祖国のため死ぬのは「道徳的」 河村市長が改めて強調、専門家は批判
記者会見で質問に答える名古屋市の河村たかし市長=2024年4月30日午前11時17分、名古屋市役所、寺沢知海撮影
河村たかし名古屋市長は30日の会見で、「祖国のために命を捨てるのは道徳的な行為」と発言したことについて、問題ないとの認識を示した。市民団体や自民党市議団などから批判が出ているが、河村氏は撤回しなかった。
記者会見で質問に答える名古屋市の河村たかし市長=2024年4月30日午前11時19分、名古屋市役所、寺沢知海撮影
河村氏は22日の会見で、高校生の働きかけをきっかけに制定された5月14日の「なごや平和の日」の意義を問われ、戦闘が続くウクライナやパレスチナ自治区ガザを引き合いに「人はなぜ殺し合うのか」と、戦争が始まる要因を考える必要性に言及。そのうえで太平洋戦争の戦没者も含め、「祖国のために命を捨てるというのは、相当高度な道徳的行為だ」と述べた。さらに、学校教育の現場でも「一定は考えないといけない」と主張した。
これに対し、市民団体などが「国民の犠牲を美化している」と抗議。市議会最大会派・自民党市議団も会見で、「戦争の基盤は殺戮(さつりく)。その行為を道徳的というのは不適切」(藤田和秀団長)と批判した。
河村氏はこの日の会見で、「道徳的」の意味は「感謝される対象、徳がある」と説明。「(世界は)残念ながら第2次世界大戦を起こして膨大な人を殺した」「戦争なんかない方がいい」との認識を示したうえで、「祖国が間違っていたこともあるが、わけわからん歴史の中で命を落とした人たちの死は全く無意味なのか」と反論。そのおかげで今の平和があるとし、「祖国のために死んでいったことは一つの道徳的行為だった」と改めて強調した。また、改めて戦争の原因を突き詰めるべきだとし、「なぜ国のために命を捨てないといけないのかを議論することが必要」とも語った。
日本大学の古川隆久教授(日本近現代史)は、河村氏の発言は国の命令・判断に従わざるを得なかった戦前の歴史的な経緯を無視している、と指摘。「国が『大変だ』と言ったら無条件で命を投げ出せという意味にすり替わる可能性がある」と話す。世界的に見て侵略に対して「命を捨てる」ことに敬意が払われるのはよくあるとしたものの、「歴史的に見れば容易に『戦争に行くべきだ』という議論に発展したし、むしろそのためにこういう話が盛んになされてきた」と警鐘を鳴らす。
近現代史研究家の辻田真佐憲氏は「戦争で死ぬことを『道徳的』とすると、それが『推奨すべき良いおこない』となる」と指摘。現職市長がこうした発言をすると、「慰霊をすること以上を市民に求めているように聞こえる」と危惧する。市は「なごや平和の日」を制定したばかりで、「戦争の犠牲者を悼むための式典のはずで、いったい何を伝える日にしたいのか」と疑問を呈す。(寺沢知海、野口駿)