“絵本探偵”である図書館員さんに聞く! 覚え方や記憶違いで絵本が探せない時のライフハック
子どもの頃に読んだ絵本や児童書。タイトルもストーリーもおぼろげだけど、なんとかもう一度読んでみたい……。そんな時にはどうしたらいい? AERA 2024年4月29-5月6日合併号より。
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前日の花散らしの大雨がウソのような快晴。東京都中野区の東京子ども図書館の絵本が並ぶ一角には、ステンドグラスからやわらかな光が降りそそいでいた。その光の先にふと目をやると、ディスプレイしてあった『わたしのろば ベンジャミン』(こぐま社)という絵本が目に入る。少女と仲良しのロバの心の通い合いを描いたモノクロの写真絵本だ。子どもたちに人気だというその絵本を手に取り、読みふけっていると、子ども時代に読んだ忘れられない本のことを思い出した。
「こういうモノクロの写真絵本で、『よるのびょういん』というタイトルだったような気がするんですけど……」
記者がつぶやくと、
「ありますよ!」
東京子ども図書館の図書館員、護得久(ごえく)えみ子さんと鈴木晴子さんは同時に声をあげ、ものの数秒で谷川俊太郎さん作の『よるのびょういん』(福音館書店)を探し出してくれた。どこを探しても見つからなかったこの絵本、長らく重版未定だったそうだが、福音館書店70周年の特別企画として2022年にリクエスト復刊したのだという。おなかが痛くなった少年が夜の病院に運ばれ、盲腸と診断されて入院、大慌てで病院に駆けつけるお父さん、リアルな手術シーン、という流れが展開していくのだが、シュールな中にも笑いもある不思議な本だった。そうそう、これこれ。懐かしいなあ。取材にきているのに、ページをめくる手が止まらない。
■記憶変わっているかも
さて本題に戻らなくちゃ。子どものころに読んだあの絵本や児童書のタイトルが浮かばない──。そんなときに本の探偵である図書館員・司書さんはどうやって探している本にたどりつくのだろう。これを聞きたかったのだ。教えて、護得久さん! 鈴木さん!
鈴木:最近はインターネットなどで当たりをつけたりされていると思うんですが、それでも出てこない場合は、お近くの図書館のレファレンスは頼れる手だてだと思います。多くの図書館では登場人物やキーワード等から本を探すためのレファレンスツールをお持ちです。図書館員さんなら、そういったものからも引いてくださると思います。
護得久:大人が子ども時代に読んだ本を探す場合に難しいのは、その人の中で時間をかけて膨らんだものがあることです。だから、もしかしたらストーリーはそうじゃなかったかもしれない、自身の記憶が変わってしまっているかもしれないということも頭の隅に置いて探してみるといいと思います。
鈴木:当館の児童室では、子どもが本のどこを見ているかを日常的に体感することがあります。「まえによんだチキチキブンブンの本が読みたい」って言われた時に『チキチキバンバン』(あすなろ書房)を持っていくと、「もっと小さい本だった」って。結果、『ティッキ・ピッキ・ブン・ブン』(東京子ども図書館)でした(笑)。
■子どもの覚え方は多様
ある電車好きの男の子が『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』(福音館書店)を、『いずらきかんちゃ だいじょうぶ』の本がないかと聞いてきました。きっとその子は、絵本を読みながら「ちゅうちゅう、どこに行くの? 大丈夫?」って思いながら読んだんでしょう。子どもの覚え方は、本当に多様なんです。
護得久:以前、この図書館で一緒に絵本を楽しんだ子が、「6匹のクマさんが出てくる絵本をもう一度読みたい」と。さらに聞いていくと、しましまの服を着ている人がいる大きな本だ、という。実は『ウォーリーをさがせ!』(フレーベル館)だったんですが、「6匹のクマ」が主人公だと思ってしまうと、なかなかたどりつけないんですよね。あの日に読んでもらった本ということであれば、私がいればすぐに「このまえ読んだ『ウォーリーをさがせ!』だよね」となるんですが、その時はたまたま別の図書館員が対応したんですよね。
鈴木:誰といつ読んだか、ということも大きなヒントになると思います。
護得久:これまでで一番苦労した子どものレファレンスは、棚を指さして「あの本とこの本の間にあった本」(笑)。あとは、大人の方の質問では、大事に持っていったケーキをおばさんにやっと渡したら箱を揺さぶっちゃった話と、山手線の網棚の上に何かを置いた話。これもたどりつけませんでした。むしろ昔話の方が、ストーリーラインが地域によって違っても、大きな筋が一緒なので調べやすいです。
■図書目録の表紙を見て
その一方で、一発で探せた本もあります。今回私のおすすめの本でご紹介している『べんけいとおとみさん』(福音館書店)です。赤ちゃんを抱っこしたお父さんが「べんけいさんの本ありますか」と。「べんけい」という名前の出てくる本が2冊思い浮かんで、最初に『べんけいとおとみさん』をご案内したら、「これです!」と。子ども時代にお好きだったみたいです。この本もこの4月にリクエスト復刊されました。
鈴木:「探しもの」にちなんでぜひおすすめしたいのは、『ねずみのいえさがし』(童話屋)という本です。「ねずみのほん」というシリーズで、1作目では家を探しますが、2作目は友だちを、3作目は食べものを探します。小さな写真絵本で素朴でかわいいので、2〜3歳くらいの子が、はじめて図書館にきて緊張しているようなときに、「一緒に読んでみない?」と声をかけると、必ず2冊目も、3冊目もとなって、子どもとの距離が近くなるんです。
護得久:司書の私たちでも本を探すということは難しいものです。でも手がかりをもとに探すことは楽しいんですよね。東京子ども図書館では、子どもたちに手渡したい本を集めた『絵本の庭へ』『物語の森へ』『知識の海へ』(すべて東京子ども図書館)という推薦図書目録を出版しています。これは図書館でも借りられますし、購入もできます。タイトルや人名などから検索できるだけでなく、モノクロですが書影を載せていますので、表紙を見て「この本!」と思い出すこともあると思います。子どもたちも絵本を書いた人が誰かわからなくても、表紙を見て『はらぺこあおむし』(偕成社)の人でしょうってことは言えるんですよね。
■受賞作をさがしても
鈴木:大人が子ども時代に読んだ本を探すということであれば、児童図書賞の受賞作をさがしてみてもいいかもしれません。当館分室のかつら文庫は、1947〜2011年に主な日本の児童図書賞を取った作品を年代順に展示しています。見学にいらした方が、その棚の前で、「あっ、この本!」と声をあげることがよくあります。自分で国立図書館や県立図書館に問い合わせをしなくても、身近な図書館のレファレンスのカウンターの人が、順番に大きなところに問い合わせをしてくださったりもします。図書館はいろんなレファレンスツールを持っています。図書館員しか使えないツールもあります。そこからたどりつけることもあるはずです。
(編集部・三島恵美子)
※AERA 2024年4月29日-5月6日合併号