイヤが1本外れる事故が起きましたが、外れたタイヤは「左後輪」でした(※1)。幸いにも人にぶつかる被害はなかったそうです。冬にはスタッドレスタイヤ、春になったらサマータイヤに交換するドライバーは、同様の事故に要注意です。

 また、こちらは少数派の「左前輪」ですが、北海道札幌市では2023年11月、軽自動車から脱落したタイヤが女児を直撃する事故が起きました。女の子は意識不明の重体のままだといいます。軽自動車の所有者の男は、この軽乗用車を不正に改造した上で、点検整備を怠ったまま知人に運転を依頼したとのこと。クルマの所有者と、運転手を務めた知人はともに逮捕されています(※2)。

(※1、2はいずれも「北海道ニュースUHB」を参照)

 この事件は特殊かつ悪質な例であるものの、「自分でクルマに手を加え、点検整備を怠ると事故につながりやすい」という教訓は、あらゆるドライバーに当てはまると言えます。良心的なドライバーは、タイヤ・ホイールの交換をショップにお願いした方が安全かもしれません。

 ですが、万が一ショップに頼んだのに車輪脱落が発生した場合は、「運転者の過失」が問われてしまいます。そのため交換後は日常点検に加えて、乗車前に「ナットの緩みがないか」を入念に確認してください。

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