大谷翔平の「野球しようぜ!」、小学校がグラブの使い道模索…運動場で野球禁止・校長室で保管も
(写真:読売新聞)
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が全国の小学校に贈ったグラブの使い道について、都市部の学校を中心に模索が続いている。安全面から禁止している運動場でのキャッチボールを解禁する動きが出ている一方、活用できずに保管する学校もある。悩む学校向けに、教育委員会が活用方法を提案するケースも出てきた。(斎藤七月)
■ゴムボールで
「グラブは交代で使おうな」。大阪府豊中市の市立南桜塚小で今月9日、昼休みに運動場へ出た15人ほどの6年生がそう声を掛けあって、大谷選手のグラブでキャッチボールを始めた。
同校には1月初めにグラブが届いた。けがの防止を理由に休み時間の運動場での野球などを禁止しているが、大谷選手の意向をくんで同15日にキャッチボールのみを解禁。安全を確保するため、運動場の決められた区画で教員の見守りをつけたうえで、ゴムボールを使うルールを決めた。
6年生の男児(12)は「捕球するのが難しく、練習して上手になりたい。大谷選手の試合も見たくなった」と話す。教諭(46)は「世界的な選手から寄贈を受け、子どもたちにもいい機会になる。ルールを決めれば安全に使えるはず」と語る。
■都市部は狭い
小学校では、けが防止のため、休み時間に運動場での野球を禁止する学校も少なくない。大阪市教委の担当者は「運動場が狭い都市部の学校では校外にボールが飛び出す恐れもあり、仕方がない面もある」とする。
グラブの寄贈を受けてキャッチボールを認めた学校がある一方で、活用方法を決めきれないケースも多い。
豊中市のある小学校は運動場でのキャッチボールを禁止にしているため、グラブを校長室に保管したままだ。児童が1000人にのぼる大阪市内の小学校はクラスにグラブを貸し出し、触れてもらう対応をとる。副校長は「活用方法を検討中だが、キャッチボールできる場所はない」と漏らす。
学校が使い道に悩む背景には、小学校でグラブを使ったキャッチボールを行うことが想定されていない現状もある。
文部科学省によると、1977年に小学校の体育の学習指導要領が改定され、ソフトボールなどの「ベースボール型」の学習が削除された。98年の改定で復活したものの、キックベースボールや、ゴムボールでプレーする手打ち野球が主流となっている。
大谷選手のグラブ寄贈を受けて、市民からバットやボールが寄贈された例も。京都府舞鶴市の全18の小学校には1月、バットと軟式野球ボールが匿名で届けられ、体育の授業で使ったり、方針が決まらなかったりと、学校ごとに対応が分かれた。
■道徳の題材に
神戸市教委は昨年12月、各校に活用方法を提案するメールを送った。提案したのは、キャッチボールコーナーの設置や児童に使用ルールを考えさせるなど11項目。グラブを使えない学校向けに、道徳の題材にしたり、社会貢献について考える機会にしたりする方法も盛り込んだ。辻本美樹子・教科指導担当課長は「グラブを見るだけになるのは、大谷選手の本意ではないと思う。学校現場での工夫を促したい」と説明する。
笹川スポーツ財団(東京)によると、小学校高学年男子のスポーツクラブ加入率は、2021年が約70%で過去6年間に約10ポイント減った。少子化や趣味の多様化が背景にあるといい、同財団シニア政策オフィサーの武長理栄さんは「グラブ寄贈が、子どものスポーツに親しむ機会の増加や、学校でのスポーツのあり方を見直すきっかけになればいい。それぞれの事情に合わせて考えてほしい」と話している。
■全小学校に6万個
大谷選手は昨年11月、自身のインスタグラムで、国内の全小学校約2万校に約6万個のグラブを寄贈すると発表。「子どもたちが野球というスポーツに触れ、興味を持つきっかけになってほしい」とコメントを出した。各校には昨年12月以降に、右利き用2個、左利き用1個の計3個のジュニア用グラブが届いた。