”崖っぷち”迎えたドラ1選手 中村奨成より苦しい状況なのは? 高卒3年目で”危うい立場”の2人も
毎年12人しかいないドラフト1位の選手。今年は草加勝(中日)、下村海翔(阪神)がトミー・ジョン手術を受けて長期離脱となったが、度会隆輝(DeNA)、西舘勇陽(巨人)、武内夏暉(西武)の3人は既にチームに欠かせない存在となっている。出遅れている選手もここから戦力になることも十分に期待できるだろう。
しかし、その一方で高い期待を受けて入団したかつてのドラフト1位の選手の中には、今季が正念場という選手も少なくない。このようなテーマですっかりおなじみとなってしまっているのが中村奨成(広島)だ。高校3年夏に出場した甲子園では大会記録を更新する6本塁打を放つ活躍を見せ、2球団が競合の末に地元広島に入団。プロ4年目の2021年にようやく一軍で2本塁打を放って開花を予感させたが、その後は再び低迷。今年から外野手登録となり、背番号も22から96に変更となった。
今シーズンも開幕直後に一軍昇格を果たし、4月4日のヤクルト戦ではスタメン出場したもののノーヒットに終わり、4月8日は早くも登録抹消となっている。外野手の定位置争いでは田村俊介や宇草孔基の後塵を拝している状況だ。救いは二軍戦で結果を残しているという点である。4月30日のソフトバンク戦では9回にウエスタンリーグのトップタイとなる決勝の第3号ソロホームランを放ち、打率も3割に迫っている。またチームも得点力不足であり、特に右打者が不足しているというのも中村にとっては追い風となるはずだ。何とかこのまま二軍で好調をキープして、早期の一軍復帰を目指してもらいたい。
中村以上に苦しい立場と言えるのが平沢大河(ロッテ)だ。仙台育英では強打のショートとして注目を集め、3年夏の甲子園では3本のホームランを放ち、2015年のドラフトで2球団競合の末にロッテに入団。徐々に一軍出場を増やし、3年目の2018年には62安打、5本塁打を記録している。しかしその後は度重なる故障もあって成績を落とし、昨年も一軍で3本塁打を放ったものの打率は.170と低い数字に終わった。
今シーズンもここまで二軍暮らしが続き、存在感を示すことができないでいる。ここ数年は二軍では4割近い出塁率を残すなど、既に二軍レベルの投手で結果を残せることは十分に証明しながらも、一軍では確実性に欠けるというシーズンが続いている。内野手登録でありながら外野も守っているが、守備と走塁では他の選手と比べても大きな武器となる部分がないだけに、やはり打撃でアピールするしかない。今シーズンで9年目となるだけに、まさに崖っぷちのシーズンとなりそうだ。
中村と平沢はプロである程度年数が経っているが、近年入団したドラフト1位でも既に危ない状況に見える選手も存在している。それがともに2021年のドラフトで指名された風間球打(ソフトバンク)と吉野創士(楽天)の2人だ。風間は高校3年時に157キロをマークするなど高校球界屈指の本格派として評判となった右腕。この年は他にも好投手が多かったが、ソフトバンクが単独で1位指名している。
将来のエース候補として期待は高く、背番号も1を与えられた。しかし1年目から故障でなかなか力を発揮することができず、過去二年間は二軍も含めて公式戦の登板0に終わっている。昨年オフのアジアウインターリーグでは5試合に登板したが、契約更改では2年連続での年俸ダウンとなった。今年はようやく二軍で登板機会をつかんでいるが、ここまで強いインパクトを残すことができていない。ソフトバンクは育成選手も含めて多くの投手を抱えているだけに、そろそろ結果を出さないと立場はさらに苦しくなりそうだ。
一方の吉野も甲子園出場こそなかったものの早くから評判を集め、単独1位指名を受けて楽天に入団。1年目から二軍では積極的に起用されたが、2年目の昨年は怪我もあって二軍でもわずか6試合に出場に終わり、今年も打率は1割台中盤と結果を残せないでいる。打率は低くてもホームランが出ていればまだ印象は違うが、なかなか体が大きくならず、期待された長打力を発揮できていないのが現状だ。
風間、吉野ともに期待は大きいだけにいきなり戦力外ということはないと思われるが、最近は若手でも育成契約に切り替えるケースも多いだけに、今シーズン中にある程度二軍で結果を残す必要があるだろう。
ドラフト1位の選手はプレッシャーも大きくなり、辛い部分ももちろんあるが、ここ数年では矢崎拓也(広島)が6年目に中継ぎとしてブレイクし、田中正義(日本ハム)が移籍をきっかけにクローザーとなるなど遅咲きの選手も確かに存在している。今回名前を挙げた選手も何とか苦しい立場を跳ね返すような反発力を見せてくれることを期待したい。(文・西尾典文)
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。