野茂英雄投手の活躍に日米熱狂、メジャーへの道切り開いた「竜巻」
ドジャース時代の野茂投手
２９年前の５月２日、野茂英雄投手が米大リーグで初登板を果たしました。５回を毎回奪三振、無失点の好投。その後も大活躍し、野茂選手の活躍に日米が熱狂しました。その年の読売新聞朝刊の投書欄「気流」には、野茂選手に関する投書が多く掲載されました。記者の心に刺さった投書を紹介する「ササる投書」、今回のテーマは「野茂英雄」です。（※投稿者の年齢や職業などは掲載当時。紙面では実名で掲載）
■大リーグ挑戦、日本球界にプラス
野茂投手が米大リーグにデビューした。２戦目は打たれたが、初戦は５回を投げて被安打１、奪三振７という見事な内容。ドジャースの背番号１６のユニホームがとても似合っていた。
彼の雄姿を日本の球場で見られないのは残念な気もするが、それ以上にアメリカのマウンドで大いに頑張って欲しいという期待の方が大きい。
大リーグに挑戦する選手の出現を、私は以前から期待していた。スポーツに国境はない。今まではアメリカ野球などの選手が一方通行的に日本の球界にやって来たが、これからは日本選手もどんどん大リーグに挑戦し、思う存分活躍して欲しいと思う。
日本から人材が流出してしまうなどと心配する必要はない。むしろ、大リーグという目標が出来て、日本球界のレベルアップにもつながるのではないだろうか。「野茂投手、日米野球で大リーグの一員として来日」といった夢が現実となったならば、どんなに楽しいことだろう。（４４歳・自営業＝群馬県、１９９５年５月９日掲載）
■活躍ぶり、沢村投手に重ねて
祖父が大リーグを衛星放送で見たいと言い出したので、アンテナを設置した。
「これが野茂か。妙な投げ方だ」と初めて野茂投手を見た祖父は言った。最初の打者を三振に仕留める。「沢村もこれぐらい出来たのにな。残念だ。戦争がなければ」
祖父は沢村栄治投手がとても好きだった。その沢村投手が亡くなった時、野球への興味をなくしたという。「よし、よし、いいぞ」。祖父は野茂投手に沢村投手を重ねて大リーグ中継を見ている。（３０歳・プログラマー＝埼玉県、１９９５年８月１９日掲載）
■国背負うのではなく楽しんで投げて
野茂投手が米ナショナルリーグの週間最優秀選手（ＭＶＰ）に選ばれた。彼がドジャース入りするため渡米したころ、私たち一家もまだロサンゼルスで駐在生活をしていた。帰国して一番の心残りは、スタジアムへ彼の応援に行けなかったことかも知れない。
日本とアメリカの生活様式はかなり似かよってきた。しかし、自己の考えを相手にはっきり主張していくアメリカのやり方は、日本のそれとは大きく異なっていると思う。いったん言いかけたことに対しては相手が理解するまで説明させられる。
相手を傷つけたくないと思って黙っていると、こちらの主張は通らない。「こちらの気持ちを察してほしい」というのは通用しない。言葉の壁以上に、こうした精神構造の壁が時として日本人には苦痛である。
だからそれを乗り越えた野茂投手の活躍はいっそう素晴らしいと思う。チームのため、ファンのために投げる以前に、自分自身のために投げているように見える。これからも、国を背負った悲壮感のようなものは持たずに、楽しんで投げてほしい。（３７歳・主婦＝東京都、１９９５年６月３０日掲載）
■進んでいく勇気、教えられた
米大リーグのオールスターゲームで野茂英雄投手が２イニング投げて自軍ベンチに引き揚げる時、味方の選手が握手を求め喜ぶ姿を見ていて胸が熱くなった。
野球がよく分からない私だが、一人で言葉の通じない世界へ飛び込むには相当の覚悟が必要だったことはわかる。新聞などで目にするたびに心の中で応援する一方、少々騒ぎ過ぎかなと感じることもあったが、今にして思えば、皆、不可能を可能にして欲しいとの願いを込めていたのだろう。
わが家も、転勤するたびに新しい土地で疎外感を味わってきた。でも、引っ込み思案にならないで、人の中へ進んで入っていく勇気が大切ということを野茂選手に教えられた気がする。
日本にもスポーツを始め各分野に外国からやって来る人は多い。そんな人を喜んで迎え、その人が成功した時は、拍手を送れる心の大きさを持ちたい。（３３歳・主婦＝兵庫県、１９９５年７月１４日掲載）
■担当記者から
大谷翔平選手ら日本人選手の活躍で米大リーグに注目が集まっています。野茂英雄さんが道を切り開いたおかげだと私は思っています。独特のトルネード投法を含め、唯一無二の記録にも記憶にも残る大投手でした。９６年に東京ドームで開催された日米野球、野茂対イチローでのカメラのフラッシュのまばゆい光は忘れません。今でも「野茂英雄のテーマ ＨＩＤＥ～Ｏ」を口ずさむことがあります。皆さんにとって忘れられない野球選手は誰ですか（田渕）
「ササる投書」を毎週掲載します。次回もお楽しみに！