ウォーキング時の「NG姿勢」で腰痛・ひざ痛に!? 「姿勢・血圧・日光」が重要ポイントである理由
健康と若さの維持のためにウォーキングを始めてみよう、習慣にしてみようと思う人が増えています。しかし、ただ歩けばいいと安易に考えていると、かえって健康を損なったり、長続きしなかったりすることも。効果的かつ継続可能な正しいウォーキングのやり方を、ぜひとも知っておきたいものです。抗加齢医学研究のトップランナーとして知られ、『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』の著者である伊賀瀬道也氏に、大切なポイントを聞いてみました。
※本記事は伊賀瀬道也著の書籍『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。
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※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
前かがみの姿勢は腰痛やひざ痛を招く
まず、歩く前に、鏡やスマートフォンで写真を撮るなどして、自分の姿勢をみてみましょう。
たとえば、前かがみになって、うつむきがちに歩いているとしたら、せっかくウォーキングをがんばっても意味がありません。首や腰に負担がかかり、首のこりや腰痛を招いてしまい、最後はひざまで痛めて継続がむずかしくなるかもしれません。
逆に、腰を反りすぎて歩く場合にも、腰を支える腹筋をあまり使わないため疲れやすく、腰に負担がかかって腰痛になりやすくなります。
一般には、壁に背中をつけ、頭も壁につけてまっすぐ立った場合に、背中にこぶし1個程度の隙間ができるのが理想的とされます。
最近はだいぶ少なくなりましたが、私が小学生のころには、高齢女性が腰を曲げて前かがみになって歩いている姿をよく目にしました。当時、学校の先生にその理由を聞いたことがあります。
すると、「あのおばあちゃんの腰が曲がっているのは、一生懸命、畑仕事をしたからなのよ」と説明されました。
一生懸命、畑仕事をしたということに関しては、否定するものではありません。
じつは、このような状態になる女性の多くが、「老人性脊柱後弯(こうわん)症」(脊椎が異常に曲がって猫背になっている状態)といって、多くは閉経後、骨粗鬆症になって圧迫骨折をしたために、背骨が後ろに大きく曲がった状態になっているのです。
「円背(えんぱい)」あるいは「亀背(きはい)」などと呼ばれ、ひどい場合には痛みをともなうこともあります。あまりにひどいと、嚥下(えんげ)障害(のみこみの悪さ)や呼吸不全が出たりして、死にいたる可能性があります。
前かがみになっていたら背筋を鍛えよう
先日、高齢者の脊柱後弯症の研究で有名な秋田大学整形外科の宮腰尚久先生の講演をお聞きする機会がありました。
宮腰先生の研究によると、高齢者の脊柱後弯症の原因には、骨粗鬆症性の椎体(胸骨)骨折に加えて、背筋力の低下もあるそうです。これを予防するには、運動療法による背筋力の維持・強化が必要とのことでした。
背筋力が低下して、脊柱後弯が増強すると、椎体の前のほうに負担が集中することにより骨折が生じやすくなります。
そこで、適度な背筋運動により、脊柱後弯の増強を防ぐことで椎体骨折の抑制につながると考えられています。
これを予防する方法を紹介しましょう。
具体的には、うつぶせになって、お腹の下に枕を入れて体幹を持ち上げ、5秒間維持する動作(等尺性背筋運動といいます)を1日10回、週に5回行うようにします。
宮腰先生の研究では、4カ月ほどがんばれば、明らかに背筋力が増強し、生活の質も改善するそうです。
みなさんも歩く前に姿勢をチェックして、もし前かがみになっていたら、無理のない範囲で背筋を鍛えるようにしましょう。
歩く前に血圧をチェックする
ウォーキングは、運動のなかでも危険性が比較的低いものです。でも、普段、運動習慣がほとんどない人が歩く習慣をつけようとする場合には、可能であれば、循環器的に問題がないかどうかを一度チェックしておくとよいでしょう。
完璧を期するためには、体力測定に加えて、運動負荷試験を行い、運動中の血圧や心拍数、心電図などの循環動態の変化を把握しておきます。ただし、「歩く」だけのダイエットを行うときには、そこまで厳密に測る必要はなく、最低限、家庭で血圧測定を行いましょう。
日本高血圧学会は、家庭血圧を測定するときには、起床時と就寝前(寝る直前)の測定を推奨しています。でも、降圧薬を飲んでいない人が歩く前の血圧チェックをするだけでしたら、起床時のみのチェックで十分だと思います。
起床後1時間以内にトイレをすませ、食事前に2回測定してください。2回の平均で、おおむね収縮期血圧(上の血圧)が140未満、拡張期血圧(下の血圧)が90以下であれば、ウォーキング前の準備としては問題ないでしょう。
一つでも超えたらだめというわけではありませんが、とくに上の血圧が140以上であった人は、定期的な血圧測定を習慣づけることをおすすめします。
高血圧症は歩行時の転倒リスクにも影響をおよぼす
アメリカ心臓病学会が発行する「アメリカン・ジャーナル・オブ・カーディオロジー」(2003年3月)に、高血圧の患者さんは、バランス能力が大幅に低下すると報告されています。イスラエルのテルアビブ大学で行われた研究によると、平均年齢78歳の高血圧の患者さん12人(男性4人、女性8人)と、同じ平均年齢78歳の正常血圧の12人(男性5人、女性7人)とで、バランス能力に関するテストを行いました。
具体的には、体が傾いたり転びそうになったりしたときに、反射的に体に力を入れたり、手足を出したりして、転ばないようにする機能の「姿勢反射」をみる「プルテスト」や、歩行速度、椅子からの立ち上がり、および方向転換の機能を評価する「タイムアップゴーテスト」などをやってもらったところ、高血圧の患者さんでは、正常血圧の人よりも悪いという結果が明らかになったのです。
つまり、高血圧症は心血管疾患につながるだけでなく、高齢者の場合には、生活の質と自立にとても重要なバランス能力や、歩行時の転倒リスクなどにも影響をおよぼすのです。
みなさんも、ご自身の血圧の目安を知る目的で、歩く前の血圧と歩いたあとの血圧を測定する習慣をつけておくことをおすすめします。
歩くときには日光を浴びる
骨粗鬆症を予防するため、まず食品としてビタミンDを適切にとることがすすめられます。
ビタミンDが豊富にふくまれる食品として、キノコ類、青魚類があります。とくに、天日干ししたキノコには、ビタミンDの前駆物質(ある物質が生成するその前の段階の物質)のエルゴステロールが多くふくまれているので、後述する紫外線の働きによってビタミンDへと変わります。
青魚類は、ビタミンDばかりでなく、EPA(エイコサペンタエン酸)という成分も多いので動脈硬化の予防にもなります。一石二鳥ですね。
ビタミンDは、数あるビタミンのなかでも唯一、人の体内でつくることができるビタミンです。ビタミンDの原料には、現代では悪者として扱われることの多いコレステロールが使われています。
日光、とくに紫外線を浴びることで「活性化ビタミンD」が生成され、食事で摂取したカルシウムを腸管から吸収する手助けをして骨を強くすることに役立ちます。
毎日20分程度は紫外線を浴びよう
日光に当たる時間については、以前は、「直接、日光に当たらなくても窓越しでもいいですよ」と説明していましたが、最近は少し変わってきました。じつは、肌の老化予防には紫外線は大敵であるため、車や家屋の窓ガラスにはしっかりと紫外線をカットするものが増えています。
そこで、骨を強くするためには、木陰でもいいので「屋外に出ましょう」と説明しています。屋外に出る時間ですが、これは紫外線の強さにもよりますので一概にはいえません。昼間の時間帯に、日陰に20分程度いるだけでも、地面や建物で反射した紫外線を浴びることになり、いい効果が得られるかと思います。
このようにして、体で必要とされるビタミンDを、食事と紫外線によって皮膚でつくることが望ましいのです。
ビタミンDは、そのほかにも、筋肉の増強、転倒予防効果、免疫機能の増強効果などがあることが知られている大切なビタミンです。
ただし、ビタミンDは、脂溶性ビタミンであり、体に蓄積しやすく、水溶性のビタミンのように尿で排泄して調節することができませんので、とりすぎには注意しなければなりません。
薬でビタミンDをとる場合には、主治医に気をつけてもらうこともできますが、市販のサプリメントでとる場合には、ご自身で十分に注意してください。
伊賀瀬 道也
愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長。1964 年、愛媛県生まれ。1991年、愛媛大学医学部卒業後に第二内科(循環器)に入局。米国Wake Forest 大学・高血圧血管病センター(リサーチフェロー)、愛媛大学大学院老年神経総合診療内科特任教授などを経て2019 年4月より現職。約4000 人のドック受診者に指導を続けており、抗加齢医学研究のトップランナーとして知られる。『長生き1分片足立ち』(文響社)、『1分ゆるジャンプ・ダイエット』(冬樹舎)などの著書のほか、「NHKスペシャル」(NHK)などメディア出演も多数。