少子化危機は日本以上 子育て世代に優しい「デジタル先進国」韓国の保育事情 データで探る ニッポンの伸びしろ(5)
少子化危機は日本以上 子育て世代に優しい「デジタル先進国」韓国の保育事情 データで探る ニッポンの伸びしろ(5)
社会に求められている変化は、見方を変えれば「伸びしろ」でもある。3月8日の国際女性デーに向けて、産経新聞の記者が、ある「数字」を切り口に、女性活躍の現在地や多様性のあり方について考えます。今日の数字は「0・78」と「1・26」です。
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スマホをいじっていると、しばしば周囲に笑われる。待ち受けの画面が5歳と3歳のまな娘の写真ではなく、十年来応援する女性アイドルグループの画像だからだ。しかし、画面に固定せずとも、子供たちの笑顔に触れるのは難しくない。通園する幼稚園とオリニチプ(保育園)からは、毎日のように数十枚の写真が送信されてくるためだ。
韓国の幼稚園から保護者に各種連絡が送られてくるアプリの画面。園内活動の写真も頻繁に送信される(時吉達也撮影)
園とのやり取り、アプリで便利
園児の写真といえば、日本では特定の記念行事の時に限り外部業者のカメラマンが撮影を担当し、有料で配布されるというのが一般的ではないだろうか。韓国ではアプリを通じ、園内での活動を撮影した写真が当日や翌日にも届く。連絡事項も基本的にアプリでやり取りされるため、資料紛失などの懸念も少ない。
こうしたデジタル化の利便性を最も実感したのは、保育施設への入所申請の時だった。日本では自治体に提出する証明書類などの煩雑さに苦しめられたが、韓国ではオンライン上で手続きが済み、役所を訪問したり電話で問い合わせたりする必要もなかった。
歯止めがかからない合計特殊出生率低下
韓国の行政が育児の負担軽減を急ぐ背景には、日本以上に深刻な少子化問題への危機意識がある。女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、日本が1・26(2022年)で欧米の先進国に比べ低水準だが、韓国はさらに0・78(同)まで落ち込み、日本の約6割にとどまる。先日発表された23年の暫定値では0.72を記録し、低下に歯止めがかからない。
保育園側と保護者がオンライン上で意思疎通できる仕組みを作ることは、ママの職場復帰を促進する上でも必要になりそうだ。日本で10年以上の保育士経験があり、現在はソウルの大学で韓国での保育教師資格取得を目指している高梨菜々さん(33)は「韓国では親ではなく、学習塾職員などの第三者が放課後の園児のお迎えに来ることも多い。対面でのやり取りには限界がある」と指摘する。
道行くおじいちゃんの優しさも
一方、初めての海外生活を送る妻に韓国保育の特徴を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「登下校の時、道行くおじいちゃんたちが優しい」。上り坂や段差のある道で、ベビーカーや荷物を支えようと駆け寄ってくる姿が印象的だったという。
結局、各種手続きのデジタル化もそれ自体が目的ではなく、育児に苦闘するママ、パパを助ける手段に過ぎない。そんな原点に立ち返れば、保育環境の改善に向けた新たな「伸びしろ」も見えてくるのではないだろうか。(ソウル特派員 時吉達也)