熊本の赤ちゃんポスト17年…病院理事長「追い詰められた人が来る、存在意義は大きい」
「子どもの出自情報の開示を専門にする機関が必要だ」と話す蓮田理事長(右)
親が養育できない子を匿名で託せる慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」の運用開始から10日で17年となるのを前に、蓮田健理事長は7日、病院で記者会見を開いた。ゆりかごは必要だと強調して、「他に頼れず、追い詰められた状況の人が来る。存在意義は大きい」と述べた。(石原圭介、小波津晴香)
ゆりかごには2007年5月の設置以降、昨年3月末までに170人が預け入れられた。同病院は19年に、独自の「内密出産」も導入した。望まない妊娠などの事情を抱える人が病院以外に身元を明かさずに出産できる仕組みだが、熊本が遠く、自宅で出産後、ゆりかごに預けに来る例が変わらずあるという。
預けられた子の多くは、半年から1年ほど乳児院に預けられる。厚生労働省は子どもが施設や里親などで養育を受ける「社会的養護」について、できる限り家庭的な環境で、安定した人間関係の下で育てることを推進している。
乳児院には職員が入れ替わるといった課題があり、蓮田理事長は「ゆりかごに預けられた子どもは欠落感が大きい。家庭的な養護が得られるよう、早期に里親や特別養子縁組につなぎたい」と話した。
ゆりかご設置から間もなく17年となり、東京都や北海道でも設置を目指す動きが出てきた。蓮田理事長は「理解と支援の声は大きくなった」と感じているが、計画は想定通りに進んでいない。「資金だけでなく、行政のお墨付きも必要だ。当面の間、第2の赤ちゃんポストはできないのではないか」と語った。
子の出自情報をどのように開示していくかも課題だ。預け入れ当時は幼かった子どもたちが大きくなり、出自を巡る問題が表面化してきたとしており、蓮田理事長は「ネガティブな情報も多く、子どもが喜んでくれるものは少ない」と懸念を示した。
同病院と市は昨年5月、子の「出自を知る権利」に関する検討会を設けた。報告書の年内取りまとめに向け、権利をどう保障するかといった課題を議論している。報告書はこども家庭庁への提出も検討している。
蓮田理事長は出自情報の開示に向けた整備が必要だとして、「子どもたちが自己肯定感を持って生きられるよう、自分を常に認めてくれる人が必要だ。それが里親や特別養子縁組だと思う」と話した。