TikTokからアメリカの「ヤバい情報」が中国に流出する…!バイデンも動き出した「米中データ戦争」のゆくえ
中国による「印象操作」を危惧
4月24日、米バイデン大統領は、中国発の動画アプリ“TikTok(ティックトック)”の利用禁止に関する法案に署名した。これにより同法案は成立した。
ここへ来て、米国の中国製アプリに対する懸念は急速に高まっている。中国が米国民のデータを手に入れ、大統領選挙に干渉することも危惧されるからだ。
photo by gettyimages
中国に都合の良い情報が流布し、自由民主主義による経済と社会への脅威の一つとみなされ始めている。
今回の法案成立は、SNSなどのデータは企業のものではなく、その国で生活する個人に帰属する=“データ主権”を守る意志の表れだ。メタ(旧フェイスブック)やX(旧ツイッター)などは、米国で誕生し世界に広がった。
米国の成長を支えたSNSのビジネスモデルが中国企業に伝わり、世論操作のリスクの上昇が懸念される。それを阻止するためにも、米国はTikTokの展開に制限を設けようとしているわけだ。
法案成立に時間がかかった
今後、覇権国を争う米中の対立は、半導体などのハードウェアだけでなくソフトウェア分野にも広がると予想される。米国は中国IT先端企業への規制を強化するだろう。
一方、中国も反スパイ法などを使って海外IT先端企業などへの監視を強化し、自国民が利用するアルゴリズムやデータの管理を強化していくことになる。米中両国でネット広告需要などの増加ペースは鈍化する恐れがある。
2020年7月、トランプ大統領(当時)はTikTokの禁止に言及しており、法案成立に予想以上の時間を要したとも言える。対中政策は民主・共和両党が歩み寄れる数少ない分野だ。
バイデン政権発足の初期段階で、TikTok禁止あるいは親会社の中国バイトダンスに対する制裁が発動されるとの予想は多かった。ところが実際には、法案はようやく成立した。
TikTokに関して、米国ユーザーのデータがアプリを経由して中国当局に漏れ伝わる恐れがあるとの警戒感は強い。中国に都合の良い情報が米国のTikTokユーザーに拡散し、世論操作につながることを危惧しているわけである。
116兆円の制裁金
特に、今年は大統領選挙の年に当たる。近年の選挙戦での情報拡大のルートを見ると、SNSの重要性ははるかに上がっている。若年層のSNSに対する親和性を考えると、その影響力はかなり大きいと言わざるを得ない。
TikTokは、フェイスブックなど米国で誕生したSNSプラットフォーマーにとって脅威だ。米国のIT先端企業が世界の市場でシェアを拡大し、より多くのビッグデータを入手する。
それは、AIのトレーニング強化などを支え、米国の潜在成長率の向上に資することになるだろう。データ主権を確立し、社会と経済の安定を支えるために米国はTikTok禁止法案の成立にこぎつけた。
法案成立により米国は、バイトダンスに、TikTokの米国事業の売却・分離か、利用禁止の二択を迫る。分離のための猶予期間は原案の半年から最大1年に修正された。売却しない場合、ユーザー数(約1.5億人)に最大5,000ドルをかけた制裁金(1ドル=155円換算で116兆円程度)が発生する見込みだ。
それに対しバイトダンス側は、禁止法が米国の憲法に違反すると訴訟を起こした。バイトダンスは米国事業の継続が難しくなった際、売却ではなくサービス停止を選ぶとの報道もある。
背景には、TikTokの急速なユーザー獲得を支えた、アルゴリズムが米国企業に伝わるのを防ぐ狙いがあるようだ。ソフトウェアの開発力で中国のIT先端企業は米国企業以上に強い部分があることが窺われる。
世界経済も無視できない
中国の新興ネット通販企業である“Temu(ティームー)”、“SHEIN(シーイン)”も米国で急速にユーザーを獲得した。そうした企業に対しても、米国はデータ主権の強化を理由に規制をかけ、アルゴリズムの開示などを求めるかもしれない。
米国は自国を中心とした世界的なデータの利用ルールの策定も目指すだろう。一方、中国は米国に対抗し、国内や一対一路の沿線国でデータ管理体制をさらに強化していく可能性が高い。
データやソフトウェアの分野でも、情報主権を盾に米中の対立は先鋭化しそうだ。それに伴い、米国で中国のSNSによる広告などの需要、ギグワーカーなどの雇用機会は減少する可能性は高まる。
中国でも、米国企業の収益獲得は難しくなるだろう。世界経済がデータの時代を迎える中、半導体などに加えてデータ主権の分野でも米中の対立が先鋭化することは、世界経済にとって無視できない負のファクターになりそうだ。