「古賀紗理那は幸せをアピールすればいい」「石川祐希&真佑兄妹にはテレビ出演を」眞鍋政義監督が明かす“女子バレー人気アップ大作戦”
バレーボール女子日本代表。パリ五輪出場を決め、ネーションズリーグファイナルでは決勝進出、イタリアに敗れたものの銀メダルを獲得した
バレーボール女子日本代表がパリ五輪出場を決めた。さらにはネーションズリーグファイナルで決勝に進出。イタリアに敗れたものの準優勝という素晴らしい結果を得た。パリ五輪メダル候補にも浮上した女子バレー代表チームを率いる眞鍋政義監督の著書『眞鍋の兵法 日本女子バレーは復活する』(文藝春秋刊)より、女子バレー人気アップのためのメディア戦略について触れた項を抜粋して紹介します。<全2回の前編/後編へ>
古賀と西田の結婚もアピールすればいい
スター選手を生み出すためには、メディアの活用が欠かせない。だから、私はテレビ局のプロデューサーとも付き合い、できるだけ取材に協力するようにしている。昔は選手がちやほやされて勘違いしないように、あまり取材を受けさせないようにする指導者もいた。でも、それでは子どもたちに選手の魅力が伝わらない。
いまはSNS、とくにYouTubeの時代だ。世界中のスポーツ選手が、プライベートも含めて自分をアピールしている。それを見て「バレー選手ってかっこいい」「私生活もキラキラしている」と感じれば、バレーボールを始める子も増えるだろう。
たとえば、古賀紗理那は男子日本代表の西田有志と結婚したが、そういうこともどんどん表に出して、いっしょに取材を受けて、幸せをアピールすればいいと思う。
石川兄妹もそうである。なぜかこれまで二人でいっしょに取材を受けることはなく、 お互いのことはあまり語ってこなかった。恥ずかしいというのもあるのかもしれないが、ファンは興味があるだろうし、二人いっしょにテレビに出れば、大きな話題になるはずだ。
石川祐希にお願いしたこと
そこで昨年冬にイタリアへ視察に行ったとき、石川祐希と食事をしながら話をしてみることにした。兄貴も妹同様、めちゃくちゃ真面目な性格だと分かったが、そういうところも含めておもしろい兄妹だ。ざっくばらんにいろんな話をして場が和んだところで、こんなお願いをしてみた。
「石川、おまえ日本代表のキャプテンやろう。俺はやっぱりバレーボールも、サッカー、野球のように人気スポーツにしなきゃいかんと思う。柔道の阿部兄妹もええけど、石川兄妹もすごいぞというのを、もっとメディアでアピールしてくれ。バレー界のために」
石川は「分かりました」と快くオーケーしてくれた。そこで、すぐにフジテレビのプロデューサーと相談。「ボクらの時代」という番組に兄妹揃って出演させることになった。ゲストが3人でトークを繰り広げる番組で、もうひとりは日本バレーボール協会会長の川合俊一さんにご登場願った。
パリ五輪までに男子バレーの人気を上回る
「眞鍋は監督なのに、そんなプロデューサーのようなことまでやっているのか?」と疑問に思われる方もいるかもしれない。もちろん、勝つこと、オリンピックに出場することが私の最重要課題だ。一方で、女子バレーの人気を上げることも代表監督の使命だと思っている。「パリまでに男子の人気を上回る」。もしかしたらメダルを獲るより難しいかもしれないが、それも私の目標なのである。
これはいろんな方から指摘されたが、東京オリンピックの女子代表の名前を言える人が世間にどれだけいるだろうか? 古賀紗理那はバレー界では有名だが、かつての竹下佳江や木村沙織のように、老若男女、誰もが知っているスター選手とまではいかない。東京オリンピックの代表チームは、良くも悪くも監督の中田久美が一番の有名人だった。
テレビを積極的に使うメディア戦略
人間は注目されると変わる。人気が出て応援されればされるほど、スポーツ選手はがんばるようになる。メディアからの取材は、世間の注目度のバロメーターだ。メディアに取りあげられて人気が出れば、選手のモチベーションも上がる。監督として、それを利用しない手はない。マスコミの力を借りて選手のやる気を引き出すのは、強化策のひとつでもあるのだ。
松平康隆さんら先人たちがテレビ局との協力関係を築いてくれたおかげで、バレーボールの大きな大会はゴールデンタイムで放送される。それに関連して特番が作られたり、情報番組で宣伝してもらえたりもする。
だから、私もテレビ局からの依頼にはできるだけ応え、選手といっしょにバラエティ番組に出ることもある。選手の名前をできるだけ多くの人に覚えてもらいたいからだ。
ただし、バラエティ番組には注意が必要だ。テレビ局としてはルックスがよかったり、キャラクターがおもしろかったりする選手を選びたがる。しかし、まだ代表歴が浅く、試合にもあまり出ていない選手を出演させたりすると、チーム内に嫉妬や軋轢(あつれき)が生じる。そこはきちんと考えて調整しなければならない。
テレビを積極的に使うメディア戦略は、今回に限らず、前回の監督時代からやってきた。ロンドン、リオ大会までの8年間は合宿中、毎日TBSとフジテレビのカメラが入っていた。私はそれを選手のモチベーションアップにも使っていた。
たとえば、調子の悪い選手がいたら、「今日はあの選手にインタビューしてくれへんか。5分でいいから」と取材に来ているスタッフにお願いする。そして、インタビュー中、「眞鍋監督が○○選手には期待していると言っていましたよ」と伝えてもらうのだ。そうすると、その選手は奮起する。直接言うよりも、メディアを使ったほうが効果的なこともある。コミュニケーションは使い分けが重要だ。
<続く>