日本株、TSMC新工場に九州が沸く一方で、じつは「第二の九州」として注目を浴びる地域の「プロ厳選・関連企業6選」を実名紹介
日本の半導体産業が大きな変革期を迎えている。台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の新工場が立ち上がった九州では、「日本版グローバルサウス」さながらの好景気に沸いている。この流れに続く期待を背負っているのが、北海道で進行中の「北海道バレー構想」だ。石狩市から苫小牧市にかけての一帯にデジタル関連産業を集積することを目指す壮大なプロジェクトだ。なかでも次世代半導体の量産を目指す新会社「ラピダス」の工場建設は、最大の目玉と位置付けられている。
ラピダスの工場建設は、総投資額5兆円という巨額プロジェクトだ。北海道にとって歴史的な投資プロジェクトであり、世界屈指の半導体産業の拠点となる可能性すらある。単純に地域経済の活性化が期待されるだけではない。日本全体の悲願である「日の丸半導体復活」の鍵を握るゲームチェンジャーとなる期待も大きい。北海道を新たなデジタル産業の集積地として育成するビジョンのもとで、活躍が期待される企業に注目してみたい。
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カナモト(9678)
■株価(6月28日時点終値)2966円
建設機械のレンタルビジネスにおいて、必要な機材を必要なタイミングで即納するデリバリー体制は、納期短縮に大きく貢献するなど、工事の円滑な進行をサポートする。北海道バレー構想のような大規模プロジェクトの成功を支える要素のひとつといって過言ではない。同社はM&A(合併・買収)で九州エリアも強化したことにより、TSMCの熊本新工場の建設における工期進捗でも大きく貢献している。
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同社発祥の地である北海道でのシェアの高さは、収益面での強みとなっている。会社側は地域ごとの特性を活かした価格改定の取り組みを進めているが、北海道は価格改定の遅れが響く首都圏と比べて競争が激しくはなく、収益の安定確保が見込みやすい。
将来的にも日本国内で新たな大規模製造拠点の投資計画が立ち上がる場合、広大な土地とインフラが整う北海道と九州が最有力の候補地にあがる公算は大きいと考える。カナモトの持つデリバリー体制や地域密着型サービスは、最大の強みとなるだろう。
北海道電力(9509)
■株価(6月28日時点終値)1194円
ラピダスの最先端半導体工場の建設に伴い、電力需要の膨大かつ持続的な増加が期待されている。傘下の北海電気工事では、すでにラピダス工場関連の受注を獲得しており、新たな託送料金制度の導入で発電所や変電所の工事も増えている。米アマゾンや米マイクロソフトなどの企業が日本国内へのデータセンター投資を発表していることも追い風だ。
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今後の注目点は、やはり泊原発の再稼働と安全審査の進捗状況となるだろう。泊原発が再稼働すれば、電力供給の安定化とコスト削減にも寄与することで、収益力の大幅な向上が期待できる。再生エネの導入拡大や水素燃料利用を目指す石狩湾新港発電所2号機の早期着工などの進展も加速する期待がある。
ただし、株価は一定の期待感をすでに織り込んだ水準にもあろう。泊原発の安全対策には投資総額4000億円以上がかかると試算されており、再稼働が遠のくほど、他の電力株と比較した増配余地が狭まる懸念はある。それでも北海道地域の需要成長見通しは魅力的だ。2027年度には費用負担が一巡し、収益力の評価がさらに高まる期待は大きい。株価の調整局面では見逃せない存在だ。
豊田通商(8015)
■株価(6月28日時点終値)3132円
風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールディングスを完全子会社化したことで、北海道で日本最大級の風力発電プロジェクトを推進している。2025年4月までに総出力54万キロワットの風車127基を稼働させ、北海道の風力導入量を倍増させる計画だ。
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年間を通して強い風が吹く北海道の道北地域は国内有数の風力発電の最適な土地柄とされている。豊富な風力資源を活用した再生可能エネルギーの普及が進めば、ラピダス工場をはじめとする北海道バレー構想における電力需要の増加にも対応していくことが期待できる。
再生可能エネルギーに由来する「グリーン水素」の供給網の構築では、トヨタ自動車グループとの協業による技術力の活用も強みとなろう。会社側の成長戦略では、純利益の約7割を占める自動車関連からの依存度脱却を課題としている。風力発電の技術革新やコスト低減に向けた取り組みが成功すれば、新たな成長エンジンを獲得することにつながろう。
京セラ(6971)
■株価(6月28日時点終値)1851.5円
子会社を通じて、石狩市や周辺エリアでのデータセンターの再生エネルギー供給に注力している。自社の太陽光発電のほか、周辺の風力やバイオマス発電所とも連携し、電力消費の最適化とエネルギーの地産地消を目指す考えだ。太陽光発電技術をはじめとする再生エネルギー分野での豊富な経験と実績は大きな強みとなるだろう。
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人口減少社会による宅配領域で発生する「ラストワンマイル問題」の解決に向けても存在感は大きい。次世代モビリティ事業にも積極的に投資しており、石狩市では自動配送ロボットの公道上での実証実験を重ねている。半導体市場や情報通信市場に需要回復の兆候が見え始めたことも光明と言える。今期を底にして業績回復局面に入っていくことも期待できそうだ。
また、1.8兆円を超える豊富な純金融資産を有していることも株価の底堅さに繋がりそうだ。今秋以降に具体的な資本施策を発表するとみられ、売却資金を成長投資や株主還元などに活用する期待ことが期待されている。
ダイセキ(9793)
■株価(6月28日時点終値)3740円
全国シェア25%超を誇る産業廃液・廃油処理のトップ企業。環境対応が求められる半導体業界や大規模なインフラプロジェクトにおいて、高度な技術と信頼性が高く評価されている。近年需要が高まっている環境負荷の少ない「水処理」を得意とし、半導体製造過程で発生する高濃度の廃液処理にも対応可能な点は大きな強みだ。
会社側は北海道バレー構想に伴う関連産業の集積に備え、将来の工場用地を2025年2月期中にも北海道と東北地域で取得を検討している。全国シェアトップの同社といえど、地域ごとの強弱感にはバラつきがある。これまで取引実績が希薄だった地域へ本格進出することで、収益の安定性を増すことが期待できる。
新たな中期経営計画では、「配当性向40%、総還元性向80%」という積極的な株主還元策を発表した。さらに「自己資本利益率(ROE)12%」を目指すという目標も掲げており、収益性向上への強い意志がうかがえる。
ラピダスが27年から量産を始めるには、25年までにパイロットライン(試作工場)の稼働が必要となることから、関連各社には様々な需要が生じつつある。新たな企業の参入を促す期待も大きく、北海道バレー構想によるビジネスチャンスはさらに広がる可能性もあるだろう。