バイデン氏撤退ならハリス副大統領が最有力、なぜ

【ワシントン】ジョー・バイデン米大統領が再選を断念した場合、代わりに誰を擁立するのかを巡って民主党内で大騒ぎとなる中、カマラ・ハリス副大統領が新たに脚光を浴びている。

バイデン氏は先週のドナルド・トランプ前米大統領との討論会で精彩を欠き、年齢や職務遂行能力が疑問視される事態となったが、それでも本人は今のところ撤退の意向を示していない。民主党内では、どの知事や議員なら候補者になり得るかあれこれ思案している者もいるが、バイデン氏に代わる候補者としてハリス氏が最有力であることに変わりはない。

ハリス氏の世論調査での支持率はバイデン氏とほぼ同じくらい低迷しているため、「ハリス候補」という道にはリスクを伴うが、同氏は民主党支持者、特に女性と黒人有権者の間で十分な人気があるため、代役候補から外せば党内に怨恨（えんこん）と分裂が生じかねない。

ミシガン州民主党黒人幹部会のキース・ウィリアムズ会長は「この女性は大統領になる準備ができている。その功績は素晴らしい」と言う。「（代役候補選びで）副大統領を避けようとしたら、私は怒るだろう」

討論会以降、ハリス氏はバイデン氏の最強の擁護者として存在感を示している。討論会の直後、ハリス氏は何度かメディアのインタビューに応じ、民主党内や支持者の間で急速に広がる動揺を和らげようとした。その後、バイデン氏に代わって火消しに乗り出し、有権者や献金者、さらに一部の著名人に対して、討論会を過去のものとし、バイデン氏をその業績で判断するよう訴えた。

ハリス氏はラスベガスで有権者に対し、選挙は「6月の一夜」では決まらないと述べ、バイデン氏を長々と擁護した。「真のリーダーにとって重要なのはスタイルよりも人格だ」とし、「トランプには大統領にふさわしい人格が備わっていない」とした。

ハリス氏はまた、人工妊娠中絶の権利や2021年1月6日の連邦議会襲撃事件に関するトランプ氏の討論会での回答に、バイデン氏が行ったよりも明確な形で反論すると同時に、同氏の職務遂行能力を請け合った。「バイデン氏が大統領執務室で超党派の交渉に当たり、状況分析室で国の安全を守っている姿を私は見ている」

バイデン氏と陣営は、同氏が選挙戦を続ける意向であることを明確にしている。バイデン陣営の広報担当者は「バイデン氏が大統領候補でハリス氏が副大統領候補だ。われわれは11月に勝利する」と述べた。

バイデン陣営の幹部は1日、献金者らに電話で説明した。この電話の内容に詳しい関係者によると、バイデン氏は討論会後にもっとうまくやる必要性を認識しており、今後は露出を増やすつもりだと、陣営側は強調した。

一方、ハリス氏に近い関係者らによると、同氏と側近らはバイデン氏に対する忠誠を示すよう徹底している。ハリス氏は出張スケジュールを守り、訪問する先々でバイデン氏支持を訴え、討論会に関する懸念の払拭に努める予定だ。

民主党全国委員会（DNC）は、8月にシカゴで開催する党大会の数週間前に、オンラインの点呼投票によってバイデン氏を党の大統領候補として正式に指名する方針だ（そうすれば、候補者認定期限が8月7日となっているオハイオ州の投票用紙にバイデン氏の名前が記載される）。

バイデン氏が正式候補に指名される前に選挙戦から撤退した場合、代役候補と目される民主党関係者の中でハリス氏はいくらか優位に立てる。そうした候補者には、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事、ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事、ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事、メリーランド州のウェス・ムーア知事、ラファエル・ウォーノック上院議員（ジョージア州）、エイミー・クロブシャー上院議員（ミネソタ州）などがいる。

ハリス氏はバイデン氏の伴走者として、バイデン陣営が既に集めた資金を使うことができる。また、影響力のあるジム・クライバーン下院議員（サウスカロライナ州）など、一部の主要人物からの支持も得られるだろう。

クライバーン氏は先週の討論会後、「私はバイデン・ハリス派だ」と述べた。「ハリス氏がいなければバイデン氏を、バイデン氏がいなければハリス氏を支持する」

DNCの臨時委員長を務めたことがある政治戦略家のドナ・ブラジル氏も、ハリス氏を避ける動きがあれば「騒動になる」と語った。 　「バイデン氏は理由があってハリス氏を副大統領候補とし、2020年に勝利した」とブラジル氏は言う。「有権者が望むチームを選んだ後に『馬』を乗り換えようとすれば、大混乱に陥るだろう」

ハリス氏が民主党の大統領候補として、バイデン氏とトランプ氏に代わる候補を探している多くの有権者を満足させられるかは不明だ。今年と昨年に行われた一部の調査では、ハリス氏対トランプ氏となった場合に想定される結果は、バイデン氏対トランプ氏の場合とほぼ同じだった。

しかし、2日に発表された米CNNの世論調査では、トランプ氏の支持率は対ハリス氏で2ポイントのリード、対バイデン氏では6ポイントのリードとなり、ハリス氏の方が健闘した形となった。トランプ氏のリードはいずれも世論調査の誤差の範囲内だった。世論調査サイト「ファイブサーティーエイト・ドット・コム」の最近の世論調査の平均では、ハリス氏を「支持しない」との回答が「支持する」との回答を10ポイント上回っている。一方、バイデン氏の仕事ぶりに対する回答では、その差が20ポイント近くに達している。

ミシガン州ランシングのDNCメンバーで、自らを進歩的民主党員と称するリアノ・シャロン氏は、党大会での開かれたプロセスのためにバイデン氏が身を引くことを望むと語った。「バイデン氏がハリス氏支持を表明すれば、党大会で大きな分裂が生じるだろう」とシャロン氏は述べた。「そうすること（開かれたプロセスの実現）がいかに難しいかについて話し合っているというのはばかげている。これが政党というものだ」 　先週の討論会後にバイデン氏の年齢に対する不安が高まったことを考えると、同氏が選挙戦を続けた場合、ハリス氏はさらに大きな重圧にさらされるだろう。必要な時には大統領としての務めを果たす用意ができていると有権者に証明しなければならないからだ。

トランプ陣営はすでに、バイデン氏の年齢を強調するテレビ広告にハリス氏を登場させている。その広告では、「彼の後ろに誰が控えているか、ご存じですよね」というナレーションと共にハリス氏の映像が映し出される。

ハリス氏は今年行われたインタビューで、「私は（大統領を）務める準備ができている。それは間違いない」と率直に答えた。「（自身の仕事ぶりを見た人は皆）私の指導力を最終的にはよく分かってくれる」

ハリス氏の側近らは、同氏が大統領になる準備ができていることを有権者に示すために、何か変わったことをする必要はないと言う。

しかし、ここ数カ月、ハリス氏は政権内でより公的な役割を果たすようになり、その一環で国家安全保障分野への関与も強めている。バイデン氏とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との電話会談に加わったり、ガザ紛争に関する重要な演説を行ったり、パレスチナ人への共感をより明確にした上で紛争後の構想に焦点を当てるよう政権幹部に働きかけたりしている。