ディズニー、クルーズ事業で好機到来
新しいクルーズ船は一夜にして完成するものではない。ディズニーにとってはこれが絶好のタイミングとなる。
米メディア・娯楽大手ウォルト・ディズニーはクルーズ船事業を30年近く続けているが、業界での存在感は小さい。ディズニーが運航する5隻を合計した乗客定員数は米クルーズ船最大手カーニバルの5%ほどに過ぎない。だが、ディズニーは今後1年半の間に新たに3隻を就航させる。この中には、20万8000総トンの「ディズニー・アドベンチャー」が含まれており、ディズニーはクルーズ業界で導入が相次ぐ超大型船市場に参入することになる。バーンスタインのアナリスト、ローラン・ユン氏は、3隻の新造船投入によってディズニーのクルーズ事業の輸送能力は来年末までに2倍以上になるとみている。
ディズニーにとっては、これ以上ないタイミングとなる。同社のテーマパーク事業が陥っている状況はやや厳しい。売上高は新型コロナウイルス禍を経た営業再開に伴う需要の盛り上がりで2年間大きく拡大した後、伸び悩みが顕著になっている。5月上旬の1-3月期(第2四半期)決算発表では、テーマパークとクルーズ船を含むエクスペリエンス部門の4-6月期の営業利益は市場予想を大幅に下回るとの見通しを示した。この要因としてディズニーは、「コロナ後の需要の一部正常化」を挙げた。決算発表以降、ディズニーの株価は15%程度下落している。一方、テーマパーク市場で競合するユナイテッド・パークス、シックス・フラッグス、シダー・フェアの各社直近決算発表からの株価騰落率は平均すると25%の上昇だ。
ディズニーのビジネスモデルにおいて、テーマパークの重要性は高まっている。ケーブルテレビ業界は動画配信サービスの普及で打撃を受け、映画業界ではコロナ流行やハリウッドの俳優らによる昨年のストライキの影響で興行収入はいまだに5年前の水準を大きく下回る。ディズニーでは、クルーズ船事業を含めた国内・国外テーマパーク事業は今年3月末までの1年間の売上高全体の3分の1を占めたが、営業利益に占める割合は52%に達した。最終利益への貢献度は、コロナ流行以前の決算期3年間は平均で29%だった。
テーマパーク事業の見通しはこのところ、ディズニーの投資家にとって最大の懸念事項となっている。ディズニーでは、問題は一時的との認識を示す。同社のヒュー・ジョンストン最高財務責任者(CFO)は直近の決算説明会で、エクスペリエンス部門の営業利益は7-9月期に「大幅に回復する」ことが見込まれると述べた。
ただ、一部のアナリストはあまり確信を持っていない。キーバンク・キャピタルのアナリスト、ブランドン・ニスペル氏は6月10日のリポートで、ディズニーの国内テーマパーク事業は、フロリダ州やカリフォルニア州にあるパークでここ数年に記念イベントが行われ、来園者数が正常化していることもあり、「2024年の残りの期間は重圧を受ける」との見方を示した。また、米ケーブルテレビ大手コムキャスト傘下のNBCユニバーサルが来年フロリダ州オーランドで開業する大型テーマパーク「エピック・ユニバース」もディズニーにとっては脅威となる。モフェットネイサンソンのアナリストは、オーランドにある「ディズニー・ワールド」が結果として失う来園者の数は2年間で約100万人に上るとの見通しを示す。
ディズニーにとって、クルーズ船事業の拡大はこうしたマイナス要因をある程度相殺する役目を果たすとみられる。クルーズ業界は活況が続いており、米大手3社のカーニバル、ロイヤル・カリビアン、ノルウェージャン・クルーズ・ライン・ホールディングスでは今年、毎年3月にかけてクルーズ船の予約が集中する「ウェーブシーズン」は予想を上回る好調さだった。カーニバルが先週発表した3-5月期(第2四半期)決算は純損益が市場予想とは逆に黒字となり、同社は通期の見通しを引き上げた。カーニバルのジョシュ・ワインスタイン最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、2025年出航のクルーズ旅行への需要は「かつてないほどの高水準」だと述べた。
飛行機で旅行に出かけて大金を使い、うだるような暑さの中で何時間も行列に並ぶことをいとわないような家族を顧客に抱えるディズニーにとって、クルーズ船はうってつけともいえる。こうした家族は、年を取ったら離れていくわけでもなさそうだ。ディズニーのボブ・アイガーCEOは5月に開催されたモフェットネイサンソンの会合で、同社のクルーズに子どもなしで参加する人は多く、ブランドへの愛着心が並外れて強いことなどが要因になっていると語った。
ディズニーはクルーズ事業に関する財務の詳細を開示していないものの、昨年はアナリストへの説明で、同社の乗客1人当たりのクルーズ1日の売上高を示す指標は業界平均の2倍だとした。UBSのアナリスト、ジョン・ホデュリック氏は6月27日のリポートで、ディズニーのテーマパーク事業について「クルーズの輸送能力の急速な拡大は、中期的な見通しのリスク軽減に寄与する」との見方を示した。
バーンスタインのアナリストのユン氏は、ディズニーのクルーズ事業の売上高は2024年9月末に終了する今期は約25億ドル(約4020億円)になると予想している。3隻の新造船によって、この売上高は2026年度には51億ドル以上になるとみられるという。同氏は6月17日の顧客宛てのメモで、クルーズ事業の売上高拡大は、ユニバーサル・エピック・ユニバース開業による影響を相殺して余りあるとの見通しを示した。
テーマパーク市場での新たな競争でディズニーの足元が大きくぐらつくことはなさそうだ。