「坊っちゃん列車」クラファン目標額の1割 見切り発車が招いた「予想外」大コケの顚末
松山市内を走る坊っちゃん列車=松山市(前川康二撮影)
慢性的な赤字を抱えながら松山市内を走る観光列車「坊っちゃん列車」がさらなる苦境に立たされている。市は運行する伊予鉄道への財政支援として1068万円の予算を計上し、2回で計5千万円の寄付を集めるクラウドファンディング(CF)を実施。しかし、6月17日までの1回目で集まったのは280万円あまりで、市議からは「予想外だった」と困惑の声も漏れる。野志克仁市長が「持続可能な形を考えたい」としてきた坊っちゃん列車の支援の枠組みは、なお不透明なままだ。
ここまで集まらないとは…
「県外に向けての働きかけが少し遅かったのではないか」
6月27日に開かれた松山市議会経済産業委員会。CFの実施状況について質疑したある市議は、当局の報告に対しこう感想を漏らした。
市の説明によると、1回目のCFは3月20日から90日間で2500万円を目標に実施。期間中、計200件の寄付があり、内訳は市内141件、同市以外の県内11件、その他19都府県が48件だった。市は広報紙や県内外のイベントなどで周知に努めたが、集まったのは283万6115円で達成率は11・3%にとどまった。
市はCF計2回分の事業費を予算確保したが、実際には事務手数料などの諸経費は実際に集まった寄付金の約2割相当となっており、「赤字」状態にはならないと説明。ただ、予算の審議に携わった別の市議は「正直、ここまで集まらないとは思わなかった」と困惑する。
再開を望む声80%
坊っちゃん列車は明治時代に市内を走った蒸気機関車をモチーフに製造されたディーゼル車。市の要請を受け、平成13年に伊予鉄道が運行を開始した。だが、毎年2300万~1億円という慢性的な赤字で、近年の全国的な人手不足もあり昨年11月に運休。伊予鉄道は市に財政支援を求めていた。
市は関係団体らと「考える会」を設置するなどして持続可能な支援方法を模索したものの、方針が決まる前の2月1日に伊予鉄道は運行再開を発表。後手に回った市は、列車の年間赤字相当額に当たる5千万円を返礼品のないふるさと納税型CFで寄付を募ることにした。
ただ、予算案を審議する市議会3月定例会では、一般質問などで疑問や懸念の声が相次いだ。
「CFは継続した事業費を募るには不向き」「返礼品が提供されず、寄付の動機が限定される」「そもそもなぜCFなのか」…。市当局は、アンケートで運行再開を望む声が約80%あったことを踏まえ、坊っちゃん列車を支援したい人からの寄付が見込める点や運行再開に合わせて実施することで関心が高まることなどを強調。寄付金の具体的な使途は改めて議会に諮る一方、経済効果や市民の意識調査を実施し、持続可能な運行に向けた支援策は引き続き検討を重ねるとして理解を求めた。
こうして、寄付金の使途も継続性の議論も棚上げにしたまま予算案は可決。CFがスタートした。
2回目のCFは…
「坊っちゃん列車は民間企業が持つ市の観光コンテンツ。CFという手法に懸念はあるが、なんらかの支援を早急にすべきだという意識は共通しており、可決に至った」。3月議会で審議の舞台となった産業経済委員会の委員長を務めた清水尚美市議は振り返る。
達成率11・3%という結果は、いわばその懸念が現実になった形ともいえる。
市の担当者は「趣旨に賛同して寄付をいただいた皆さんに感謝し、有効に活用したい」とコメント。一方で、2回目については「総合的に判断し実施について検討する」と説明、実施しない可能性に含みを持たせた。今後市は、市内外へ3千人規模のアンケートを実施、坊っちゃん列車の経済波及効果に関する調査も行い、支援方法について伊予鉄道と協議を続けていくとしている。
運行開始以来、累計赤字は14億円ともいわれる坊っちゃん列車。「持続可能な支援」のあり方を模索する関係者の苦悩はまだまだ続きそうだ。(前川康二)