BMW R12 nineT(6MT)/モト・グッツィV7ストーン コルサ(6MT)/ドゥカティ・スクランブラー アイコン(6MT)【試乗記】
BMW R12 nineT(6MT)/モト・グッツィV7ストーン コルサ(6MT)/ドゥカティ・スクランブラー アイコン(6MT)【試乗記】
BMW R12 nineT(6MT)/モト・グッツィV7ストーン コルサ(6MT)/ドゥカティ・スクランブラー アイコン(6MT)
永久不滅のアイコン
待望の「BMW R12 nineT」にカフェスタイルの「モト・グッツィV7ストーン コルサ」、そして新型「ドゥカティ・スクランブラー アイコン」……。JAIA二輪輸入車試乗会より、「バイクといったらこれだろ!」というオーセンティックな3モデルの走りに触れた。
「これがBMWなのです」 BMW R12 nineT
四輪のほうはそうでもないけれど、自分の二輪経歴において一度は付き合ってみたいと思っているのがBMW。というより伝統的なボクサーツインエンジン。今もってシリンダーヘッドを左右に突き出したままの形態は、無表情の執事が「これがBMWなのです」とつぶやかんばかりに機能美の主張が際立っている。だからおそらく、このエンジンさえあれば上に何が乗っかろうともカッコよく見えるに違いない。ところが、「それはBMWではありません」とたしなめたのがR12 nineTだった。
2013年に登場した「R nineT」の後継モデルにあたるらしい。排気量1169ccで109PSのエンジンスペックはそのままにフレームを大改良。その他、細部をブラッシュアップし、BMWが分類するヘリテイジシリーズの最新作としたそうだ。
そうした経緯は、この際はどうでもいい。なぜなら、目の当たりにしたR12 nineTは、相応の過去があったからこそ現在の輝きを得たに違いないと思わせてくれた、あえて言えば大人の魅力に満ちていたからだ。特に、試乗車がまとっていたクリアコート仕上げのアルミ製タンクと赤いフレーム。その姿に、ひとまずたじろがずにいられるほど成長した自分を褒めてやりたいくらい、それは夜の香りすら漂う妖艶(ようえん)な姿だった。
やはりエンジンも素晴らしかった。アイドリング中にひねるスロットルに呼応して、車体が右にあおられる昔ながらのクセもちゃんと残っている。それでいて、走り出せば荒っぽさは顔をひそめ、どこまでもエレガント。だが、相応のキャパシティーとパワーを有しているから、場合によっては野性的な一面を引き出せるのかもしれない。
そんなふうに、お見合い的試乗会を抜け出したあとのあれこれ(例えばハンドルはもっと狭いものに換えたいとか、クラッチ操作なしでギアチェンジできる仕組みには積極的に慣れようとか)を想像し始めた時点で、僕はこのカッコいいエンジンを見事に着こなしたR12 nineTに参っていることを自覚しなければならなかった。取りあえず、300万円くらい用意すれば付き合えるらしい。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
私のウルトラマン モト・グッツィV7ストーン コルサ
鈍めのシルバーに落ち着いたレッドの配色を見れば、円谷プロに育ててもらった世代が「ウルトラマン?」と思わないはずがない。ところが、モト・グッツィの故郷であるイタリアのマンデッロあたりでは、この仕様に対してまったく別のイメージが浮かぶようだ。
V7ストーン コルサは、モト・グッツィ特有の縦置きV型2気筒エンジンを搭載したV7シリーズの特別仕様車。いかに特別かというと、専用のカラーリングをはじめとして、いわゆるビキニカウルやシングル風シート等の専用アイテムを備えることで、かつての耐久レースマシンをほうふつとさせるスタイルに仕上げたところらしい。
人類のために戦ってくれる外星人の強さが感じられるんじゃないかと思いきや、またがった瞬間にウルトラマンから離れなければならないと悟った。バーハンドルの高さ、特に前寄りにセットされたステップがかもす乗車姿勢は、今日的レーサーのそれとは大きくかけ離れていたからだ。
走り出してみても、前車にかみつこうとするような荒々しさもけたたましさも感じない。つまりは穏やか。無駄な戦いを望まない姿をたとえるなら、『シン~』に出てきたメフィラス星人の知性に似ている。って、だからウルトラマンから離れろってば。
要するに、すべてが誤解。このV7ストーン コルサは、往年のレーシングマシンにささげるリスペクトをゆっくりかみしめるためのツーリングモデルだった。その成り立ちにこそ敬意を表して乗れば、まるで違った感覚が味わえる。もはや慌てず騒がず、この道をどこまでも進めばいいと、それこそ幾多のレースを勝ち抜いた往年の名ライダーがそっと語りかけてくるような、優しい景色が見えてくるのではないだろうか。
そして何より、ふと見下ろしたときに目に入るエンジンヘッド。縦置きVツインを守り続けるのも、モト・グッツィにとっては戦いなのかもしれない。その使命感を受け継ぐようにしてV7ストーン コルサを手に入れたら、僕はやはり、私のウルトラマンと自慢するだろう。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
とってもフレンドリー ドゥカティ・スクランブラー アイコン
「これはデカい『モンキー』なのでは?」
思わず口をついてしまったファーストインプレッション。いざまたがればバツグンに足つきはよく、ハンドルに両手をかければ低いシート高(795mm)と相まってグリップ位置がオフ車以上に高く感じる。まるでエイプハンガー? おかげで取りまわしは803ccもある大型バイクとは到底思えず、乾燥重量170kgのボディーは掛け値なしに400ccクラスと変わらぬ楽チンな押し引きを約束してくれる。うーん、走らせる前からいきなりハードルが低いぞ。
さらに過去のどのドゥカティよりもクラッチレバーは軽く、スムーズ一辺倒でお行儀がよすぎるいまどきの市販車にあってこのLツインはビャンビャンと適度にノイジーだ。僕はここにいますよ! と語りかけてくるようでなんだか愛らしい。
そしてそれらの“感触”それぞれが、誤解を恐れずに言えば、ホンダの原付二種である「モンキー125」に似通っていると直感してしまった。ドゥカティの人は怒るかもしれないけれど、そのくらいに新しいスクランブラーは大方のライダーにフレンドリーなのである。
2024年春の時点で、スクランブラーシリーズには4種の仕様があるようだ。803ccの「アイコン」「フルスロットル」「ナイトシフト」、そして旧世代の「1100スポーツ プロ」。そのなかでもスタンダードモデルといえるアイコンに乗ってみた。エンジン、フレーム、スイングアームなどの構造変更や灯火類のフルLED化が施されており、見た目にはタンク形状やエキパイのデザインが変わったことが分かりやすい。
イージーな発進、トルクフルなピックアップ、速度域を問わずに軽快なハンドリング、安心でスムーズなブレーキ。ぜんぶ常套句(じょうとうく)。でもウソや誇張はない。終始、なんて乗りやすいバイクなんだ! の気持ちが途切れずにキープされる。そしてそのキモチの真ん中に、空冷L型2気筒エンジンがごく自然に収まっているのだ。
気づけば、このスクランブラーだけがドゥカティの空冷ツイン搭載モデルとなってしまった。そう。最後の空冷ドカ。ほかのバイクでは得られない、スペアミントみたいなこの味だけはどうか大切に残してほしい。……と、ここで本文を締めくくると自分らしくないからもうちょっと足す。
かつて2000年代のトラッカーブームで「TW」や「FTR」を楽しく操ったみなさん! あのときの残像や手触りが今でも消えていなかったら、ぜひこのスクランブラー アイコンを試そう。大人なりの答えがここに見つけられますよ。ええ、大丈夫。もしアイコンが手に余ったらモンキー125という手もあります。……あれ?
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW R12 nineT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2140×1070×870mm
ホイールベース:1765mm
シート高:795mm
重量:222kg
エンジン:1169cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:109PS(80kW)/7000rpm
最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:19.6km/リッター(WMTCモード)
価格:287万6000円(試乗した初回生産限定モデルの価格)
モト・グッツィV7ストーン コルサ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2165×–×–mm
ホイールベース:1450mm
シート高:780mm
重量:218kg
エンジン:853cc 空冷4ストロークV型2気筒OHV 2バルブ(1気筒あたり)
最高出力:65HP(48kW)/6800rpm
最大トルク:73N・m(7.4kgf・m)/5000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:–km/リッター
価格:151万8000円
ドゥカティ・スクランブラー アイコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=–×–×–mm
ホイールベース:1449mm
シート高:795mm
重量:185kg
エンジン:803cc 空冷4ストロークV型2気筒SOHC 2バルブ(1気筒あたり)
最高出力:73PS(53.6kW)/8250rpm
最大トルク:65.2N・m(6.7kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:–km/リッター
価格:127万8000円