72歳で夫と死別。墓は札幌から高速で3時間の豪雪地帯。遺骨を合祀墓に 入れようとしたら、40代の娘からまさかの抵抗が
婦人公論.jp
墓じまいを経験した人はなぜ決断し、どのような段階を踏んだのだろうか。「お墓」に翻弄された3人の話を聞いてみると、今の時代の課題が見えてきた
* * * * * * *
夫の遺骨を合祀墓に 入れようとしたら
札幌市に暮らす村中理沙子さん(72歳)の夫が亡くなったのは2020年10月。生前、村中家のお墓は墓じまいしようと夫婦で話し合っていた。お墓があるのは札幌から高速道路を使って約3時間かかる場所で、豪雪地帯として知られている。
「夫は、墓を守るために子どもがいない家の養子として入り、その家で育ちました。ですから本来なら、結婚しても地元に住み、そこで子育てをし、代々お墓を守っていくことが義務づけられていたんです。でも仕事で道内を転々とせざるをえなかったし、私たちの子どもは2人とも女の子。この先、お墓は守れないので、墓じまいしようと決めました」
地元のお寺からは、毎年8月に札幌まではるばる住職が仏壇にお経をあげにやってくる。村中さんの夫が亡くなる2ヵ月前にも来たが、その際、村中さんの夫は、いつ何があってもおかしくない年齢なので墓じまいをしたいと挨拶したという。住職もすんなり受け入れてくれた。
「その時、費用のお話もされました。お寺さんにはお布施として20~30万くらいをお気持ちで、と。夫が亡くなった翌年、私が墓じまいの手続きをし、お墓を掘り起こす業者さんに16万円、お寺さんに20万円払いました」
ちなみに村中さんの実家の墓があるのは、道東の釧路。お墓に関しては、父が生前から村中さんに「墓に関していっさい口を出すな。長男に任せる」と何度も言っていたとか。兄はすでに亡くなっているが、兄には息子もいるので、墓のことはすべて任せっぱなしにしている。
「家を守るとかお墓を守るといっても、男の人の家系だけのことでしょう。男女同権の時代に、夫の家系のお墓だけ守って、自分の生まれた家のお墓はほったらかしというのも理屈に合わない。かといって、この少子化の中で、夫と妻、両方の家のお墓を維持するのは、非現実的だと思います。
墓地に行って、誰も守る人がいなくなったお墓が荒れたままになり、石が割れてひっくり返っていたりしているのを見ると、なんだか虚しいですし。
個人でお墓を持とうとは思わず、大きな共同墓をつくり、そこにどんどん遺骨を入れていけばいいのに。人間の骨も、いずれ土に還るのが当たり前だと思うんですよね」
村中さんの夫は、札幌市の中心地にある市営霊園の合祀墓に入れてほしいと言っていた。しかし、実はまだ、遺骨はそのまま家に置いてあるという。
「夫は、どうしてもそこに行きたいわけではなかったんです。要するに、墓は持たない。もっと言えば、象徴になる場所は持ちたくない、ということです。だから海でも共同墓地でも、どこでもいいって。私もそのつもりでした」
ところが、40代の娘たちがその選択に待ったをかけてきた。やはり墓があったほうがいいのかと思って聞いてみると、どうやらそうでもないらしい。
「2人ともお墓には興味がない様子。私と夫が別々の場所に埋葬されるのが嫌だと言われました。たしかに夫が霊園、私が海となったら、娘たちも面倒くさいんでしょうね。『お父さんだけどこかに行っちゃうのは寂しいから、お母さんが死んだら、2人分一緒にどこかに入ってくれるのがいいかな』などと言っています」
まだしっかり話し合ってはいないが、いずれ娘たちと話す日が来るかもしれない、と村中さん。
「実は夫とお墓のことを話し合うなかで、私は『湘南の海に散骨してもらうのもいいかなぁ』なんて話していたんです。若い頃しばらく関東に住んでいたことがあり、湘南の海で遊んで楽しかった思い出があるので。
でも夫は金づちで泳げないので、海に流すのはかわいそう(笑)。だから私も、娘たちには海に散骨してほしいと言えずにいます。そんなわけで、夫の遺骨を市営霊園の合祀墓に入れるのは、ひとまず保留にしました」
自分が死んだ時は、僧侶を呼んでの葬儀もしなくていいと言う村中さん。「娘たちは、私たち夫婦の遺骨をバルーンにでも乗せて、空で爆発させてパーッと飛び散ったら爽快だろうなぁなんて思っているんじゃないかしら。それもいいかもしれないわね」と、楽しそうに笑った。