豊田章男・トヨタ会長に大逆風!取締役再任賛成率が「候補中まさかの最低」…目前まで迫ってきた「株主がトップをクビにする」株主総会
モノいう株主の「トップ交代要求」
3月期決算企業2000社以上の株主総会が終わった。会社側から出される議案とは別に、いわゆる「モノ言う株主(アクティビスト)」など株主から提出された「株主提案」を受ける会社が大幅に増加。三井住友信託銀行の6月7日時点の集計では91社にのぼり、3年連続で過去最多を更新した。
豊田章男会長 by Gettyimages
株主提案は2010年頃から増加基調にあり、当初は株主還元の積み増しを求めるものが多かったが、2022年以降、急増するにつれて、会社提案とは別の取締役選任議案を出すなど、経営体制の刷新を求めるものが増えている。背景には長期間にわたる業績の低迷や、不祥事の発生などで経営トップへの批判が強まっていることがある。実際にトップ交代を迫られるところが出始めたのも、今年の特長と言えそうだ。
中堅証券会社の東洋証券が6月26日に開いた定時総会には、アクティビストであるUGSアセットマネジメントが、会社提案とは別の取締役候補者5人を提案した。この提案自体は否決されたものの、会社側提案も予定通りとはいかなかった。会社側は総会当日になって取締役選任議案から桑原理哲社長の再任案を取り下げ、社長の続投を断念するという異例の事態に直面した。総会前に送られた議決権行使書などから桑原氏が株主の過半数の賛成を得るのは難しいと判断した模様だ。
総会には7人の候補者を出したものの、常務執行役の櫻井歩氏も過半数が得られず否決、他の6人も50%を辛うじて超える票数で選任された。後任社長には、新しく取締役となった小川憲洋執行役員が選ばれた。
「一部の株主」への賛同広まる
衣料品ブランド「ニューヨーカー」を展開するダイドーリミテッドの6月27日の総会では、アクティビストで株式の32%を握るストラテジックキャピタル(東京・渋谷)が独自の取締役候補6人を提案した。このうち3人が可決された一方で、会社側が提案した6人のうち5人も可決された。辛うじて会社側取締役が過半数を占めたものの、今後、アクティビスト側の発言力が強まるのは間違いない。
株主提案の大半は否決されたものの、トヨタ自動車や日本製鉄、大日本印刷など大手企業にも出されていた。
大日本印刷の総会には、「マネックス・アクティビスト・マザーファンド」に投資助言を行うマネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問が株主提案を行い、一橋ビジネススクールの教授である楠木建氏を社外取締役に選任することを求めた。
会社側は事前に株主提案に「反対」の意見を出していたが、専門が会社側が提案した候補者と重複することや、特定の株主が推薦する候補者を選任することが「取締役会の独立性と多様性の向上に十分な貢献を行うことは難しい」とするなど、かなりの紙幅を割いて説明している。過半の議決権を握っているからと言って数で押し切ることが難しくなっているという事情がある。
というのも、一部の株主の提案であっても、それが「正論」ならば、他の機関投資家に賛成の動きが広がる可能性が高いためだ。今回の大日本印刷への株主提案も、否決はされたものの、賛成に回った株主の議決権は27.7%に達した。
機関投資家も反対できない
取締役候補が株主提案で出されるところまでは至らなくても、会社側提案に機関投資家が反対するケースも目立った。
自動車の量産に必要な認証「型式指定」の検査不正問題に揺れるトヨタ自動車の株主総会でも、経営トップに厳しい反応が出た。会社側が提出した取締役選任議案で、豊田章男会長の取締役再任議案への賛成率が71.93%と取締役候補の中で最低にとどまったのだ。また、副会長の早川茂氏も89.83%で、他の候補者8人がいずれも95%を超えている中で、明らかに賛成票が少なかった。
豊田氏の再任議案については、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラス・ルイスの2社が、トヨタグループで相次ぐ不正の最終的な責任があるなどとして反対推奨していた。議決権助言会社は海外の年金基金など機関投資家に大きな影響力を持っており、実際、米国の複数の公的年金基金は反対票を投じたと表明していた。
議決権行使会社は業績悪化など一定の基準を設け、それに抵触すると、反対推奨する。例えば、過去5期の平均ROE(株主資本利益率)が5%を下回り、かつ直近年度のROEが5%未満の場合は原則、経営トップ(社長や会長など)の取締役再任に反対推奨することになっている。海外の機関投資家の場合、日本企業の個別の財務諸表や経営体制を調査する体制を持っているところはわずかで、議決権行使会社の推奨に自動的に従うケースが多い。
また、日本の年金基金や生命保険会社などの機関投資家も、赤字が続いている場合など経営トップに反対票を投じるような投票行動基準を設けるところが増えている。また、議決権行使会社の意見も参考にする傾向が近年強まっている。
特に世間を騒がせる不祥事が起きた場合などは、トップに賛成票を投じにくくなっているのが現状だ。かつては会社側提案には無条件で賛成票を投じることが多く、「モノ言わぬ株主」と揶揄されてきたが、2014年に機関投資家のあるべき姿を示したスチュワードシップコードが定められて以降、行動が大きく変わってきた。
アクティビストの「正論」にこうした機関投資家が反対できなくなりつつあり、今後は、業績不振を続けたり、不祥事を起こした企業のトップが株主総会で解任されるようなケースも増えてくると見られる。