電撃ネットワーク「南部虎弾」が病床でも見せていた“エンターテイナー”としての矜持
電撃ネットワークのリーダー・南部虎弾(なんぶ・とらた=享年72)さんが脳卒中で亡くなってから約3週間。すでに通夜と告別式は執り行われたが、3月23日には都内で「お別れ会」が予定されている。南部さんは2019年に妻がドナーとなり腎臓移植の手術をしているが、その理由は「人工透析をすると(公演で)海外に行けなくなる」というものだった。最期まで「芸」をまっとうしようとした南部さんの生きざまを生前に親交のあった2人の女性が語った。
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埼玉県在住のまさみさんとめい子さんが南部さんと初めて出合ったのは、約6年前。東京・新宿区にある「あぶさん」という居酒屋だった。「あぶさん」はその名の通り野球好きが集まる居酒屋で、南部さんも常連の「あぶさん会」という定例会によく顔を出していた。電撃ネットワークのメンバーやタレントのはるな愛さんもよく一緒に飲んでいたという。「あぶさん会」での南部さんの様子をまさみさんはこう語る。
「腎臓移植の手術をした後もステージでは派手な芸をしていて、居酒屋ではトークでみんなを笑わせていましたね。南部さんはエスパー伊東さんと仲がよくて会いたがっていました。でも、最後の方は『間に人が入ってきて会わせてくれない』とちょっと怒っていましたね。エスパーさんことはまさか亡くなるとは思っていなかったみたいです」
■妻からもらった腎臓を大事に
南部さんが妻の由紀さんから腎臓の提供を受け、腎臓移植をしたのは2019年のこと。南部さんと「飲み友達」だった2人は心配になり、都内の病院に入院していた南部さんをお見舞いに行った。
「お見舞いに行ったのは手術直後でした。知り合ってまだ2年くらいだったので、お見舞いなんて嫌がるかなとも思ったんですが、南部さんは『来てくれてありがとう』と喜んで迎えてくれました。ただ、やはりおやせにはなっていましたね。スマホで写真を撮ることもOKしてくれて、病院のベッドで手を上げてポーズまで作ってくださいました。やさしい方だなと改めて思いました」(まさみさん)
一緒にお見舞いに行っためい子さんは聴覚障害者なので、筆談でこう書いてくれた。
「お見舞いの病室には親戚と仲良ししか入れない。私は仲良しなので行きました。南部さんとはるな愛さんと3人で時々、食事をしていました」
生粋のエンターテイナーである南部さんとはいえ、腎臓移植後は体調に気をつけ、糖尿病の生活習慣を改める節制生活を送るようになったという。
「奥さまによれば、病院から退院した後は、お酒は控えるようにしていたようです。自宅でお酒を飲むのは年に1~2回程度で、ほとんど飲まなかったそうです。糖尿病の治療に前向きに取り組んでいたと、奥さまがおっしゃっていました。奥さまからいただいた腎臓を大事にしていたんでしょうね」(まさみさん)
腎臓だけではなく、南部さんは糖尿病の合併症で、心臓手術を受けたこともあったという。
「晩年は体のあちこちが悪かったようです。ただ、体調が悪くなってしばらく休むことはあっても、必ず復活してきました。エスパーさんが亡くなったころも体調が悪く仕事も休まれていましたが、また絶対に復活されるだろうと思っていたので、亡くなったと聞いたときは『まさか……』という気持ちでした」(同)
■バレンタインデーにも食事する予定だった
腎臓移植をしたときのコメントにも表れているように、南部さんは自分の芸事にこだわって生きてきた。額に缶ビールやペットボトルをくっつけてコップにそそぐパフォーマンスが得意だった。首相公邸に招かれ、安倍晋三元首相の妻・昭恵さんにこの芸を披露したこともある。過去にはもっと過激な芸もあった。
「かつてはチェーンソーをメンバーに振りかざす芸があって、メンバーに当たりそうになるとコンセントが抜けるというもの。南部さんからは『ギリギリまでチェーンソーをまわせ』という指示が出ていたそうで、芸を極めることには厳しかったそうです。だから劇団員には厳しくて、時にはメンバーと殴り合いのケンカになることもありました。南部さんはああ見えて、空手の有段者なので強いんですよね(笑)」(同)
1月28日に通夜、29日には告別式が行われ、約150人が参列した。葬式では「喪服禁止」。参列者たちは思い思いの“派手な服装”で南部さんを悼んだ。
「私もピンクのヒョウ柄の服装で参列しました。もう、お祭りのようなお葬式でしたが感動的でした。でもやはり最後、棺にみんながお花を入れ始めたところで、奥さまが泣き崩れてしまって、鳥のコスプレを着た人が奥さまに『泣かないって約束したじゃない』となぐさめていました」
出棺の時には電撃ネットワークのテーマ曲を流しながら、みんなでダンスを踊って見送った。
「私たちも踊りました。本当は2月14日のバレンタインデーに、南部さんとはるな愛さんと食事をする予定だったんですけど、その前に逝ってしまいました。本当に悲しいです」(めい子さん)
3月23日には、東京・港区の会場で「南部虎弾&エスパー伊東 お別れ会」が予定されている。南部さんらしい“派手な”お別れの会になりそうだ。
(AERA dot.編集部・上田耕司)