脱線事故で親友が犠牲「ひつぎで眠る顔に涙が止まらなかった」…思い胸に特別救助隊長に
訓練の準備をする西さん(兵庫県三田市で)
JR福知山線脱線事故で中学時代の親友を亡くした兵庫県三田市消防本部の消防司令補、西祐介さん(38)が今春、特別救助隊長に就任した。事故や火災、災害で、人命を守る精鋭部隊を束ねる。脱線事故から19年。「何もできなかった」という当時の悔しさを胸に、「常に成長していきたい」と思いを新たにした。(竹村文之)
「いつも、自分の大切な人を救う心構えで臨もう」。西さんは隊員らに、こう説く。2005年4月25日の脱線事故で犠牲になった大阪教育大の2年生だった小前(こまえ)宏一さん(当時19歳)への思いを言葉に込めている。
市立上野台中学校で同じサッカー部。グラウンドまで歩きながら、ゲームやプロレス、好きな女の子の話で盛り上がった。お互いの家に泊まりに行き、高校が別になっても一緒に遊んだ。それが、ずっと続くものだと思っていた。「ひつぎで眠る顔に現実感が押し寄せ、涙が止まらなかった」
西さんは当時、入庁2年目。尼崎市の事故現場へ支援に向かう先輩らを見送ることしかできず、「自分なら何ができるかなんて、考える余裕も経験もなかった」と振り返る。
だからこそ、命を守る使命感はより強まった。当時の救助隊に配属され、火災や交通事故の現場へ。救急車にも乗り込んできた。何度も生死の分かれ目に立ち合い、泣き崩れる家族に接すると、「もっと何かできたのでは」と考えてきた。
最近の6年間は総務課などで主に事務を担い、この春、特別救助隊に復帰。ランニングや筋トレを欠かさず、「いつでも現場に戻れるように」と準備をしてきた。
特別救助隊は16人の隊員が2班に分かれて隔日に勤務し、西さんはその一方を束ねる。若い後輩たちと訓練を重ね、瞬時に的確な判断や指示ができるようイメージする。現場から全員を無事に帰還させなければならない責任も重い。「大切なのはチームワーク。その潤滑油のような存在になりたい」
4月19日、小前さんの家を2年ぶりに訪ねた。母の恵さん(68)に「みんなから頼られる仕事ね。体に気をつけて」と逆に励まされた。笑顔の遺影には「こうちゃん、見守ってな」と心で語りかけた。
小前さんが19歳で亡くなり、同じだけの年月が巡った。消防士になったことを伝えずじまいになったのは心残りだが、「きっと励ましてくれている」と信じる。
当直の日は、仮眠室で何度も目が覚める。現場に戻ってきた緊張感をかみしめる瞬間だ。「一人でも多くの命を救う。万が一の時のため、備えていきたい」
19年前の無力感を忘れない――。「明日」を絶たれた、友のために。特別救助隊の証しであるオレンジ色のユニホームに、誓う。