石破、茂木、河野、高市…ポスト岸田の「総裁選」で、最も「派閥解体の影響を受けそうな候補」の名前《『自民党と派閥』緊急復刊》
読売新聞グループ本社代表取締役主筆である渡辺恒雄氏が1967年4月に刊行した『派閥と多党化時代―政治の密室 増補新版』が、『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』として緊急復刊された。当時、30代後半から40代初めの政治記者で、幅広く政界を取材していた渡辺氏の分析は、「政治とカネ」や「派閥」が大きな問題となっている現代にも通用するものが少なくない。今回は、本書に収録されている元読売新聞政治部長・前木理一郎氏による解説の中から、渡辺氏の記述を理解するうえで重要な補助線となる増補第一章「令和の派閥」の一部を特別公開する。
総裁選はどう変わる?
派閥の存在意義とも言われてきた自民党総裁選は今後、どうなるのだろうか。次の総裁選は予定通りなら、2024年9月に行われる。派閥解消の動きが加速されるのか、それとも派閥的な動きが復活するのか、試金石になるとみられる。
自民党の政治刷新本部の中間とりまとめに盛り込まれた派閥を「『お金』と『人事』から完全に訣別する」という改革が実行されれば、派閥領袖がカネや閣僚ポストの配分を通じて所属議員を縛ることが困難になるだろう。総裁選での派閥の締め付けも当然、緩くなり、派閥単位で結束した投票行動を取るといった旧来あった総裁選とは違った形の総裁選が展開される可能性が高い。
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内閣や部会、議員連盟で一緒に仕事をした経験や、当選同期や定期的な飲み会、勉強会などを通じた議員個々のつながりが意味を持ってくることが予想される。「ポスト岸田」をうかがう候補者の一人は既に、「政策や当選同期など様々なつながりで集まる小グループに声をかけ、会食の機会を増やしている」と語る。
2024年の総裁選は、それまでに衆院解散・総選挙が行われていない場合には、2025年夏の参院選だけでなく、衆院選も2025年10月までに行われるという状況で実施される。つまり、「選挙の顔」を選ぶ総裁選という側面が強まるのも必至だ。
似たような状況の総裁選としては、内閣支持率が低迷した森喜朗首相の退陣表明を受けた2001年の総裁選が挙げられる。小泉純一郎氏が「自民党をぶっ壊す」と宣言して改革を求める国民を熱狂させ、下馬評を覆して最大派閥を擁する橋本龍太郎氏を破った。
「ポスト岸田」候補たち
この総裁選でカギを握ったのは、全都道府県連が実施した党員による予備選だった。2024年の総裁選でも、地方の党員たちの声が中央を動かす構図が再現されるかどうかが、焦点の一つとなるだろう。
2024年3月の時点では、「ポスト岸田」候補として、茂木敏充幹事長や、これまでに総裁選に出馬経験のある石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安全保障相に加え、若手の小泉進次郎元環境相、外相就任で一気に注目が高まっている上川陽子氏らの名前が挙がる。
こうした面々の中で、派閥解体の流れの影響を最も受けそうなのが、茂木氏だ。茂木氏は従来、自ら率いる茂木派を固めたうえで、麻生派領袖の麻生太郎副総裁の後押しを受けて総裁の椅子を狙う構えだった。安倍派幹部とも良好な関係を築くことに努めてきた。
ところが、茂木氏は、麻生氏に足並みを揃えて茂木派を存続させたものの、小渕優子選挙対策委員長や青木一彦参院議員ら有力メンバーに加え、茂木氏と折り合いの悪かった参院幹部らが相次いで離脱し、足元が揺らいでいる。派内に河野氏を抱える麻生派が、総裁選で一致して茂木氏を支持するかどうかも不透明だ。安倍派は解散を決め、総裁選へのまとまった対応が期待できないうえ、今後の処分などの対応を巡って党執行部への反発を強める可能性もある。
女性初の総理候補
今回の派閥解散の動きを受けてポスト岸田への意欲を強めているのは、石破氏だ。各社の「ポスト岸田」を問う世論調査ではトップが定位置だ。ただ、党内からは「後ろから鉄砲を撃つ」と評判が悪く、総裁選で過半数の議員の支持を獲得する見通しは立っていない。
知名度と人気の高さでは、小泉氏もダークホース的存在だ。これまで、2024年の総裁選へは出馬せず、3年以内に行われる次々回総裁選を目指すとの見方があったが、自民党への支持率が急落する中、小泉氏への期待が高まるケースも考えられる。本人も派閥解散などで発信を強化している。
女性初の首相候補として人気が急上昇しているのが、上川外相だ。読売新聞社が3月下旬に実施した全国世論調査で次の自民党総裁にふさわしい政治家を尋ねたところ、石破氏の22%、小泉氏の15%に続いて、9%で3位に入った。
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つづく記事『「魔力ともいうべき特殊な政治力を感じた…」読売主筆・渡辺恒雄氏が分析していた、政界で権力を保持し続けるための「必須条件」』では、『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』に記されていた渡辺恒雄氏の分析を特別公開しています。