資産20億円の88歳現役トレーダー・藤本茂さんが語る“下落時の鉄則” 「下がった時に売るのはいちばんの悪手」、ナンピン買いも「怖いこととは思わない」
88歳の現役トレーダー・藤本茂さんが乱高下相場との向き合い方を指南する
新NISAによる投資ブームが年初から盛り上がる一方、ここにきて日経平均もドル円相場も乱高下する展開が続いている。この難局に、投資を始めたばかりの初心者はどう向き合えばよいのか。
【写真】売買履歴を記した手書きのノート。「株取引以外でパソコンはほとんど使わない」と茂さん
「どんどん値下がりするのが心配、という心理は分からなくはないです。でもね、株価が下がった時に売る“損切り”は、いちばんお勧めできない悪手ですよ」
そう語るのは、88歳にして現役トレーダーの藤本茂さん。昨年上梓した著書『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社)が12万部を突破するベストセラーとなり、今年4月に米寿を迎えた(以下、「 」内はシゲルさん)。
昨年12月の本誌・週刊ポストの取材には「70年近く株をやってきた経験から言うと、2024年に日経平均は4万円を突破する」と予想。その見立て通りに相場は右肩上がりを続けたが、4月には一時、3万6000円台まで急落した。
“この乱高下にどう向き合えばいいか”と頭を悩ませる人たちが、豊富な投資経験に裏付けられたシゲルさんの言葉から学べることは多い。
1955年、19歳で投資を始めたシゲルさんは、1987年の「ブラックマンデー」、1990年代初頭の「バブル崩壊」などの暴落を経験している。バブル絶頂期には10億円ほどあった資産は、崩壊後に約2億円まで減ったという。
それを機に一度は投資の世界から身を引いたが、2002年にインターネット取引と出会って投資を再開。以来、デイトレードを続け、現在では20億円超まで資産を増やした。その過程では、2008年の「リーマンショック」なども乗り越えてきた。
「バブル崩壊ほど大きな下落じゃなくても、投資をしていれば、保有銘柄が下がることは日常茶飯事だよ」
そう微笑むシゲルさんの「下落時の鉄則」とは。
下落時の2つの選択肢
シゲルさんは常時、およそ80の個別銘柄を注視し、1日30回もの売買を繰り返す。その鉄則は「株価が下がった時に買う」だという。
「狙っている銘柄が値上がりすると『もっと上がる』と考えて買いたくなり、値下がりすると『さらに下がるのでは』と売りたくなるかもしれませんが、私の方針はまったく逆で、『上がったら売る、下がったら買う』。
保有する銘柄が下落した時に取るべき行動は、『【1】保有したまま様子を見る』か『【2】もっと買い増す』のどちらかです」
シゲルさんはまず「【1】保有したまま様子を見る」の選択肢についてこう解説する。
「私がよく売買する銘柄に、信越化学工業があります。この株のコロナショック時の値動きを例に取ると分かりやすい。
2020年1月6日の大発会の終値が2370円。この時点で237万円を投じて1000株買ったとしましょう。その後、2月には2700円を超えたが、コロナショックで3月23日には1791円まで下落。この時に焦って売ると売値は約179万円で、約58万円の損失が確定してしまう。でも、我慢して保有し続けていれば、現在の株価は6195円(4月30日終値)で、約382万円の含み益が出ていることになる」
さらに、みんなが焦って株を売りたがる時こそ儲けのチャンスとの発想を持つと「【2】もっと買い増す」の考え方になる。
シゲルさんが積極的に取る「ナンピン買い(下落時の買い増し)」の手法は、成功した時の儲けが大きいという。
仮に、株価100円の銘柄を1株購入したとする。この株が50円まで値下がりした場合、売ってしまえば50円の損が確定する。しかし、そこでさらに100円を投資して2株を追加購入すれば、200円で3株購入できたことになる。1株あたりの購入単価が約66.7円まで下がり、株価が元の100円まで回復すれば、100円の含み益になるのだ。
「もちろん、すべての銘柄をナンピン買いしているわけではありませんが、改めて決算短信など企業業績を精査して、好業績が持続すると思える銘柄に絞って買い増す。投資家の間では『下手なナンピン、素寒貧』の格言もありますが、私は怖いことと思わない」
69年間、続けてきたこと
新NISAでは米国の株価指数「S&P500」に連動する投資信託なども人気を集める。
そうした投資信託も相場の下落時には同じ金額で多くの口数が購入できるため、長期的な上昇が期待できるなら、シゲルさんの理論が有効だと言える。
「初心者にアドバイスしたいのは、投資で資産を増やそうと思うなら、勉強を怠ってはならないということ。私は69年間、株の勉強を続け、常に『増収・増益・増配』であるかを重視して売買する株を選んできた。そうして将来的な上昇を見込んで買った株なら、暴落した際も我慢して保有し続けたり、買い増したりできるはず。よく株で儲けた人を『運が良かった』と言うけど、そうではない。運よりも勉強がモノを言う世界だと心得てほしいですね」
撮影/杉原照夫
※週刊ポスト2024年5月17・24日号